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第二十話 不安の種

 出発する前になって。モズさんの隣には、どこかで見覚えのある少年がいた。


「…誰?」


「彼は盗賊の一人。ナナシと呼ばれていた人物です。」


 あぁ、なるほど。盗賊を牢獄に連行するのにあたしも立ち会ったから見覚えがあったのか。


「で、そのナナシ君が何でここに?」


「彼はいろいろ訳ありです。故に、私が直接監視するべきだという判断になりました。このまま領主館まで連行します。」


「だとよ。」


 …いや、訳が分からない。いろいろ訳ありってのの詳細を教えてよ…


「あ、あの…」


「詮索は受け入れません。そういうものだと考えなさい。」


「…分かりました。」


 納得いかない。けど、今モズさんに逆らうのはリスクが大き過ぎる。タイミングを見つけて、裏でマグドさん辺りに情報を探って貰いたいけど、こっちが出す対価次第ってところかな。当のナナシ君はだるそうにモズさんから目を逸らしてる。両腕が後ろなのは、多分手錠で拘束されてるからかな。詮索は後回しにして、あたしは魔力車に乗り込んだ。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 道中。もうすぐ領主館ってところで、ナナシ君が口を開いた。


「そこのあんた。マナロディアを使いこなしてたの、どうやったんだ?」


 …マナロディア?何のこと?


「マナロディアの使い方を詮索しようとしても無駄ですよ。あれはもう、魔法で本島に輸送済みですから。」


 …あぁ、なるほど。あの杖になる魔道具のことか。完全に感覚で使ってたからなぁ。


「俺が詮索ゥ?何の為にだよ。」


「あれを利用して我々から逃げようとでも考えたのかと。」


「ちっげーよ‼︎あぁ、お前とは根本からそりが合わねぇ‼︎」


 モズさんと気が合わなそうって点では仲良く出来そう。ちょいと優しくしてあげるか。


「じゃあ、何で知りたかったの?」


「奪った魔道具を、お前らと戦ったときに使わなかったろ?あれは取り返されたく無いってのもあったけど、そもそも魔道具がじゃじゃ馬だったからなんだよ。特にマナロディア。あれは伸ばせば伸ばすほど重く感じて、とてもじゃ無いけど使いこなせなかったんだよ。それに、部分すり抜けとかも上手くいかなくてさ。その状態で魔力を流して相手を気絶させるなんて出来なかった。」


「それは、魔力の管理が上手くいってないんじゃないかな。あたしは魔力車の運転で慣れてたから使えたのかも。」


「はーん。そんなもんかね。」


 彼は、どこか納得してないように返事をしながら窓の外を見る。そんな彼を見たのか、モズさんがあからさまにため息を吐いた。どうせあれでしょ?余計な情報を流すなってことでしょ?ただ、勘でしかないけどナナシとは良い関係を築いた方が良い気がする。あくまで勘だから、もしものときは容赦なく切り捨てるけど。そっからは、誰も喋らず。静かな旅路を経て、領主館まで戻ってきた。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「おかえりなさい。」


 柔らかい声が、あたしを迎え入れた。シロエさんに会うのも久しぶりに感じる。少し、ほっとする。


「ただいま戻りました。」


「お出迎え、ありがとうございます。」


 そんなシロエさんの後ろに、マグドさん。彼はあたしの後ろを見ていた。モズさんと、彼女が捕らえているナナシ君を。


「おかえり。それで、後ろの彼が…」


「えぇ。彼がナナシです。」


 つまらなそうに、彼はマグドさんから目を逸らす。そんなことに構わず、マグドさんは彼の方へ向かう。


「やぁ、ナナシ君。歓迎するよ。君が来るまで、しばらくこの領主館には僕一人しか男がいなくてね。少々肩身が狭かったんだ。」


 ナナシ君は、マグドさんの方を向かない。何でだろう。


「俺が、あんたに何かしたか?」


「…どうしたんだい?」


「あんたからは、俺に対する敵意を感じる。」


「それは、多少の警戒はしているさ。君は盗賊だったんだからね。」


「いや、警戒じゃない。警戒ってのは、探るように触られる感覚だけど、肌に突き刺さる感じはない。ちょうど、闇女とか運転手から感じてたみたいな感じだ。ただ、あんたの視線は何か刺さる。これは敵意だ。俺には分かる。」


 あたしは運転手って認識ですか。一応運転以外もやってるんだけど、まぁ闇女とか呼ばれるよりかはかなりマシか。


「言いがかりはやめて欲しいところだけど、仕方がない。出来るだけ干渉しないようにするよ。」


「そーして貰えると助かる。」


 それにしても。仮にナナシ君の感覚が正しいとすれば、シロエさんはナナシ君に警戒心も敵意も無いってことになる。聖人か何かなの?


