表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済/手直しするの止めました】神殺しの皇女  作者: 埼山一
第八章 クニを盗ル(一)
73/149

第63節 祭り潜入

 わしは馬子と共に祭りの会場からやや離れた物陰に身を隠すと、その様子を窺った。

 どうやら、祭りはこれから益々盛況となるようで、その機を的確に見定めた馬子の判断に間違いはなかったと思い知る。

 会場の方々で、櫓に組んだ焚き火を大勢で囲み、その輪の中で踊っている巫女を、皆が笛、太鼓、手拍子、かけ声などで囃し立てているその様は、如何にも年に一度の祝い事と言った風情を感じさせた。


(ううむ。それにしても……。)


 やはり人の多い柵だけあって、その規模も相応に大きいものだった。

 これほどの人数の民の中で乱戦になってしまった場合、無事に兵をまとめることができるのだろうか。

 わしの中では、不安も自信も相半ばでせめぎ合っている。


(そして、奴は……。)


 わしはトラひげの定位置と思しき宮殿の方に目を向けると、奴はお気に入りと思われる階段ではなく、その上の宮殿の露台に設えた床几に腰掛けて、祭りの様子を見下ろしながら、大盃で酒をあおっている様が見て取れた。


(よし。まあ、思った通りだ。)


 過去に招かれた宴の時はトラひげも下に降りていたのだが、柵内の民のほぼすべてが集う祭りともなると、高台にいた方が何かと都合がよいのだろう。

 いつもより目立つ場所にいるが、まあ想定内と言っていい。

 大体の位置関係は分かった。わしは馬子に向き直ると互いにうなずき合った。


「それでは、ご武運を。」

「一緒に来てはくれんのか。」

「無理ですね。」

「釣れないな。貴様は人の情というものを知らんのか。」


 ニコリともせずに別れを告げ去ろうとする馬子に、冷たい奴め、と非難してみせる。


「わたしにも為すべきことがありますから。」

「であろうな。そうせよと言ったのはわしじゃ。」


 そんな軽口など交えて緊張をほぐそうとするわしに、馬子はろくに取り合うこともなく一礼するとその場から去ってゆく。


「あ、待て。」

「まだ何か?」


 再び呼び止められた馬子は嫌な顔一つせずに振り返った。


「わしは、臭くはないか。」


 わしは不意に浮かんだ疑念を正直に訊ねてみる。

 衣には何やら知れぬが、好き香りのする香が焚き込めてあるが、肝心のわしの体の方が、厩の、しかも秣の中に潜んでいたため、馬匹の匂いが染み付いていないか気になったのだ。


「それは……大丈夫だとは思いますが。」


 そこまで気が回っていなかったと見えて苦い顔をする馬子。


「――では、これを。」


 そう言って馬子が懐から取り出したのは小さな袋だった。


「なんじゃこれは。」

「薬草です。本来は馬に与えるものなのですが、傷薬としても使えますし香りもよいです。燻すなり擦り込むなりしてください。」


 秣の匂いを気にしているのに、結局秣ではないか。

 わしはそう思い渋い顔をしたものの、渡された袋を恐る恐る鼻に近づけてその匂いを確認すると、鼻を通り抜けるような爽やかさと柔らかな甘い香りが合わさっていて意外と悪くはない。


「……まあ、良いだろう。」


 そう言っては見たものの、実はまあ良いどころか、かなり良い。

 しかし、こやつのすることを手放しで褒める気もなれず、わしは渋々といった感じを醸し出して見せる。


「もうよろしいですね。」


 納得したわしは、そう念を押す馬子に手振りで「もう行け。」と告げる。

 わしは、今度こそ忍びながらも足早に去って行く馬子の背中を見ることもなく袋を懐にしまい込むと、この後の手順をぽつぽつと反芻していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