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【完結済/手直しするの止めました】神殺しの皇女  作者: 埼山一
第八章 クニを盗ル(一)
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第65節 タケハヤの緊張

 わしは馬子と別れてから宮殿の近くまで移動していた。

 ここは既に会場の中。

 ここまで来てコソコソとした動きはかえって目立ってしまうものの、我が登場をより派手に印象付けるために、わしはなるべく灯りから離れたところに位置を取って目立たぬようにしていた。

 馬子から渡された臭い消し代わりの薬草は結局使っていない。今からでは悠長に燻すだの擦り込むだのと、香りを移す暇などなかったからだ。

 だが仕方がない。衣の方に焚き込められた香りに間違いはないのだし、ここまで来たら後は度胸で乗り切るのみだ。


男子(おのこ)は度胸よ。)


 ふうと息を一つ吐き出す。

 気が付けば、握った手のひらやら足裏やらに汗が溜まっていた。

 馬子を相手に軽々しい口を叩いて平静を装ったところで、心の内まで軽くすることは容易ではない。


(舞い、か……。)


 わしにできるのは我がクニに伝わる神楽舞、ただそれだけだ。

 おのれの立場上、クニでは散々やらされてきた事とはいえ、やはり本番前と言うのは緊張するものだ。

 まして今回は、他国の祭りの場に乱入して彼らの意趣に適うかも分からぬそれを披露し、大王(おおきみ)の目に止まって奴に酌をするところまで漕ぎ着けねばならない。




(トラひげは小柄で豊満なのが好みらしいからな。)


 思い返してみれば、過去の酒宴で奴の酌をしていたのは、決まって小柄ながらも凹凸のはっきりした豊満な体つきの者ばかりだった。

 奴は舞い終えた巫女を呼び付けては酌をさせ、そこで気に入ればおのれの部屋まで連れ帰っている様子だった。


(むう……いかんな。)


 奴と一夜を共にするなど、たとえおのれが(まこと)女子(おなご)だったとしても考えただけで怖気立つというものだが、しかし、今宵は奴の目に止まることが策となる。見た目も奴の好みに近づけた方がよい。


(トラひげ好みの女子のう……。)


 別に興味も沸かないようなトラひげの好みを今一度思い出して、どうにか近づけられないかと思案する。

 しかし、まずは好み云々以前に、一人前の男子らしく横に大きく広がった肩をどうにかせねばと思い立ち、わしはなるべく肩を落として後ろへ引いてみた。

 これで脇を閉めれば少しは肩の張った男子の体型を隠すことができる。

 慣れぬ形で気休め程度のものだろうが、それでもやらないよりはいい。


(豊満か……。)


 続いて、おのれの体を見下ろしてみて目に入るのは、当然だが凹凸の有るか無きかと言った体型だ。

 ひらひらとした衣に包まれたこの体にも、ある程度女子に見えるように仕込みはしてあるが、豊満というほどのものではない。

 予め分かっていたはずの奴の好みに、準備を抜かったことに歯噛みする。

 だが、この衣装だ。このゆとりのある薄絹の衣を纏って舞うからには、体つきが如実に表れることはおそらくないだろう。

 此度の目的はトラひげの目に止まり、傍近くまで行くことであって、接近した後に体型を見破られようが、その時はもう奴の好みなどどうでもよくなっているのだ。


(小柄な女子……。)


 これは難題だと思われた。

 背丈を高く見せる工夫はできても、その逆は容易ではない。

 わしはしばし考えた後、腰を曲げたりひざを曲げて二三歩いてみたが、これはやめた。

 そんなことをしたところで、背が低いと言うよりはみっともなく見えるだけな上に、そんな姿勢で舞えば腰やひざを痛めるだけだ。


(それになあ……。)


 わしにはいくらも理解できぬことだが、奴は小柄というよりも幼げな雰囲気の者を好んでいるようにも見えた。ならば背恰好よりもその者の内面の話になる。

 であれば、これについては考える必要もないかも知れぬ。


(しかし、顔の好みはどうであったか……。)


 さすがに必要ないと思いながらも、一応思い出してみると、奴は面の美醜に関心がないのか、ついていればよい。とでも言いたげな無分別ぶりだった。これもどうにかする術はないだろう。


(いや待て。此度は面をつけて臨むのだぞ。)


 だからおのれの顔が見られることはない。

 まったく気遣う必要のないことにまで気を回そうとしていた、おのれの失敗に可笑しみを感じて、わしはいくらか気持ちが楽になったのを感じた。


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