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【完結済/手直しするの止めました】神殺しの皇女  作者: 埼山一
第七章 終焉の到来
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第55節 タケハヤの野望

「わしはこのクマのクニを平らげるつもりじゃ。」


 「ひいの君」との根競べに負けたわしは正直に打ち明けた。

 一個のクニを亡ぼす。おのれが仕えるクニを亡ぼす。そう聞いても彼女は表情一つ変えることなく、動揺の気配は見せない。


(強情な娘だ。)


 そんなだから、これほど辛い目に会わされても耐えてしまうのだろう。

 痛々しいほどに乱雑に切られた髪と、こうして横たわるしかないほどに痛めつけられた彼女の姿を見ていると、彼女への憐憫とこのクニに対する憎悪の情が湧いてくる。


(何とか助けてやりたい。)


 彼女を故郷に帰してやりたい。だが、今のままではそれも叶わぬ夢にすぎない。

 そのためにもやはり、このクニの制圧は避けられないことだ。


「しかし、そうするにはこのクニの守りはあまりに固い。」


 深い濠。高い柵。兵も民も多い。

 対してこちらがクニから託された兵はあまりにも少ない。

 わずかばかりの兵を引き連れて正面からぶつかったところで跳ね返されて終わるだけだろう。

 だから、わしは一計を案じた。




 第一の策に、多くの贈り物を渡して、国の力の差を思い知らせ戦わずして屈服させる。

 だが、これは失敗した。

 クマに贈った物は舶来の鉄器、銅器、織布が多くを占めていた。

 その中には明らかに他とは意匠の異なる黄金の印章も一つ、これはたいそうな勿体をつけて恭しく贈り付けてやったのだが、トラひげには理解できなかったのか、どこでも取れるような食物などつまらない物を喜んでいた。

 トラひげには、あれほど多くの貴重な品を惜しげもなく贈ってくるクニの力を想像できなかったのか、あの傲岸不遜な態度が改まることはついになかった。

 まあ、これはよい。こんなことで相手を屈服させることができるなどと本気で思ってはいない。

 これはあくまで本命の策の仕込みのついでにすぎない。




 そこで想定した通りに第二の本命の策に切り替えた。

 本命の策は極めて単純なものだ。

 トラひげを怒らせる。そしてヨシノに攻め込ませる。

 単純な男だ。一度、信頼を寄せた人間に裏切られたと知れば、烈火のごとく怒り出すことは想像に難くない。

 事実、あやつはわしの予想した通りに……、いや、予想を超えて猛り狂っていた。

 あれだけ怒らせれば柵のほぼすべての兵を引き連れていくだろう。

 そうしてもぬけの殻となったクマの柵を一息で攻め落とす。

 闇夜に乗じるなどして、敵の不意を突けば少ない兵でもこのクニを落とせるだろう。

 そういう算段だった。

 ヨシノには悪い気もしたが、あそこにも兵はいるのだ。

 何とか持ちこたえてくれればクマの制圧を終えた兵をとって返して、奴らの背後を突けば挟み撃ちにできる。まあそれでいいではないか。




 慣れぬ謀も上手くいきそうで、トラひげとの対面中にも関わらず、思わず笑みが漏れそうになったほどだ。


(だが……。)


 その第二の策も危ぶませる事態が発生した。

 「ひいの君」だ。

 予期せぬ彼女の乱入によってトラひげの怒りの矛先が彼女に向いていしまった。

 それでは彼女を罰することでトラひげの溜飲が下がってしまい、ヨシノを攻め込むにしても十分な数の守兵を残していくことが予想できた。

 だが、それでも落とせないことはない。

 この柵には我が手の者を潜入させているし、中に忍び入るための道も秘かに作ってある。

 これらを上手いこと使い、計画通りにトラひげがヨシノを攻めるその留守を突けばやはり柵を占拠することはできたはずだ。


(たとえ、その過程でこの娘がどのような仕打ちにあったとしても……。)


 覚悟の上だった。時間も財もかけた仕込みはそう簡単には捨て去れるものではない。

 彼女は、自分がヨシノの者ということはひた隠しにしていたようだが、そもそも間者として疑われている。

 いざ戦となれば後顧の憂いを断つためにトラひげが彼女をどのように扱うかは想像に難くない。

 だが、彼女が死罪に等しい刑を受けていると聞き、居ても立ってもいられなくなって、こうして実際に傷つき伏せった彼女を目の前にすると、どうしてもおのれの選択が間違っていたのではないかという悔悟に駆られる。




「……。」

「……。」


 互いに沈黙が続く。決心がつかない。彼女をこのようなクニ同士の諍いに巻き込んではならないと心の中で警鐘が鳴りやまない。

 しかし、このまま放っておけば彼女は遠からずして殺される。

 なればこそ彼女の手を借りなければならないほどに差し迫った事態になっているのだ。


「……そこで、そなたの手を借りたいことが一つ。」


 ここまで考えて、ようやっとのことで続きの言葉を口にする。

 だが、ここまで言っておきながら、どうしても気が引けてしまう。傷ついた彼女にはあまりに荷が重いのではないか。


「……。」


 彼女は沈黙を保ったままわしの次の言を待ち続けている。


(実に強情……。)


 わしはふうと一つ息を吐いて続けた。


「そなたには櫓に構えておる見張りの兵を片付けてほしい。」


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