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【完結済/手直しするの止めました】神殺しの皇女  作者: 埼山一
第八章 クニを盗ル(一)
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第77節 神楽舞う中で(其の三 演舞終了)

 持てる全ての神楽を舞いきったわしは、弾む息を整えながら見張り櫓の方を幾度となく見返してみたが、篝火の消えた様を確認することはついにできなかった。


(彼女がしくじったのか。)


 やはり今の彼女には荷が勝ち過ぎた役目であったか。

 傷つき床に臥せった彼女の姿を思い浮かんで、無理を承知で頼んだおのれの愚かさと非情さに悔悟の念が湧き立ってくる。


(いや、そうではない。)


 今はそんなつまらぬ感傷に浸っている場合ではない。わしは自らを戒めると、今一度今宵の策の在り方について考えた。


(たとえ彼女が失敗したとしても、それだけのこと。)


 わしとて痴れ者ではないのだ。

 あのような重要な役目、今の彼女には無理かも知れぬと分かっていたのだから、ただ彼女一人に任せておいて、それでよしと捨て置くわけがない。


(次善の策は用意してあった。)


 もし彼女が失敗したとしても秘かに放っておいた「二の矢」が彼女に代わって櫓を襲い、篝火を消しているはずだ。

 むしろ手段を問わず目的を果たすことだけを重視してよいのであれば、「二の矢」の方が確実にやり遂げたことだろう。


(これを知られたら、彼女は怒るやも知れぬな。)


 わしは、彼女の不貞腐れていてもどこか愛嬌のある姿を思い浮かべて寂しく笑った。

 彼女に知らせぬままの「二の矢」の存在は、そのまま彼女の信頼を裏切る行為だと言える。

 しかし、これはクマ制圧と彼女の救出を兼ねて急遽練った策だ。

 穴があるのは仕方がないにしても、予め分かっている穴ならばなるべく塞いでおくのが当然というものだ。

 その結果が、彼女を怒らせてしまったり、嫌われることになろうが、それはもうすべてありのままに飲み込むしかないことだった。

 見張り役の排除から篝の消火にかけての流れは、二重の手筈で臨んだ絶対にしくじることが許されない必須のことだ。


(にも拘らず未だに篝火は健在か。)


 ならば、彼女はまだ任務の途中であるか、あるいは「二の矢」もろとも失敗したか……。


(考えられぬ。)


 彼女はともかく「二の矢」がそう簡単に失敗するとは思えなかった。あれはわしの懐刀と言ってよい存在。




「何をしておるか。畏れ多くも大王がお召しであるぞ。早う来い。」


 わしを呼びに来た初老の卑屈そうな男が、その外見に反した尊大な態度で言った。

 わしはこの男には見覚えがあった。

 以前このクニを訪れた時は、自分はこのクニの大臣であり、大王の知恵袋なのだなどと嘯かれ杯を交わしたが、こんな貧相な男が大国クマの大臣などとにわかには信じられなかった。

 その大臣自ら御足労とは結構なことだが、トラひげにおべっかを使っているのが見え見えで滑稽でさえある。


(もう少し待てぬのか、小者めが。)


 わしはこの男を冷めた目で睨みつけたが、面越しではその鋭い視線に気付かれることもなく、仕方なく大袈裟に肩を上下する様を見せつけて、息が整うまでしばし待てと分からせる。


(まだ早いのだ。)


 篝を消すことで伏せていた兵が柵内に入り込む手筈になっている。

 その合図を待たずして事を起こすと、この後が危うくなる。

 心の臓が一つ脈打つたびに、まだかまだかと一日千秋の思いが、己が心裏をを駆け巡っている。

 しかし、待てども待てども櫓の上に掲げられた篝火が消える様子はない。


(もはや、やむを得ぬか……。)


 できる事なら篝火が消えるのを見届けるまで待ちたかったが、いつまでもここに留まるわけにはいかない。

 ここであまりにもモタモタしていれば、トラひげの機嫌を損ねてしまうかも知れないのだ。そうなってはこれまでの苦労のすべてが水泡と帰す。

 そう考えたわしは、仕方なしにこの甲高い声の大臣の先導に従うことを承知した。


(やり遂げてくれよ。)


 わしは奮闘しているはずの二人の姿を思い浮かべて、絶対に役目を全うすべしという激励の念を送った。

 出来うる限り粘るつもりではいるが、それでもどうにもならない場合はトラひげを殺して直ちに逐電するしかない。

 しかし、それではこのクニに一時ばかり混乱は起こせても制圧には至らない。


(ここが我らが望みの成否の分岐点なのだ。簡単には諦めるわけにはゆかぬ。)


 今は彼女らを信じるしかない。

 わしはそう念じると、トラひげの待つ宮殿へと向かって脚を踏み出した。


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