第59節 彼の瞳
タケハヤは真摯ではなかったが紳士ではあったようで、ずり落ちてしまった毛皮をわたしの方を見ないようしながら拾って手渡すと余所を向いたまま言った。
「すまぬ。」
沈痛の念を含んだ言い方に、これはわたしの肌を見てしまったことへの謝罪ではなく、やはりわたしの質問には答えられないという真剣な回答だと知る。
「……。」
わたしは渡された毛皮で胸元を隠しながら、得られた答えに納得がゆかず、落胆して唇を噛んでいると、
「すべての片が付いたら明かすこともできようが、今はならぬ。」
と、わたしの心境を汲んだタケハヤが、事が済んだ後であれば、と付け加えた。
「……。」
「……。」
わたしは彼の真意を探ろうとして彼を見つめ、彼は自分の誠実さを主張するために沈黙を貫く。互いに沈黙のやり取りが続く。
「……絶対?」
「絶対。」
「こっちを見て。」
わたしはそっくりそのまま返してくる彼の言葉が今一つ信用できなくて目を見ろと要求する。
彼の真意は分からないが、相手の目を見て言えないようなことを信用しろというのは、いくらなんでも虫が良すぎるのではないだろうか。
タケハヤは一度目を閉じた後、ふっと小さく息を吐いて、わたしの方に向き直り居住まいを正すと、わたしの目をすっと見つめた。
その透き通るような曇りなき眼に、目が合った瞬間に返ってこちらの方が目を逸らしたくなってしまう。
「すべて終わったら正体を明かすと約束しよう。」
タケハヤはしっかりとわたしの目を見てそう言った。
「……分かった。」
彼の視線に、何か見られたくない心の内側を見透かされたような気分になって、たまらず私の方から目を逸らしてそう答えると胸元の毛皮を握り締める手に力が入る。
(何、今の……。)
僅かな動悸を感じながらも、彼の言葉に偽りなしと感じたわたしは我に返ると、用が済んだなら早く出ていけと彼を追い出した。




