The Log 002
本野ジンが目覚めたポッドの左側の部屋、
ジンが本能的に避けたその先にはこの地下設置型指揮官機整備用前哨基地、SMS[R]を管理するAI 、開発者によって「おおいなるはは」と軍事施設を統括するAIとは思えない名前をつけられたソレが宿る「コオレ活用型大型演算装置」が置いてあるサーバールームのような見た目の部屋がある。そこで「おおいなるはは」は、至る所にある監視カメラの、完全無人前線指揮官機の起動と、ソレの戦闘の結果を記録した場面を再生。そこから、戦力的有用性についての考察を演算、今は亡き施設長のためにログを音声として出力する。
「メタ…… ビッグラットの侵入を確認。」
「M…IQSS……起動…確……。」
最重要区画として設定され、管理用ロボットが入れなかったその部屋のスピーカーは約3億年の月日に耐えられず、破損、正常に仕事をこなせなかった。
しかしそんなことを知る由もない哀れな母は報告を続ける。
「QSS、多弾種大型光……を……。モードは臨界……。ビッグラット消滅。エントランス、携帯物取り調べ室…壁部……。QSSが外部のビッグラットと戦闘をするように暗示。……完了。」
そして映像は淡々と進み、問題の部分に差し掛かる。
「QSS、損傷軽微。戦闘継続可能。
安全装置作動、…とのリンクを5%に変更。F.C.I.A.P.S起動。 随………ユニットの存在が確認されていません。
背部排熱再利用機構、反転、出力150%。」
そう「おおいなるはは」が報告した直後、雪の上に押し倒された幼女がビッグラット三匹を跳ね飛ばし、立ち上がる。
背丈に見合わぬ刀を、右手一本で振り回し、乱雑に、しかし一度も攻撃を喰らわずに一刀のもと切り捨てる。
後ろから迫る数々の獣の亡骸で周辺はすぐに幾多の肉塊が転がる地獄のような景色と化した。
ところが、ちょうど最初の二十匹を屠り、後から来た群れの半分を片付けた時、殺戮兵器の、返り血を浴びながらも、美しい肌が黒く変色してゆく。
通常で出せない出力を各部の駆動部から捻り出したため、排熱が追いつかず、QSS唯一の有機的部分、人間に偽装するための外装が炭化したためだ。
しかしそんなことを気にもせず、ただQSSは敵を斬る。
斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬り終わったとき、QSSはほとんどの外装が剥がれ、人とは似つかない、機械生命体本来の姿と戻っていた。
この姿では再現された男子高校生の人格の、人間特有の脆い精神に大きなダメージを与え、かつて、人型以外の機械生命体のパーツとなった人々と同じように廃人としてしまう。
そう判断したQSSの統括AI、「おおいなるはは ver.JH」はリンクを戻さず、機械生命体用修復ポッド、通称「子宮」の中へと戻ろうと、施設の扉を開け、戻っていった。
その様子を見て、「おおいなるはは」はこう結論付ける
「将来的に十分な戦力として利用可能。」
そしてこう計画する
「擬似人格の十分な成長を確認後、メタイオ施設への攻撃を開始。」