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【完結済/手直しするの止めました】神殺しの皇女  作者: 埼山一
第九章 クニを盗ル(二)
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第83節 神楽舞う中で(其の六 霊剣加護)

「おお、秀麗隠せし香佳(きょうか)の君よ。君は一向に喋らんではないか。どうじゃ、わしにその可愛い声を聞かせてはくれぬだろうか。」


 トラひげの外見にはとても似つかわしくないようなあまりに気障りな言い草に、わしは吹き出しそうになりながらも、その内容を吟味するほどにおのれの耳を疑いたくなっていた。


(声を……聞かせろ?)


 できるわけがない。

 わしはどう見ても女人としか思えぬ今のおのれの恰好を思い返してみてもなおたじろいだ。

 姿と声ではまるで事情が違うのだ。

 あれこれと飾り立てて外見を謀るぐらいならばどうとでもできようが、声色まで女子のそれにするとなると、そんな術などわしは持ち合わせてはいない。


(いかん。何とかせねば。)


 緊張の連続で、これ以上出るものなどないと思われていた冷や汗がそれでもなお噴き出してきて首筋を伝い落ちてゆく。

 当初の予定通りに事が運んでいたのであれば、今頃はもう我が精兵に包囲されたトラひげとその一派が降伏するか憤死するかしているころだ。


(それが、これか。)


 まさか、ここでこれほどまでに手間取ることも、このような要求を受けることも想定してはいなかった。


(要望に応えるか、さもなければ尤もな理由で断るか。)


 どちらを選んでも難題ではないか。

 早く決断せよという自分自身からの圧を感じながら迫られた二択をわしは迷うことなく、しかしその両方を否定した。


(どちらも、できるわけなかろう。)


 声を聞かせろなどというふざけた要望に応えることができぬから窮しているのだし、ならばと断ろうにも、その理由を伝えるのに声を出せぬではそれもままならぬ。

 この難題に対する光明が一向に見出せず、尻の穴がキュッとすぼまった。


(ならば、はぐらかすか。)


 だが、どうやって。

 咄嗟に思い付いた三つ目の選択肢も、そんな都合の良い頓智がホイホイと湧いてくるはずもない。

 有効な手立てなどそう簡単に思い付くはずもなく、打開策も見出せぬままに奴からプイと顔を背けた。


「そうかそうか。では後でたっぷりと鳴かせてやるからな。」


 しかし何を勘違いしたのか、トラひげはそう言って下卑た笑いを浮かべながら上機嫌に酒をあおった。


(何を言っているのだ。)


 突然のトラひげの翻意に事情が呑み込めぬまま安堵すると、おのれの姿勢がどことなく艶を帯びた如くなっていることに気が付く。

 つい考える時の癖で、無意識のうちに手を口元に当てて奴から視線を外した姿は、見ようによっては艶笑のそれと受け取れなくもない。

 つまりわしの仕草は勿体つけて焦らしていると、トラひげの奴に思われたのだ。


(偶然とは言え……いや、これも加護であろうか。)


 何なる幸運なのか、それとも懐に忍ばせた匕首、かの御神鳥より授かった霊剣の加護というものか。何でもよいからとにかくわしは何かに向かって感謝した。


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