誘い【2】
「……はい?」
…仕様の担当?どういうことだ、いつから私は社員にされたんだ。
「ちゃんと説明しますね。まず、本作『ファンタジア・ネクサス』は今月中に2回目の大型アプデを行います。その時に新規実装する予定のエリアである『妖精の森』、そして実装予定のクエスト形式『ストーリークエスト』の計2つを目玉要素と考えています。」
エリア追加はまだ分かる、行ける場所が増え、素材やモンスターも増えるのでプレイヤーのやる気も上がるということだ。
ただ、「ストーリークエスト」、これだけがどうにも分からない。単にストーリー性を含ませるならAIで登場キャラを作ればいいのに、何故か私に振られているのだ……。まさか………
「…私にその『ストーリークエスト』と『妖精の森』……おそらく本命は『ストーリークエスト』の方でしょうけど…。それの進行管理をやれと…?」
「いえ、少し違います。園歌さんには、『ストーリークエストの登場人物の1人、そしてストーリーの結末』を担当してほしいのです。」
……ちょっと待って、それすっっごく重要ポジションになるのではないですか…?
そんな事を考えていたら横から兄さんが割り込んできて、
「多分難しく考えてるだろうから言っておくけど、あくまでプレイヤーではなく、1人のキャラクターとしてゲームの世界を楽しんでくれってことだ。このゲームのAIは結構賢くてな、流石に現実世界の話は通じないがゲーム世界の話は普通に人と話してるかのような自然さだ、それこそ本当に中身が人であるかのようにな。
あと、もう1つの目的として『AIが作ったクエストシナリオをAIではない者が主導権を持った時の対応』…。つまり、本来のルートと別のルートに派生した時に管理AIが対応してシナリオを進めることが出来るのかを確認する、というのもある。」
責任重大すぎ、家事と勉強の合間1時間弱でやれる密度じゃないでしょこれ…
「……どう考えても時間が足りないように思えるんですけど、シナリオ進行に関係する役割任せられるからには私ほぼずっとゲームにいなきゃいけませんよね。」
「その心配は大丈夫です、このゲームの1日が現実世界の半日なので。あと、園歌さんがプレイしてる時間帯のみ出現する、というゲリラ形式でクエストを展開することも出来るので。」
うわぁ……なんかすごい外掘りを埋められてる。そこまでされたら受けない方が申し訳ないじゃないですか……。多分私に振られた理由、深夜残業上等の社会だから恋愛発展するタイプの人付き合いがそうそう無いんだろう、ご愁傷さまです……。今度なにか差し入れますね。
「……はぁ…分かりました、その話請けます。見返りはちゃんとあるんですよね?」
「!!。ありがとうございます!報酬の方についてはですね、今のとこ2種類あるんですけどどちらがいいですかね、ゲーム内通貨と現金と」
「現金で。」
「あっ……はい、分かりました。」
そりゃ即答でしょう、私はゲームをあまりしてこなかったのだから。
「そうだ、言い忘れていたことが1つ。園歌さんはテストプレイもしていただいていたということなので、そちらが良ければアバターデータとかその辺をそのままにすることも出来ますが…。」
「ならお願いします、アバターを変える気は恐らくないので。」
「はい、ならば実機をお届けするのは2,3日後になりますので、よろしくお願いします。」
そう言うと河内さんは他人の端末というのを忘れたのかそのまま通話を切った。…あの人少し天然か?
まぁいい、とりあえず早く帰って夜食の準備と風呂掃除、湯沸かし終わらせないと………