コレクション6
月1投稿!なります
ダッ。
影人は、踏み込み音が聞こえる程に強く地面を踏み込む。
(―――っ。はやっ)
それは、いつもの喧嘩とは違う、本気の踏み込みで、
「っぐ」
深琴の反応が遅れる速度だった。
影人の拳が、深琴の腹に入る。しかし、深琴もただでは殴られない。磁力を付与した砂鉄で影人を殴りつけた。かなりのダメージが入ったはずだ。なのに影人は痛がる素振りも見せない。そのまま深琴を殴りつけた。それを深琴は砂鉄の塊で防御する。ぐちゃ、ともぐしゃともつかない音が響いた。
「死んでない。訂正しろ」
影人の拳が壊れた音だ。痛みを感じないのか、影人はそのまま深琴に蹴りを叩き込んだ。
『『!?』』
驚いたのは探、並、翼の三人だ。影人は何の躊躇いも無く友人を殴る事が出来る人間ではない。なのに、何の躊躇いも無く、彼は深琴を蹴り飛ばしたのだ。彼女が、吹き飛ぶ強さでもって。明らかな、敵意をもって。
(痛い!!痛い痛い痛い!?)
思考が消えるような痛みを味わい、深琴は初めて影人を恐ろしいと思った。そして、殺す気で行かないと、彼を取り押さえられないとも、考えた。考えてしまった。
「ゲボっ。ゲホッ。うぐぅ。アンタ、本気で殴りやがって。………私は、アンタより強い。だから、本気でかかってこい」
(殺す気で行かないと、勝てない?莫迦!!こころで負けるな。彼は、影人じゃない。もっと怖くて、強い、鉄人だ。)
じゃらららららららららららららららっ。
そんな音を立てて、深琴の周りにコインのようなものが浮かんだ。
「訂正しろ………。死んで、ない」
「訂正しない!アンタの親父さんは、元春さんは、死んだんだ」
深琴はそう吠える。彼女の目には、涙が溜まっていた。悔しいのだ。自分では、影人の心を救う事ができないかもしれない、そうも考えてしまったから。だから、深琴は諦めない。
(今度は、私が助ける)
影人に、タングステン鉄メッキの、特別製コインがふりそそいだ。それを避けながら、影人は深琴に近づいていく。そこで、深琴の泣きそうな声をきいた。
「アンタ、気づいてんでしょ!!」
深琴は影人に駆け寄った。
「元春さんは、もう死んだんだ!!」
そのまま、影人の胸ぐらを掴む。
「現実から逃げんな!!」
現実から逃げるように、影人は深琴を突き飛ばそうとする。
「私が、私達が、大好きな、格好いい影人は何処いった!!」
影人は動きを止め、深琴を怒鳴りつけた。
「俺の気持ちが解るのか!?わかってたまるか!親父が、殺されたんだぞ!!解るか!?俺には、なんも無くなったんだよ!!そっとしておいてくれよ!!俺h」
バチン。
「なにもない?巫山戯んな。巫山戯ないでよ。だったら、私達は、何なんだよ!アンタは、私を救ってくれた!!」
「私の、味方になってくれました」
「僕の、本当の友達だ」
「俺に、自信をくれた」
「これでも、なにもないって言うのかぁ!じゃぁ、私達は、何なんだよ………。アンタの優しさに助けられた、私達は何なんだよ!!」
影人は、痛む頬を押さえて、初めて深琴の顔を見た。深琴は、泣いていた。
「何なんだよ………。悲しみすら、軽くしてやれないのかよ………」
「済まない。でも、まだ、認めたくないんだ」
「わかった。ぶっ飛ばしてあげる」
たたっと軽やかにステップを踏んで、影人は深琴から離れた。そして、ゆっくりと構える。直後、深琴が突っ込んできた。それをしなやかに受け流し、影人は深琴を転ばせる。しかし、深琴はそんな事は読んでいたのか、磁力を操り影人に踵蹴りを入れる。それを避けて、影人は深琴から少し距離をとる。
「影人」
「何だよ」
「歯を食いしばれぇ」
深琴の拳が影人の予想した場所にくる。これに少し力を加えれば、深琴はバランスを失い転ぶだろう。しかし、影人はそこで構えを解いた。
ゴッ。
鈍い音がして、影人が吹き飛ぶ。
大の字に寝転び、影人は言った。
「ごめ……………、いや。ありがとう」
「バカ」
影人に、大切な友人達が群がった。