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第十九話 ナナシ、解禁

 何事も無く、村の出入り口を封鎖した。モズさんに連絡したところ、もう片方の出入り口も無事封鎖出来たみたい。あとは盗賊を捕まえるだけ。


「あちら側の出入り口の封鎖も終わったみたいです。作戦を開始しましょう。」


 盗賊が潜伏してる建物はもう分かってる。モズさんは副秘書長だから、魔力セキュリティを突破出来る。壁や鍵を壊してっていう、物音を立てる方法を使わずに侵入出来るから、奇襲の成功率は高いはず。それでも慢心せずに警戒しておく必要はあるけどね。モズさんが手振りで合図を出す。突入開始のサイン。自警団の人達が突入して、あたし達は後ろから着いて行く。少しすると、激しい物音。戦闘が始まったみたい。戦いの様子を見てると、魔法を使ってる様子も。シロエさんとかジェルゴとかの魔法ばっかり見たからかな。なんか、盗賊や自警団が使ってる魔法が弱々しく見える。あたしは隙を見つけて建物の中心を目指す。途中盗賊に狙われそうになるけど、自警団の人が近くにいることを確認しながら進んでるから問題ない。決して魔道具を横領する気じゃない。だからと言って、ただ見てるだけってのは嫌だ。こういう機会が来ちゃったからには、信用を得る為に動くだけ動いておきたい。


「なんだお前は⁉︎」


 奥の方の部屋のドアを開けたところで、盗賊に見つかった。あたしの近くに自警団の人はいない。ちょっと焦ったかな…盗賊の足元には丈夫そうな袋。多分アレが盗んだもの。盗んだものは魔道具、だよね。なら、賭けるしかないか。


「ほいっ。」


 スッと盗賊に近付く。あたしが逃げると思ってた盗賊は一瞬判断が遅れる。その隙に隠し持ってた砂を顔に向けて投げつける。砂が目に入ってもがいてる隙に後ろ手に手錠で拘束。膝カックンで転ばせて部屋の中に入る。魔道具の入った袋を回収。後ろを確認すると、氷弾があたしを狙ってた。魔法があるから、手錠をしても完全には無力化出来ない。厄介だね。何はともあれ、深追いはしない。窓を開けて建物から脱出する。追手が来ないことを確認して中身を確認。中の魔道具は5つ。革の手袋、木製のネックレス、魔法陣みたいな模様が入ってるだけのタバコサイズの木の棒、艶のない真っ黒の羽根ペン、ライオンを模した純白の銃。聞いていた魔道具は全部ある。強襲だったからか、これを使わずに戦ったみたい。出し惜しみした結果、こうしてあたしに取られる。


「…え?」


 一瞬、木の棒が光った気がした。その光が、あたしを呼んだ気がした。


「…はいはい。やりますよ。」


 自分に言い聞かせるように呟く。魔道具を奪っただけでも、充分戦力を削いだ。それどころか、今回のあたしのすべきことは、自警団が盗賊の得た魔道具を横領するのを防ぐこと。だから目的はもう達してる。そうは分かってても、さっきの光が心を鼓舞する。このまま逃げたら、横領する気だったとモズさんに決めつけられるかもしれないと。そうならない為に、魔道具の力を活用して横領する気では無いと証明しろと。


「やれば、良いんでしょ…」


 木の棒を手に取って、建物のドアに向かって走り出す。走りながら、木の棒に魔力を込める。魔力車の運転をしてたおかげで魔力の管理に慣れてて良かった。魔力を込めると、木の棒が太く、長くなる。まるで杖のように。開いたままの扉をくぐると、ちょうど鍔迫り合いに押し負けそうになってる自警団の人が。戦いの隙を見て、盗賊を杖で突く。そして、追加で魔力を流す。盗賊が弾かれたように後ろに飛ぶ。これが、この魔道具の能力。魔力を込めることで、使用者の思い通りの大きさに変化する。そして、攻撃対象が杖に当たってるときに追加で魔力を込めることで使用者の魔力に応じたダメージを攻撃対象に与える事が出来る。


「た、助かりました…‼︎」


 そんな声に反応して、あたしは鍔迫り合いをしてた自警団を見る。軽い笑顔と会釈を返し、建物の奥へと向かう。あたしが魔道具を持って建物の外に出ている内に、事態は収束に向かいつつあった。まぁ、あたしが魔道具を取ったせいで盗賊側の戦力が減ってるってのも影響ありそうだけど。どっちかというと、モズさんが想像よりも本気で戦ってるのが一番の原因かな。と、視線の端に、自警団に不意打ちを仕掛けようとする盗賊。杖を伸ばして、横薙ぎで盗賊を狙う。それに気付いた盗賊は剣で杖を防ごうとする。あまり見せたくなかったけど、奥の手。長さが自由のこの杖。途中だけ当たり判定が無い杖なんかにも出来る。盗賊の剣にぶつかるところの当たり判定だけ消して、防御をすり抜ける。すり抜けたら当たり判定を戻す。盗賊は戸惑っている内にあたしの杖にはたき落とされる。あたしは魔力を流し込み、追撃。盗賊は呆気なく気絶する。奥に、窓から逃げようとする盗賊。一気に杖を伸ばして攻撃。魔力を流し込んで気絶させる。これだけ見るとめちゃくちゃ強い魔道具みたいに見えるけど、魔力の消耗は割と激しい。無駄使いは厳禁だね。一時的に魔道具への魔力の供給を止めて、杖を元の木の棒に戻す。と、同時に、力が抜ける感覚。それに目眩も。少し立ちくらみにも似てる。急に魔力を使ったからかな?軽く壁にもたれかかる。


