サイボーグ幼女は果たして幼女なのか
ゆったり、ゆったりと、深い、深い、底から浮かんでゆく、すこしづつ、すこしづつ離れてゆく、どこか心地よく、おぼろげで、懐かしい何かから。
少しづつ、少しずつ水面に近づいて……そして………
浮かび上がってきた意識は思ったより水面が遠い事を認識する。
そしてそもそも自分が息ができていないことに気づき、慌てて浮上速度を上げようともがく。
しかし、どれだけ足掻けど加速はせず、むしろ水面は遠ざかり、何かに吸い込まれていく。
そして…吸い込まれて取り込まれ、たどり着いた先はまた”そこ”で。
だけど何か…何か…何かが違って…
足りない…何か…何か足りない…
つめたい、つめたいのだ。
そこにはあるべき温もりも、脈打つ心臓もないのだ。
それが…
それが…なぜかたまらなく寂しく…
完全に眠りから覚めた俺は、もうすでに冴えた頭を働かせる。
確かに俺は現地民5号か、はたまたその次に来た6号か7号に殺された。
しかし、こうして今、例の謎のポッドの中でふわふわと漂っている。
しかし、あれは夢だったわけではなさそうだ。
実際、ポッドから見て左、外から見れば右に穴が空いている。
確かにあれは1号に向かって銃を撃ったせいでできた物だ。
しかしあのタイミングではああするしかなかった。
だからここの管理者の方は怒らないでほしい。
そんなふうに一人芝居を打っていると、ふと、自分の右手、元々は可愛らしい白いお手手がついていたはずのところが、皮が剥げて、中のメカメカしい何かがのぞいていることに気づく。
なぜかそれが自分の中で普通に納得できた。
無意識的に理解できた。
そしてそこに忌避感や嫌悪感もなかった。
ただ冷静に、この幼女はサイボーグだったのかと、
まるでトラックに轢かれる前、最後の収穫となっていたであろう豆苗と、あの日の5日前に、奮発して買った少し高いダイコンの残りで作られた、あの、何も考えられてないズボラ飯がいつのまにかなくなっていた時のように、スッと胸の中で合点がいったのだ。
そうなると、あの馬鹿力に納得がいく。
しかし、機械の体にもギフトの効果がつくなんて、この世界の神様は、差別的思考を持たないのか、はたまた、人間の定義については考える気がないのか、もしくはその両方か…
とりあえずすごい神様なのだろう。
そんな半分現実逃避の思考中に、視界の右上、といっても眼球を動かしてみても目の動きと共に動いているので、正確な表現でないかもしれないが、何はともあれそこにいわゆるハンバーガーボタンがあることに気づく。
まるで例のMTI製脳波読み取りスマートフォン(低スペ)のように、そこを展開させようと念じると、視界の右側が大小さまざまなインジケータに埋め尽くされた。
そこには、今は100%になっているおそらく充電の残り、現在は35.5℃となっている謎の温度、そして、おそらく武装の選択欄がある。
武装欄は現在は何も装備されていないことになっているが、それについて考えていると、無意識的になぜか右腕に、小型の光線銃が埋め込まれていることがわかった。
使おうとしてみると腕の一部が当然のように持ち上がり、謎の四角い、機械のようなものが出てきた。
すると、目の前に、FPSゲームでよく見る十字のマークが出てきた。視界の中央なのだが、意外と邪魔じゃない。出しっぱなしにもできそうなので、とりあえず出しておく。しかし、いくらなんでも、腕の一部が異常に突き出していては怖いので、機械は元に戻しておいた。
そんなことをして、時間を潰していると、腕の、皮がなくなっていた部分が、好きだった、整地と作業がメインのゲームで、壁を作る様子を256倍速にした動画のように、再生した。
どうやら、これが完了するのを待っていたのであろうポッドは、上から伸びてきたアームが、5号が齧っていたことがもうわからない肩を強引に掴むと、見た目はかよわい幼女を外に投げ捨てた。