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第十五話 領主館の食卓・黄色い百合の答え

 シロエさんの仕事復帰初日の早朝。あたしは領主館のキッチンにいた。一応大事な日だし、朝から手の込んだ料理を作ろうと思ったから。だからといって豪華にし過ぎても朝からそんなには食べられ無いだろうし、見た目ではあまり豪華に見えないけど、実は少し手間がかかる感じの料理にしようかな。あたしは記憶を辿って、なんちゃってコンソメスープを作ることにした。あっちならコンソメの素があるから簡単だけど、0から作るのは割と難しいってどっかで聞いたことがある気がしなくもない。レシピを知ってる訳じゃないから上手く再現出来るかは不安だけど、やれるだけやってみるか。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 変な時間に目が覚めてしまいました。私はそれを、窓の外の日が登っていないのを見て理解しました。もう一度寝ても良いのですが、やめておきましょう。きちんと起きるべき時間に起きられなくなりそうですね。伸びをして頭に血を巡らせてからしっかりと歩き、クローゼットへ。いつも通りの制服に着替える。時間を確認しようとして古びた時計を見て、胸に痛みが走るような感覚。今の私がしていることをあなたが見たら、あなたはどうするのだろう。

 そんなことを考えていると、なにやら良い香りが。台所に行くと、使用人が何かを作っているようです。こんな早くから作り始めるのですね。ハザマユウリ。私があなたにしたことは、決して許されるとは思っていません。しかし、私には私の為すべきことがあり、果たすべき忠義がある。故に、謝罪することはあっても後悔はしません。あなたが私の忠義を邪魔するようなことがあれば。私はあなたを…躊躇なく排除します。

 …ただ、この匂いは、嫌いではありませんよ。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 料理が出来たタイミングで、まずはモズさんの部屋に。扉を叩くと、すぐに鍵が開く音がした。開いたドアの向こうから、きちんと制服姿のモズさん。


「おはようございます。朝ご飯が出来たから呼びに来ました。」


「分かりました。すぐ向かいます。」


「あるじ様は朝弱いですし、そんな急がなくても良いですよ。」


 一瞬、モズさんがイラついたような視線をあたしに向ける。すぐに冷静な目に戻ったのか、それともさっきのイラついたような視線は見間違いだったのか。少なくとも今は冷静に見える。


「じゃあ、マグドさんとシロエさんを起こしてきますね。」


「分かりました。」


 ちなみにこの起こす順番は、役職が下の人が一番待つべしって考えらしい。シロエさん的にはあまり好きじゃないけど、そーいう決まりだから仕方ないんだと。

 マグドさんの部屋に向かって歩く。全く。マグドさんは何もかも掌の上って感じで何を考えてるか分からないし、モズさんは地雷がどこにあるか分からないうえに隙を見せたら命を狙ってくることもあるし。シロエさんが負けかけた時点でジェルゴにでもつけば良かったかな。まぁ、日本に戻ったら戻ったで良いこともないんだけど。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 シロエさんの部屋のドアをノックする。


「あるじ様〜。料理が出来ましたよ。」


 ドアを開けて中に入る。どうやら部屋の主はまだ寝てるみたい。本人から遠慮なく起こしてって言われてるから、あたしは遠慮なく掛け布団を剥がす。今日もこれで起きないかぁ。次の手として、パンパンと大きく音を響かせるように拍手。ここまでやって、ようやくシロエさんはゆっくりとまぶたを開けた。


「おはよ、あるじ様。」


「…おはようございます、ハザマさん…あっ‼︎済みません‼︎待たせてしまいましたか?」


「それは大丈夫。結構早く起きてくれましたからねー。」


 あたしがカーテンを開くと、差し込んだ朝日が部屋を照らした。その光を嫌がるみたいに、シロエさんが目を細める。まったく、朝に弱いのが全然直らないなぁ。結構早く起きてくれたって言ったみたく、これでもまだマシな方。もっと起きない日もザラにある。そんなときはまぁ、さっきの拍手を顔の近くでやったり、カーテンだけじゃなくて窓も開けたり。


「じゃ、朝ご飯食べに行きましょ。二人とも待ってますよ。」


 あたしが差し出した手を握って、シロエさんはベッドから降りる。そうして軽く俯くと、彼女の長い白髪をリボンで手早くポニーテールにしてあげる。櫛を通すのは、ご飯を食べて着替えてから。そのままあたしとシロエさんは食卓に向かった。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「みなさん、おはようございます。」


 食卓にたどり着いたシロエさんが、部屋にいる二人に呼びかける。マグドさんにモズさん。モズさんはシロエさんが声をかけるまでジッと料理を見てた。訳の分からない人だけど、食欲には忠実なんだよなぁ。表情に出してないつもりだろうけど、隠しきれてない。まぁ、シロエさんは気付いて無いだろうけど。


「おはよう、シロエさん。よく寝れました?」


「はい。休養を頂いた分、今日からまた精進させていただきますね。」


 あたしはシロエさんの斜め後ろに付いて周る。そしてシロエさんが席に近付くと、ちゃんと座れるように椅子を後ろに下げる。シロエさんはあたしに笑いかけて椅子のあった位置に立って、あたしは後ろから椅子を押す。そうしてシロエさんの食事の準備をし終えると、あたしはエプロンから出した匙でシロエさんの分の料理を少しずつ口にする。そこでしばらく立ってから自分の席につく。


「こちらの作法も、様になりましたね。」


 まったく。いちいち口を挟んでくるなぁ。モズさんは。そんな軽いイラつきを隠すように明るい声で返す。


「別にここの作法だから従いますけど、正直毒見って意味あります?あたしがあるじ様をどうにかしようなんて、ある訳無いですし。」


 あたしは笑顔で冗談めかして答える。モズさんは目を伏せ、その後あたしに鋭い視線を向ける。


「作法は作法。万が一の事態も防がねばなりません。それを努努、忘れなきよう。」


「はいはい。分かりましたよ。じゃあ、食べ始めましょう。」


 あたし達四人は祈るように手を重ね合わせてから目を瞑る。そして同時に唱える。


「「「「大地に、空に満ち溢れる力に感謝を込めて。」」」」


 最近ようやく言い慣れたレイブルス流のいただきます。しばらくしてからあたし達はまぶたを開けて食事を始める。


「あら、このスープは特に美味しいですね‼︎」


「君の作る料理は見たことの無いものも多い。とても新鮮だよ。」


 好評みたいで良かった。レイブルスに地球側の料理は大概あるみたいだけど、たまたまこれは無かったらしい。まぁ、王家のある本島ではもっと完璧なコンソメスープが食べれるのかもだけど。


「あるじ様、お目が高い‼︎そのスープ、結構手間かかってるんですよ。私のいた世界にコンソメスープってのがあるんですけど、こっちにはコンソメスープの素が無い。だから鶏肉といろいろな野菜から出汁を取って、香草を添えてなんちゃってコンソメスープを作ったってわけ。いやぁ、今まで素に頼りすぎてたって痛感させられたなぁ…」


 あたしの料理の解説を聞きながら微笑むシロエさん。これがあたし、境界悠里の現状。

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