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第十八話 疲れた心に鞭打って

 あれから数ヶ月が経った。あたしはというと、相変わらずシロエさんに付いてまわってる。思ったより領主館でゆっくり出来る日が多いっていうのは嬉しい誤算ってやつ。ジェルゴの一件が終わってすぐに雨事件があったから、ほぼほぼ毎日いろんな村を周るのかもとか思ってたから…


「ほら、朝ですよ。」


 今日も領主館から出ない日。いつも通り、シロエさんの寝起きが悪い。まったく。今日のコーンスープは自信作だから冷める前に食べて欲しいんだけど…


「あるじ様〜。」


 カーテンを開けて、部屋の明かりも点ける。眩しそうに腕で目を隠す。


「いや、目隠さないで下さいよ。」


 隠しちゃ明るくした意味無くなるじゃん。パンパンと耳元で拍手。「ぅゅんっ‼︎」っていう可愛い悲鳴をあげて、ようやくシロエさんは目を覚ました。


「あ、その…おはようございます…」


 ちょっと照れ臭そうに言うシロエさん。多分、今の声を自分でも気付いたのかな。何この可愛い生物。


「おはようございます、あるじ様。」


「あの…ハザマさん…さっきの声…」


「えぇ。聞きましたよ。」


「聞かなかったフリしてくださいよ…」


 今日は、何というか…まだマシな日になりそう、かな。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 一旦やることに区切りがついて。ベッドに飛び込み寝転がる。そのまま窓に手を伸ばす。シロエさんに付いていくよりは楽なはずなのに、どこか息苦しくて。会わないとはいえ、モズさんが近くにいるのに息苦しさを感じてるのかな?いや、なんか違う。そうして考えていく中で、今日見たシロエさんの姿を思い出す。どこか子供っぽく、愛らしく見えた姿を。

 …あぁ、そっか。あたし、いつの間にか好きになってたんだ。シロエさんと二人で過ごす、あの時間が。


「あ〜あ。何やってんだかね〜、あたし…」


 自分が助かる為なら、何だっていい。そのはずだったのに。思えば、ジェルゴ戦の最後。ジェルゴじゃなくてシロエさんを選んだのも、もしかして…いや、そんな早くからなわけないか。そっと目を閉じる。フッと身体が浮くような感覚。目を開けて時計を見ると、30分未満ではあるけど寝てたみたい。ため息をつく。軽く伸びをして、ベッドから降りる。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 晩御飯の時間になって、面倒なことになった。盗賊が海を渡ってこっちまで来ただとか。その対応をあたし達がしなきゃいけないらしい。そんなの、自警団に任せればいいって言いたいところだけど、どうやらそうもいかないみたい。その盗賊ってのは、本島から魔道具を盗ってきたみたい。それが横領されるのを防ぐために、あたし達がっていう流れ。一番不安なのが、今回のメンバー。まさかのあたしとモズさんの二人。今から不安しかない。一番強いシロエさんがメンバーから外されるのが訳が分からない。

 文句を言っても仕方ない。朝ご飯を食べたらすぐ出発らしいから、ゆっくり寝ようとする。緊張からか、短時間とはいえ変な時間に寝たからか。いつも以上に寝付けなくて。話をしていたときのモズさんの姿を思い出す。どこか思い詰めたような顔をしていた。あの顔は、多分何か隠してるはず。それとなく探りたいけど、多分難しい。元々あたしに対する警戒心は高いのに、いつも以上に警戒してるだろうからね。あーあ。いつも通り、シロエさんとだったら良かったのに。ポケットから札を出す。あたしがこれを持ってることは、出来るだけモズさんに知られない方が良い。持ってる札を数える。



光魔法:4枚

火魔法:1枚

水魔法:1枚

風魔法:1枚

闇魔法:2枚

妖魔法:0枚

氷魔法:0枚

雷魔法:2枚


 妖魔法は使いこなせれば強いから1枚は欲しかったけど、マグドさんと相性の良い札だから出来るだけ自分で持ってたいとのことで、妖魔法の札はやけに出ししぶる。代わりに氷魔法の札を貰っても良かったんだけど、なんとなく雷魔法の札が気になったから1枚余分に貰ったから、2枚。今思えば、余分に貰うなら光魔法にすれば良かったかもしれない。札を貰ったときは知らなかったこととはいえ、今回みたくモズさんと二人なら。なおさら光魔法は必要。

 それと、今回の場合は札を持って行くべきかどうかって問題もある。非常時に魔法が使えないリスクと、札を持ってることがモズさんにバレるリスク。どっちが面倒か考えないと…とりあえず、中間択として光魔法の札を2枚だけ持って行くのもアリ…いや、迷走してるかな。それだけ持って行くなら全部持って行ってもあんまり変わらない気もする…


「…置いて行くかぁ…」


 今回は自警団を支援するだけだから、魔法を使わなきゃって場面はあんまりなさそうだし、それなら札を見られるリスクを無くした方が良さそうかな。どこに隠そう。シンプルに引き出しの中かな。鍵をかけれないのが不安だけど、シロエさんは他人の引き出しを漁ったりする人じゃないはずだよね。方針も決まったことだし、今日はもう寝よう。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 次の日の昼。あたしとモズさんは自警団の前にいた。正確には、あたしはモズさんの付き人みたいな立ち位置だけど。この点に関しては心の底から不満。


