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【完結済/手直しするの止めました】神殺しの皇女  作者: 埼山一
第七章 終焉の到来
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第57節 計略

 わたしの言葉に決意の固さを見たのか、タケハヤは一つだけ深く息を吐くと懐からとある物を取り出した。

 竹筒。

 中身が入っているらしく、彼が軽く揺すって見せるとちゃぷちゃぷと音がする。


「これを見張りに飲ませてほしい。」


 その言葉にわたしはドキッとする。不吉な予感に逡巡せずにはいられない。


(……毒……。)


 わたしに人を殺せと言うのか。

 彼の征服劇に手を貸すことは承知したと言っても、人を殺める覚悟があるかは別の問題だった。

 拭い去りようのない不安に駆られながら、それは何かと問う。

 そんなわたしの心配を見透かしたタケハヤはわずかばかりその口角を持ち上げると、


「心配せずとも毒ではない。それはな、酒じゃ。」


 と言った。


「匂いを嗅ぐでないぞ。酒と言っても何度も醸して造った強い酒じゃ。弱い者からすればその匂いだけでもたちまちひっくり返ってしまうからな。」


 渡された竹筒を何の気なしにもてあそぶわたしに注意を促すタケハヤ。

 なるほど、この酒を飲ませて見張りの兵を眠らせろということか。

 中身に安堵したわたしはそれならばと承知する。


「それだけ?」

「……いや、そなたにはここからが難しいかもしれんが……。」


 わたしの問いにタケハヤは目線を落として答えた。

 見張りに酒を飲ませて眠らせた後、櫓の上で焚かれている篝火を消してほしい、と。


「それが、外で身を隠している我が兵たちへの合図となる。」


 ということだった。確かに傷をかばって急峻な櫓の階段を上るのは容易なことではない。

 だが、やってやれないことはない。現にこうして体を起こすことはできているのだ。階段を上るぐらいやって見せる。


「……やってくれるか?」


 タケハヤの言葉にわたしは頷いて返した。


「今から断ってもよいのだぞ。」


 くどい、それぐらいでわたしの決意は揺るがない。そう思ったが口には出さず、かぶりを振って答える。


「それで、ケガ人とか……その、死人は出ないの?」


 手を貸すのは構わないが、ここだけが気になるところだった。このクニを討つことを承知しておきながら自分が甘いことを言っているのは分かっているが、やっぱり人が死ぬのは嫌だ。


「……そうじゃな……。」


 それきり、タケハヤは少しだけ考え込んでから答えた。


「はっきり言おう。出さないつもりでいるが、まったく出ないかは分からん。うまく柵内に兵を引き込めたとしても、その後の兵同士の衝突は避けられぬであろうからな。」

「そう……。」


 そう言って目を外したタケハヤの態度に、よほど自信がないのことが察せられた。

 何かちょっと変わった手を使うようだが、これはあくまでも戦なのだ。

 しかし、容易に想像のつく答えだったとはいえ、タケハヤの口からその言葉を聞いて、落ち込まずにはいられない。

 トラひげとその取り巻きはともかくとして、ここに暮らす人たちに別にこれと言うほどの恨みはない。タエさん、チユさん、サヨ、おひい様……。他にも皆一様ではないとはいえ、総じて好い人たちばかりだった。


「何か相手の隙を突ける妙案でもあればよいのだが。」

「……あるわ。」


 独り言ちたようなタケハヤの言葉にピンとひらめくものがあったわたしは彼に教えた。




 三日後に迫った大地の恵みに感謝の祈りを奉げる祭り。

 実は幾日も前からわたしも準備に駆り出されていて、その中で聞いた話では普段は宿舎で待機している守兵たちもこの日の夜ばかりは祭りに加わって共に豊穣を祝うのだという。

 この時、残っているのはわずかばかりの見張り役だけ。

 この日ならば差し入れと称して見張りたちに酒を振る舞うも不自然ではない。




「でかした。それじゃ!」


 ひざを打って喜ぶタケハヤ。

 そして、わたしたちは決行に向けての細かな段取りを決めた。


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