コレクション8
セーフ。書き終わって良かった。月1投稿完了です!!
チンピラ達を会心させ(脅し)てから、影人は少年に声を掛けた。
「困った事があったら、第2多目的室のポストに投函しといてくれ。すぐに飛んでいく」
影人がそうかっこつけた瞬間、
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴った。
「ヤバっ。授業始まるぞ!!急げ!!」
かっこいい姿から一転。滑稽な姿で、影人は校舎に向かって走り出した。
皆見学園高等部 第2多目的室前
『お悩み、お困り事、解決致します』そう書かれた紙が(勝手に)貼られた扉を影人は開いた。いつもなら、すぐにポストに入れられた困り事を解決しに向かうのだが、今日は違った。
「こ、こんにちは」
先客が居たのだ。オドオドした感じの少女だ。少し驚きながら、影人は口を開く。しかし、影人が言葉を発する前に彼女は目に涙を浮かべた。
「ヒイッ、怖いぃ」
どうやら、対人恐怖症らしい。もしかしたら、対男恐怖症かもしれないが。それを見た影人は、袖口にできた影から化粧品を取り出した。
「同性なら、話しやすいですか?」
そして、キャップを開きながらそう尋ねる。 それを理解しているのかいないのか、少女はアウアウ言いながら頷いた。それはもう、ブンブン音が出るぐらい頷いた。それを肯定と受け取り、影人は化粧を始める。化粧、と言っても、これは自分を美しく見せるための化粧ではない。『化けて粧う』ための化粧だ。
化粧を終えて、影人は少女に話しかける。
「あー。あー。あー。出来ました。これなら、少しは話しやすいのではないですか?」
そう言った影人は、完全に女子だった。声までオンナノコだ。
「………………えっと、女子、だったんですか?」
「いいえ。メイクと声帯模写です。こうした方が、話しやすいのではと思ったので」
コクンと少女が頷く。
「では、お困り事は、なんでしょうか?必ず解決させて頂きます」
そう言って、影人は椅子を差し出した。少女が椅子に座ったのを確認して、影人も椅子に座る。影人が椅子に座ると、ゆっくりと少女が話し出した。
「私は………、私の祖父母は、O県に住んでるんです…………けど………」
O県。影人は、その地名に聞き覚えがあった。学習や、地図で見聞きした訳ではない。ある、ニュースになったのだ。
「O県って言うと、『魔術師騒動』ですか?」
言葉に詰まった少女に、影人が助け船を出す。
「はい。その事で………………悩んでいます」
「悩みは話すだけで気分が軽くなるって言いますからね。なんでも、言って下さい。秘密は守りますよ?」
影人が促すと、少女はぽつりぽつりと、しかし堰を切ったように話し始めた。
「テレビは…………O県が、まっ魔術師に、占拠された、って、…………言ってます、よね?」
影人は肯定する。
「私も、テレビで知りましたし………」
「本当、は、そうじゃ、ないんです」
「へ?ホントですか?」
驚きの余り、思わず地声で返してしまう。それぐらい影人は驚いた。コクンと頷いて、少女は続ける。
「魔術師達が、占拠したんじゃなくて、本当は………………、働かない市長達を、働かせて、いたんです」
「え?それで、彼らに何の得が?」
「きっと、誰かに依頼、されたんです……………。アパートを、貸し切ってます、から」
「な、なるほど…………」
影人が唸ると、少女が続ける。
「それで、心配、に、なって、祖父母の家に、行ったんです。そうしたら………………」
「そうしたら?」
「祖父母は…………すごく、生活が良くなったって、言ってました」
「ですよね…………。働かない人達が働けば、それは、良くなりますよね……………」
苦笑を浮かべながら、影人は答えた。
「そうなんです。でも…………………」
「頭では解ってても、心情では割り切れない、ですか?」
「はい」
「難しい問題ですね。頭では解っている。しかし心が納得してくれない。割り切るのも、少し難しい。どうやって、納得したものですかね………」
影人がそう言うと、少女は申し訳無さそうに言った。
「ごめんなさい。わ、私なんかの、た、為に、悩ませてしまって……………ご、ごめんなさい」
「………………。もったいない。絶対、シャキッとすればモテるのに。かわいいのに………………」
「かっ、かわいい!?」
少女の反応で、影人は思いを口に出してしまった事に気付く。影人は、少し赤くなった。それに気付かれないように、努めて冷静に返す。
「かわいいです。お化粧、してみますか?」
「は、はい!!」
影人は、頷いた少女の前に手鏡を置き、言った。
「私は、貴方の悩みを解決は出来ないかもしれません。でも、少しだけ、貴女に自信が出る魔法を教えてさしあげます」
少女の雰囲気が、メイクによって変わっていく。気弱そうな雰囲気から、凛とした、かっこいい雰囲気へ。
「メイク――化粧――は、自分と違うものになるためにするんです。メイクをした後の自分は、別人。理想の自分に近づいた、自分。そう思うと、少しだけ勇気が出る気が、しませんか?」
メイクを終えると、少女は息を漏らした。
「これが、私…………ですか?」
「はい。紛れもなく、貴女です」
鏡に映った少女は、まるで別人だ。影人が言ったように、かわいくて、美しい。
「別人みたい………………」
「別人ですよ。今の貴女は、理想の自分です。自信、出そうですか?」
「はいっ。少しだけ…………」
「それは良かった」
メイクを落として、影人は続ける。
「あー、祖父母さんは、幸せそうだったんですよね?」
少女は、突然に声が元に戻った事に驚いたように、肩を振るわせた。さっきまでだったら、きっと萎縮してしまっただろう。しかし、少し間をおいて、少女は答えた。
「……………はい」
これも、メイクの力なのだろう。その声には、力が籠もっていた。
「『俺』としては、貴女の悩み、なんていうか…………祖父母さん達が幸せそうなら、それでいいじゃん、って、思うんですよね」
驚いたように、少女は影人の方を見る。その瞳が、潤んだ。しかし、何かを堪えるように、少女は影人を見つめる。
「そう、かも、しれません。でも………」
「解ってますよ。俺は、時間が解決してくれるのでは?なんて、最悪の回答しか出来ません。やっぱり、悩み事相談が、一番難しいですね」
影人の回答に、少女は俯く。そんな少女の手に、何かが握らされた。
「代わりに、一つプレゼントです。どうしても勇気が欲しい時には、これを薄く、目元に塗って下さい。それだけで貴女は、少しだけ、理想の自分に近づけます。化粧をした貴女は、胸を張った貴女は、誰がなんと言おうとかわいいし、美人ですから」
その言葉に、少女は赤くなる。いつもとは違う恥ずかしさで、口をパクパクさせた。そんな少女に、影人は言った。
「お悩み、解決出来なくて、申し訳ありませんでした」
「あ、ありがとうございましゅううううううううううううううううううう」
それによって、恥ずかしさが限界値に達した少女は、逃げ出すように第2多目的室から出ていった。
「え、ちょ…………」
その後には、呆然と立ち尽くす影人が残された。