「良いですか?目標は、まずは確保です。最悪の場合は殺害を許可しますが、それは自分の命に危機が迫った場合のみとします。私も同行、援護はする予定ですが、二班に分ける都合上過信はしないように。」


 そう前置きして、モズさんは集まった自警団を2つの班に分けた。情報よると、この先の村に盗賊がいるはず。そして、その村には出入り口が2つある。柵を壊したり、越えたりして逃げない限り、そこの2つさえ押さえておけば取り押さえることが出来るはず。そしてモズさんは、一旦この2つの出入り口を同時に塞ぐことにした。確実に捕まえる為に。


「…何故あなたがここにいるのです。あなたは北の出入り口の封鎖を監督しているはずでは?」


「ちょっと、聞きたいことがあって。」


「作戦内容を把握していなかったのですか?」


「いえ、聞いてたからこそ意外に思って。本島のものを盗ったって、かなりの大罪ですよね。モズさんなら全員処理するかとばかり。」


「処理、ですか。心外ですね。私が血も涙もない某君とでも?」


 あたしのことを殺しかけたくせに言うんだ、って思っても口にはしない。あたしがこれを聞きに来たってだけでイラついてるだろうし、これ以上はあんまり刺激しない方が良いよね。


「そーですか。あたしの考え方がちょっと過激過ぎたかもしれません。ごめんなさい。」


 そう話を合わせて、あたしは持ち場に向かった。と、女の子がこっちを見てた。自警団にしては明らかに若いし筋肉とか無さそうだし、自警団じゃないよね。多分部外者だし、離れてて貰わなきゃ。


「あの〜、今ここでいろいろあるので。ちょっと離れてて貰っていいですか?」


「あ、すみません…あなたが領主様の秘書様ですか?」


「秘書じゃなくて使用人です。秘書に会いたいなら連絡魔法で呼びますか?」


「あ、いえいえ。使用人様でも‼︎私、ちょっと人を探してて‼︎」


 うーん、ジェルゴが一般人のフリをして話しかけてきたときのことを思い出しちゃう。どうしたもんかな…とか考えてるうちに、後ろから物音。封鎖する前から脱走した盗賊⁉︎急いで振り返ると、そこには自警団の制服を来た20代ぐらいの見た目の男の人が。班分けのときにも見かけた人だし、変装してる盗賊っていう可能性は無さそう。


「ユウリ様。お待ちしておりましたよ…え⁉︎スレーン⁉︎」


「あ、にいさま‼︎」


 スレーンと呼ばれた女の子は、安心したみたいな笑顔を向けてた。発言から察するに、自警団の内のメンバーの妹さんかな。スレーンちゃんは、布に包まれた大きな箱を持ってた。


「使用人様を通して渡そうと思ってましたが…にいさまがいるなら、直接‼︎食べる時間は無いかもしれませんけど、良ければ‼︎」


 普通に良い子っぽい。来た自警団の人も照れ臭そうに笑ってる。女の子は視線をこっちに向けると、こっちにも笑顔を向けた。


「お口に合うか分かりませんが、使用人様も良ければ是非‼︎」


 うん。良い子だ。こんな子に騙されたり罠に嵌められたりしたら世界を信用出来なくなる。


「ありがとうございます。せっかくなので、みんなで食べさせて貰いますね。スレーンさんも一緒に食べませんか?」


「分かりました‼︎」


 あたしはスレーンちゃんを連れて、監督する班のメンバーの元に向かった。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 現状を整理しよっか。目標は、この先の村にいる盗賊の確保。盗賊はこの村に泊まる旅人のフリをしてこの村に滞在してる。なおかつ、自分達が盗賊だとバレてないと思ってるようで、この村に隠れてほとぼりが冷めるのを待とうとしてる可能性が高そうとのこと。だから出来るだけ盗賊達を刺激しないように行動する必要がある。だから村から少し離れた位置に出入り口を封鎖するのに必要な木材とかは集めて、夜の内に出入り口を封鎖する。なら昼に領主館を出れば良かったのでは?と思うかもしれないけど、準備している内にこっちの動きがバレてないか、盗賊の動きを監視する必要がある。


「準備、終わりました‼︎」


 拠点に戻ると、素材が集め終わってたみたい。


「ちょうどいいですね。こちらの方が差し入れを持って来てくれたんです。みんなで食べましょう。」


 スレーンちゃんが持って来た大きい箱には、たくさんのご飯が。見た目っていうか、盛り付けがかわいい。あたしが捨てて来た女子力がそこにはあった。なんというか、眩しい。

 大丈夫とは思うけど、一応スレーンちゃんの動きを見てた。流石に怪しい動きはしてなかった。念の為に見てただけだから、予想通りではあるけどね。ただ、意外と社交的なところもあるというか、自警団の人達と話しているときは自警団の人達と同年代みたいな雰囲気があったというか。

 ご飯が食べ終わったら、スレーンちゃんには帰って貰ってから作戦の最終確認。作戦の開始時間と、モズさんの側との情報共有の仕方。効率よく封鎖する手順。封鎖してから盗賊を捕まえるまでの動き。


「それじゃあ、言った通りの手順で。行きましょう。」


 時間だ。どうか、何のトラブルも無く終わりますように…なんかこれ、フラグっぽい?

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