第67節 巫覡疾風
(しかし、どうであろうなあ。この肉付き、背丈、齢……。)
わしは、あらためておのれの姿を見返してみていくらかの失望を覚えた。
ここでどう頑張ってみたところで、結局トラひげの好みとはかけ離れた外見に落ち着いてしまっている。
これで果たして奴に気に入られるか、いささかの自信も沸いてこない。
(いや、大丈夫だ。やれるぞ。)
弱気は大事を成すに当たっての最大の敵だ。なればこそ、わしはこうしておのれを励まし奮い立たせる。
(まず何より肝心なのは舞いよ。)
これが拙いと、わしは奴の目に止まらないまま退場と相成ってしまう。
それでは何のために危険を冒してまでこの柵の内に潜入したのか分からなくなってしまう。
しかしそこについて、わしはまったく悲観していなかった。
幼き頃より散々に培ってきたおのれの舞いに間違いはないのだ。そこには絶対の矜持と自信がある。
そも、そうでなければこのような奇策を採るはずがないのだ。
(次に大切なのは、このわしが女子に見られるかどうかであるが……。)
これも行けるだろう。
不安がないわけではないが、何しろ今わしが纏っている物はクニで待つ敬愛すべき叔母上より授かった、本来であれば我が嫁御に渡すべき舶来の薄絹の衣だ。
これを纏って舞い踊れば、余人の目にはそこいらの女子衆よりもよっぽど色艶の好い天女と映るだろう。
そう考えれば、造りの好みなど所詮はその次の些事に過ぎないのではないか。
(だからやれるのだ。自信を持っていけ。)
と、根拠を示してはおのれを鼓舞する。
懐に忍ばせてある匕首に手を当てて、ふうと息を吐く。
匕首に触れた手がジワリと、何か得も言われぬ不思議なぬくもりを感じて、昂った気が落ち着いてゆくのが分かる。
かつての霊剣であったこの刃。
おのれの至らなさから一度は砕いてしまったのをどうにかして匕首に拵え直したが、こうして触れてみると、その神威はいささかも失われていないように感じられた。
(そうだ。あの時に比べたら、此度のことなどどうと言うことはない。)
この神器を手に入れた時に乗り越えた、もう後にも先にも二度とは訪れぬであろう不可思議な経験を思えば、此度のことなど真に児戯に等しいではないか。
そこに思いが至るとそれまでの不安、緊張が霧消し、肩に入った力が抜けてゆく。
気持ちを整えたわしは、そのまましばらく祭りの様子を窺う。
そして、会場中に響き渡っていた囃子が止まった。巫女の入れ替えが行われる。
(いざ、参る。)
いざ、時はきた。わしは懐から取り出した面を咥え被ると、覚悟を決めると颯爽と飛び出していった。




