第二十一話 一休み、歓迎会
僕の目の前には、シロエさん。かなり珍しい来客だね。
「どうしました?シロエさんがここに来るのはかなり珍しい。」
「あの…私は、ナナシさんの歓迎会をしたいと考えていて。」
歓迎会。どこか幼稚に聞こえるその響き。僕らの関係からすると、どこかちぐはぐなものに思えるね。
「なるほど。それに協力して欲しいと。そういう話ですね。」
「はい。頼れるのがマグドさんしかいなくて…お願い出来ますか?」
正直な話、ただただ面倒だ。ナナシを歓迎するつもりも無いしね。それに、疑問もある。
「僕しかいないとは?こういうことだと、ユウリさんの方が適任では?」
「そうしたいのは山々です。ですが、今回の歓迎会、ハザマさんの歓迎も兼ねたものにしたいと考えていまして…」
なるほど。それが必要かどうかはともかくとして、ユウリさんの歓迎会をしていないというのも事実。喪中のような状態だったし、すぐにジェルゴの襲来もあった。時間にも心にも余裕が無かったからね。
「なるほど。ユウリさんに頼れない理由は分かりました。では、一番核となる質問をしましょう。そもそも、なぜ歓迎会をしようと?」
そう。そこが謎なんだ。いくらシロエさんがお人好しだからといっても、わざわざ歓迎会までするほどナナシに入れ込む理由が分からない。
「不安だと思うからです。」
「不安?」
「はい。いきなりここに連行されて、ずっとモズさんに監視されて。それに、マグドさんのことを誤解しているようですし。」
…誤解、ねぇ。仮にそれが、敵意を感じると言われたことなら。それは誤解なんかじゃない。僕は明確に、彼に敵意を抱いている。状況が状況なら、この手で排除するほどにね。彼自身も気付いてないであろう、彼の正体を察しているが故に。
「分かりました。出来る限り協力しましょう。」
仕方がない。歓迎したくはないところだけど、後々のことを考えるとシロエさんとの関係がこじれる方が問題だからね。
「ありがとうございます‼︎ところで…歓迎会、何をすればよろしいのでしょうか?」
本当に…この人は、何故そんな状態で歓迎会をしようなんて考えたのだろうか…
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呆れられてしまったでしょうか?何をすれば良いのかも分からないくせに、歓迎会を開こうとして。初めての経験なので、どうしても勝手が分からなくて…
そんな中でも、マグドさんはやることをおおまかに決めてくださりました。おやつと飲み物の準備。それだけで良いそうです。豪華にしようとすると、どうしてもハザマさんの協力が必要になる。だから、お茶を飲みながらゆっくり話すことで親睦を深めるという方に方向を向けるべき。それが、マグドさんの出した結論でした。ナナシさんに安心して過ごして頂きたいという私の目的にも合っていますし、その方針に従うことに。領主館から歩いて行ける村の、おすすめの店も教えて頂いたので、隙を見つけて私が買いに行くことにしました。実行は明後日。どうか、二人に満足していただけますように。
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昨日辺りからでしょうか。領主の様子が少々おかしい。どこか、こちらの様子を探っているようにも見える。私達が盗賊騒ぎから帰った日に使用人と二人で何かを話していたようですし、その際に変なことでも吹き込まれたのでしょうか?にしては、様子が変わったタイミングがおかしい気もする。ナナシの監視に手がいっぱいで、他の監視がおろそかになっていることは否定が出来ない。
「どーしたんだよ。手ェ止まってんぞ?」
「あなたに言われたくありません。」
このナナシの監視も考えると、手が足りない。だからと言って、本島から応援を呼ぶことも出来ない。何故なら、そうすれば彼の存在が本島に伝わってしまうから。別に、最後まで隠し通すつもりはありません。彼の正体も、察しがついています。私の仮定が正しいと確定し次第、彼を本島に連行する気でもいます。ただ。確定するまでは。
「なぁ。マグドってやつ、何で俺を目の敵にしてるんだ?」
「そのようなこと、私が知るわけがないでしょう。」
私の仮定が正しくて、彼も同じ結論に至ったとしても。別に、彼がナナシのことを恨む必要はないはず。彼に問い詰めたいところですが、現状はそれも難しい。
「はいはい。そーですか。アイツにビクビクしながら生きなきゃいけないってこと以外は、割と良い環境なんだけどな〜。監視されてるだけでうまいメシは食えるし。寝るのが椅子なのも、地面の上で寝るのの100倍マシだしな。」
こう言われると、彼に尽くしているみたいで不本意だ。何とか彼を領主館の仕事に利用出来ないだろうか…今は領主の様子がおかしいということより、こちらの方が重要かもしれない。
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今日の内に、昨日マグドさんに教えていただいた店に向かいたいのですが…困りました。なかなかモズさんに隙がありません。まさか…歓迎会をしようとしてることが気付かれてしまったのでしょうか⁉︎
「モズさん。ちょっと話があるんですけど。」
「何の用です?」
モズさんの注意がハザマさんに…良かった。今の内に買い物に行きましょう。ハザマさんがモズさんに話しかけるのが今で良かった。ちょっと運が良かったかもしれません。念の為、モズさんの注意がこちらに向かないか確認しながら部屋を出ましたが…一瞬ハザマさんと目が合った気がしたのは、きっと気のせいですよね?
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夕食後。シロエさんは歓迎会を開いた。僕の紹介した店で無事に目的のものを買えたようだし、これで歓迎会を手伝うって体面は繕えたかな。
「近頃様子がおかしいと思ったら、これのことを考えていただけですか。」
「えっと…気付かれてましたか?」
「いつもと様子が違う、ということだけは。ただ、その理由までは分かりませんでした。」
「歓迎会までしてもらえて嬉しいねぇ。相変わらず誰かさんからの視線は気に食わねーけど。」
「ナナシさん。マグドさんのことを誤解しないで頂けますか?今回の歓迎会、マグドさんが相談に乗ってくださったから開催出来たんですよ?」
「へぇ?あいつがねぇ…」
疑り深いね。いや、鋭いというべきかな。人を見る目だけは充分なようだ。これも、血統の影響というものかな。
「まぁ、どんだけ俺が嫌いでも、当分行動には移す意思がないってことは信じてやる。油断はしてやんねぇからな。」
「杞憂で体力を浪費するのは勿体ないと思うけどね。」
「はいはいそーですね。」
…このガキ…なんてね。怒ってないよ?あぁ、手のひらに爪の跡が出来ちゃったよ。拳を強く握り締め過ぎたかな?まぁ?僕は大人だから、これっぽっちも怒ってないけどね?
それはともかくとして。こんな子供っぽい反応をされたとはいえ、僕とナナシの関係は多少改善された。僕の立場からすると、その一点だけでこの歓迎会は成功と言って差し支えないかな。今回は、影ながら成功に導いてくれた「彼女」にも感謝かな。シロエさんは手助けされていたことにも気付いてないだろうし、気付いたらショックだろうけどね。こうして、シロエさんが急に始めた歓迎会は概ね良い影響をもたらして幕を閉じた。




