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【完結済/手直しするの止めました】神殺しの皇女  作者: 埼山一
第一章 二人の絆
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第4.9節 夜、思ひに耽る さあ行こう、憧れの地・海のクニへ(三)

※エピソードを分割挿入したため節数が小数点になっていますが、気にしないでください。

「のっし、のっし、かっめ、よっ!かっめ、さっん、よっ!」

「なあ、()()。」


 それなりの高さがあるこの丘を登るのにちょっとだけ飽きてきたわたしが歌を口ずさみながら歩いていると、そんな娘を見た父さまがわたしに話しかけてきていた。


「はい。」

「――この丘を越えるとな、そこの(ふもと)にムラがあるんだが……お前、それまでちゃんと歩けるか?」


 現在進行形で娘の元気な様子を見ている割には不安そうな父さま。

 父さまだって、さっきの兄さまとのやり取りでわたしがこのぐらいの丘なら平気っていうことを知ったはずなのに、それでも念のためにわたし自身に確認するところはいかにも父さまっぽい。


「はい。へいきですよ。」


 わたしは何でもないことのように答えた。

 実は、父さまの言った「ムラ」って言うのが何のことなのか分かっていなかったけれど、それでもこの丘一つ越えるまで歩けるかと聞かれれば、答えは「平気」に違いはない。


「ほう……そうか、平気か。強いな、お前は。」


 それなのに、当たり前のことを当たり前に答えただけのわたしを見て、どういうわけか(いたく)く感心しましたみたいな父さまの反応。


(えへへ……。もしかして、なんかほめられちゃったの?)


 わたしは、そんな予想もしていなかった父さまの反応に、ちょっと嬉しくなっていた。

 実際、わたしはまだまだ元気だった。

 さっきの兄さまの告発じゃないけれど、普段から隙あらば外に出て遊び回っているわたしだもの。だからこのぐらいの丘を登るなんて、そんなに言うほど大変なことじゃない。

 父さまは普段のわたしを見たことがなかったからそんな心配をしたみたいだけど、わたしにしてみればどうしてそんなことを心配するのか分からないぐらいのことだった。


「わたし、ぜんぜんへいきですよ。はやく行きましょう。」

「おお、全然か。やる気だな。」


 エイエイッとやる気を見せたわたしを見て感化されたのか、ちょっと元気を出してきた父さま。

 実はわたしは心配していたのだ。さっきから兄さまと何か話すたびに落ち込んでしまっていた父さまのことを。

 わたしには父さまがすごく元気がないように見えていた。だから、そんな父さまが元気になってくれたことが嬉しくて、ますます気合が入っていた。


(このぐらいぜんぜんへいきだし。ふふん……そうだ。もっとびっくりさせちゃおっと)


 そうすれば父さまはもっと元気になってくれる。――そう考えたわたしは、一番に丘を登りきって父さまをもっともっと元気づけてやろうと駆け出していた。


「こらっ!」

「ふあっ!?」


 だけどそんなわたしの邪魔をしたのは兄さまだった。

 調子よくこの丘道を駆け上ろうとしていたわたしは、手をつないでいた兄さまに引っ張られて足を止めるしかなかった。


「勝手に行くな。ちゃんと歩け。」

「……はぁい……。」


 兄さまのにべもない叱り方に、ちょっとムッとしながら応えたわたし。

 父さまにいい所を見せてもっと元気になってもらいたかっただけなのに、そんなふうに怒らなくても……。大体、勝手に行くなって言われたって、自分が手を離してくれなきゃ、わたしはどこにも行けないって分かってんのかな、この兄さまは。

 でもそうは思っても、父さまと兄さまの言うことはちゃんと聞きますって言う約束でついてきたわたしだもの。


(むぅ~……がまん……がまん……。)


 だからわたしはそんな不満が沸いて来ても、ちゃんと押潰して胸の奥にしまい込んでいた。

 それにちょっとぐらいイライラしたからって、今日みたいに天気のいい日に外を歩いていれば、そんなつまらないことはすぐに忘れられるもん。――と、そんなふうに思っていたのだけれど……。


「まったく……。お前はちょっと褒められたぐらいで、すぐ調子に乗るんじゃない。」


 せっかく我慢しようとしてたわたしに容赦なく追い打ちをかけてきたのは、やっぱり兄さまだった。

 この一言にはたまらず、ムッとして口答えするわたし。


「わたし、ちょうしにのってないです。」

「何言ってんだ。お前、たった今まで調子に乗ってただろう。俺はちゃんと見てたんだぞ。じゃなきゃ、お前が急に張り切って走り出す訳がない。」

「んあっ!?」


 わたしはまったくの図星を突かれて、たじろぐしかなかった。

 相変わらず関心がなさそうに見えても、見ている所はキチンと見ている兄さまだった。きっと本気の兄さまにかかったら、わたしの行動とか考えていることことなんて全部筒抜けになっちゃうんだろう。

 でも、兄さまがそうやって情け容赦なく責めてくるものだから、わたしもますますムキになっちゃって――


「――分かったら、調子乗ってないで大人しくし歩け。」

「のってないっ!」


 と、ついに我慢できなくなったわたしは癇癪(かんしゃく)を起してしまっていた。

 そんなわたしに驚いたのか、わたしの手をうっかり離してしまった兄さま。


(ふんっ!兄さまのバカっ!ちょうしになんてのってないもんっ!)


 そうして図らずも自由の身になったわたしは、二人を置き去りにして一人で丘をずんずんと登って行ってしまっていた。


「あ……。やり、過ぎたか……。」

「バカ者。少しは加減と言うものを考えろ。……あ~あ~、あんなに怒らせて……。」

「そうは言いますが、俺だって怒らせたくてやったわけじゃ……。」

「怒らせる気がなくてあれか。なら、怒らせる気があったらどうなるんだ?俺に手厳しく当たるのは構わんが、あいつにまで同じようにすることはないだろう。」

「……はい……。反省します……。」

「ふん……そうだ。せいぜいそうやって反省しろ。お前にはいい薬だ。」

「……そう言う父上だって俺には手厳しいですよ……ハァ……。」


 どすどすと丘を踏み征くわたしの後ろでは、二人が何かやり取りしながら付いて来ていたみたいだったけど、頭に血が昇っていたわたしの頭にはその内容が入ってくることはなかった。


丘……この丘、切り株だらけの野原と、切り株だらけの林の二つの面を持つ丘です。だから何だと言う話です。はい。

大人同士の会話……露骨に中途の解説が減ってますね。おひいちゃんが理解できない/参加しない時はなるべく書きません。そういうスタンス。

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