「私達はただ、自警団による魔道具の横領を防げば良い。矢面に立って戦う必要は無い。それはあなたも分かっているはずですよね。」


 聞き慣れた声。視界は朧気だけど、目の前にいるのが誰か分かる。あたしは手の感覚だけで魔道具の入った袋と、使った木の棒の魔道具を目の前の人物に差し出す。それと同時に、だんだんと感覚が元に戻っていく。


「横領を防ぐなら、直接回収するのが確実です。それに、モズさんも結構本気でしたよね。」


 感覚が元に戻り、視界もハッキリする。声で分かってはいたけど、やっぱり目の前にいたのはモズさんだった。モズさんは、荒々しい手付きであたしが差し出した魔道具を回収する。


「あれで本気?心外ですね。それはそれとして、です。あなたはかなり消耗した様子ですね。今回のあなたの働きは、上出来だったと認めざるを得ません。」


 モズさんは、あたしが渡した棒の魔道具をあたしに手渡す。


「今回の戦闘中、これを貸与します。事態の収束に貢献しなさい。」


 魔道具を渡す辺り、モズさんなりの信頼なのかもしれない。思ったより体力と魔力を消耗するしで、出来ればもう戦いたくないけど。ここで戦った方が今後の信用には良い。受け取った魔道具に魔力を流す。そういえば、杖って意味だとモズさんとお揃いか。なんかやだな。如意棒みたいで使いやすいから使うけど。


「ありがたく使わせてもらいます。」


「戦闘後は返却するように。」


「りょーかいです。」


 とはいえ、既に戦況はもう収束に向かいつつあるんだよなぁ。と、拘束した盗賊を解放しようとしに来た盗賊を発見。あたしは物陰に隠れる。手錠に触れた隙を狙って、背後から杖を突きつけて魔力を流す。気絶した隙に拘束。手口が汚い?しょうがないじゃん。真っ向勝負で勝てるわけ無いから。この様子じゃ、ここの番をしてるだけでも充分な戦果かな。気絶から復帰して、なんとかして手錠を外そうとしてる盗賊。逃げれないところに魔力を流して気絶させる。


「あ、あの…」


 盗賊を連行してきた自警団の人が怯えた目であたしのことを見ていた。まぁ、確かに容赦無さすぎだったことは認めるけど、そんなドン引きされても…


「ちょうど良かった。戦闘の状況は?」


「は、はい。無力化して連行中の盗賊多数。これで大半の盗賊を確保済みです。対してこちらは怪我人数名。いずれも軽傷です。」


 多分、こんなに早く戦いが終わりそうなのはモズさんの闇魔法の影響だろうね。闇魔法は、人を殺さずに捕まえるには最適。


「ところで、秘書様はどちらへ?」


「え?」


 そういえば、あたしが魔道具を渡してからはどこに行ったか知らない。詳しく聞こうとしたタイミングで、盗賊が次々に連行されて来る。モズさんのことは一旦後回し‼︎


「盗賊を無力化した方は、捕らえた盗賊をこの部屋に‼︎手が空いている人は逃亡した盗賊がいないか捜索して下さい‼︎」


 ひとまず、今回の事件の幕を引こう。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 結論から言うと、モズさんは建物から逃げた盗賊の存在にいち早く気付いてたらしい。盗賊を捕らえたついでに、収容する牢獄の手配までしていたらしく、逃げた盗賊は一足早くその牢獄に収容されてた。村全体を再調査した後に、封鎖していた村の出入り口も復旧した。ちなみに、木の棒の魔道具はモズさんと牢獄前で合流した時点で返した。正直な話、これさえあればマグドさんの札が無くても最低限戦えそうだし、貰えるものなら欲しいけど…まぁ、約束破ったらせっかくの信頼がパーになっちゃいそうだから仕方ないね。

 夜になって。あたしは、村の宿のベッドで寝転んでた。明日の昼にこの村を出発。領主館に戻るって日程。それまでの時間までは、モズさんにやることがあるらしい。出来れば早く領主館に戻りたいから、早く用事を済ませて欲しい。それに、モズさんのやることってのが詳細を教えてくれないのがどうにも胡散臭い。まぁ、マグドさんとかが謀るよりかはまだ怖くないけどね。


「この際、隠れて尾行でもしようかな…」


 言うだけ言って、その案を却下する。モズさんはそういうの鋭そうだしね。とにかく、今日は寝よう。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 深夜。牢獄の前。私は気配と姿を隠し、様子を監視していた。私の予想が正しければ、奴らはそろそろ動き始めるはず。本来なら、私達が寝ているこの時間に。私の予想を肯定するかのように、物音。見ると、牢獄の中にいた少年が魔力錠に触れ、扉を開けていました。脱獄しようとする盗賊達を闇魔法で無力化する。


「最初から、おかしいとは思っていたんです。報告が正しければ、王城の保管庫には扉を破壊した形跡もなかった。ならば、どんな原理にしろ魔力錠を解錠出来る人物がいる…それが、あなたという訳ですね。」


 少年だけを手錠で拘束し、他の盗賊は牢獄に放り込む。手錠をした少年を牢獄から遠ざける。


「あなたには聞きたいことが山ほどあります。何故魔力錠を開けられるのか。何故盗賊達と行動を共にしているのか。名前は。ひとまずその三つを答えなさい。」


「…知らねぇよ。何で鍵を開けれるかなんて。王都付近のスラムで暮らしてたら、鍵開けれるってことが分かったから拾われただけだ。だから…名前も無い。アイツらからは、ナナシって呼ばれてる。」


 それが私、モズ・レイブルスと、ナナシを名乗る彼との出会いだった。

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