「それで?ナナシ君は領主館のどこで暮らすんです?」


「彼は、私の部屋で暮らして貰います。」


 …は?モズさん、ショタコン?なんて冗談はさておき。ここまでやるってことは、かなり訳アリだね。多分、モズさんの部屋を選んだ理由は、近くで監視出来て、なおかつ領主館内で唯一物理的な鍵がかかってるからかな。ここまであからさまに重要視されてると、ナナシ君のことを調べなかったせいで後々足元を掬われるリスクと、ナナシ君のことを調べてたことがバレるリスク、どっちが大きいか良く考えなきゃいけないかも。調べるならマグドさんに頼ればバレるリスクが低いかもだけど、マグドさんからどんな要求をされるかも分からない。調べて欲しいって話を持ち出した時点で弱みを見せることになる。だから、よっぽどの要求じゃない限り従わなきゃいけない。話を切り出すべきかも慎重に考えないとね。

 考えながら行動しているうちに、いろんなことが終わった。ナナシ君とモズさんが二人で生活出来るスペースを確保する為、モズさんの部屋にあった資料や本棚の一部を空き部屋に移動させて仮の資料室みたいにしたり。あたしには関係ないことだけど、盗賊騒ぎの内に溜まっていたモズさんの仕事の一部をマグドさんに割り振ることなんかもしてた。力仕事を手伝ったから、流石に腕が痛い。少しでも疲れを癒そうとベッドに寝転がる。眠りかけたタイミングで、ノック音。ドアを開けると、シロエさん。


「あれ?シロエさん。どうかしましたか?」


「少し、あちらにいたときの話を伺いたくて。」


「あちらというと、盗賊確保の話ですか?」


「はい。」


 そういえば、シロエさんと二人で話すのは久しぶりな気がする。


「大丈夫ですけど、あたしから聞かなきゃいけない話ってあります?」


「魔道具を使ったと伺って。身体の調子はいかがですか?」


「その話ですか。大丈夫ですよ。使ってるときはキツかったですけど、寝たら元通りになりましたから。」


「その話です。使ってるときの症状はどのようなものでしたか?」


 どうしてシロエさんがこんなことを?単純に心配してくれてるにしても、ちょっと不自然な気がする。モズさんの差し金かなんか?だとしたら情報を流し過ぎたくない。マナロディアはもう返したから使う機会が無さそうとはいえ、立派な弱み。いつか敵対したときにその弱みを突かれたら嫌だからね。


「うーん、酷い立ちくらみって感じでしたね。無理すれば戦い続けられるでしょうけど、そうしたら副作用が更に酷くなりそうで嫌ですね。」


 だから、一番大事なことは言わないで伏せておく。マナロディアを使った副作用が、初めて魔力車を使ったときと少し似てる気持ち悪さだったってことを。


「そう、ですか。」


「心配してくれたのはありがたいですけど、今言った通り少しつらかっただけですから。」


「なら、良かったです。」


 言葉とは裏腹に、シロエさんはどこか寂しそうで。もしかしたら、誰の差し金でもなく単純に心配してくれてたのかも。だとしたら、要らない警戒をしたせいで傷付けちゃったかな。いや、でも何であたしが隠し事してるって気付いた?それとも、あたしの気にし過ぎ?


「ただ、あたしは基本的には魔法は使えませんし戦力外です。だから、あたしに何かあったらあるじ様が守って下さい。」


「そうさせて頂きます。」


 シロエさんは変わり者だ。あたしが守ってって頼んだら、さっきまでの寂しそうな雰囲気が薄くなった。


「あたし達がいない間、こっちはどうでした?」


「特に変わったことは…強いて言えば、マグドさんが家事をこなしてくださりました。私の衣服の洗濯は辞退していましたが。私は気にしないんですが…」


「いや、それは気にして下さい。」


 なんだかんだ、マグドさんもモズさんも家事は出来るらしい。正直、自分の存在意義って?って思わなくもない。地球の知識を活用しようにも、簡単に作れるものは既に伝わってる。地球ほどの完成度じゃないとはいえ、ポテトチップスもマヨネーズもすでに存在する異世界ってなんなの?って感じ。


「あるじ様は家事とか出来るんです?」


「掃除は人並み程度には。料理や洗濯は…教わる機会が無かったので。」


 ちょっと反応に困る。あんまり良くない質問だったかも。いつだったか、魔力車を運転してるときにみんなに子供の頃の話を聞いたら酷い雰囲気になったことがあったっけ。うかつだった。


「じゃあ、いつか教えましょうか?」


「良いんですか⁉︎」


 思ったよりくいついてきて、半歩下がる。ちょっとからかうか。


「良いですよ。あるじ様が早く起きれたら教えてあげます。」


「…いじわる。」


 子供っぽい一面。ただ、本当にシロエさんに料理を教えてあげたら。そうしたら、数少ない優しい思い出に浸れる気がした。それが現実逃避と言われても構わない。


「冗談ですよ。ただ、いろいろ言われるのも面倒です。モズさんがナナシ君の監視に慣れたぐらいの時期に切り出してみましょうか。」


「え?別にモズさんの許可は必要無いと思いますすけど…」


「念の為ですよ。念の為。」


 このタイミングで変わったことを始めたら、悪だくみって邪推されかねない。こっちを監視出来ない隙を狙ってるって見えるからね。


「では、料理は良き時期に教えて下さい。」


「分かりました。」


 それから、いろいろ雑談をした。シロエさんが雨を降らせたあの村は、今はちゃんと雨が降ってるらしいだとか。ジャックさんやバッシュさんが生きてたときに行った村からのお礼も来て、懐かしく思っただとか。モズさんと二人きりのときに気を張ってたからか、シロエさんと過ごす時間は正直心が楽だった。

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