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【完結済/手直しするの止めました】神殺しの皇女  作者: 埼山一
第七章 終焉の到来
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第54節 来訪せし者

 誰もいない部屋で安めようのない心と体を安めていると意外な来客があった。


「やあ、女子(おなご)の身でありながら男子(おのこ)の寝所に自らやってくるとはなんと積極的な。」


 いつもなら不快感を覚えるはずの聞きたことのある軽薄な言い回しにも何の感情も沸いてこない。

 容易には動かせなくなった体のせいで確認はできないものの、換気のために唯一開け放していている窓の上に何者かが身を乗り出している気配を感じた。

 月明かりが遮られ、部屋の中が僅かに暗くなる。


「……おかげで随分と探し回ってしまった……。」


 その気配は痛恨の念を込めた言葉と共にスルリと部屋に忍び入ると、そのままわたしの傍までやってきた。


大事(だいじ)ないか。」


 ここに来てようやく気配の正体に目をやることができた。

 一体どうやって柵の内にまで忍び入ってきたものか、クマのクニから逃亡したはずのタケハヤだった。


「……。」


 言いたいことがないわけではなかったが、気力も体力も尽き果てた状態では何もかもがどうでもよく、無理を押してまで出てくるほどに言いたいことはない。


「すまぬ。あそこでそなたが止めに入るなど考えもしなかったのだ。」


 不平をぶつけるか、疑問をぶつけるか……。深々と頭を下げ、詫びを入れるタケハヤに何か言ってやりたいような、そうでないような複雑な感情に身を委ねた結果、出てきた言葉は次のものだった。


「……何しに来たの。」


 精いっぱいに声を張り上げたつもりだったが、自分でも驚くほどか細い声しか出ない。彼は聞き取れたのだろうか。


「それは勿論、そなたのことを心配して……。」

「うそ。」


 たったそれだけのために危険を冒してまでわたしの元を訪れるはずがない。

 容易に彼の嘘を看破したわたしの言葉にタケハヤが押し黙る。

 重く沈んだ空気がしばし間、部屋を支配する。


「……実はそなたに頼みたいことがあったのだが……。いや、やめておこう。」


 彼にしては珍しく煮え切らない。

 はぐらかすことはあっても、言うべきことははっきり言う男だと思っていたので彼らしからぬ意外な一面を知って、彼も人の子かと秘かに微笑ましく思う。


「言って。」


 そこまで言いかけたのなら最後まで言ってくれる方が気持ちが落ち着くからと、わたしは話の続きを促す。


「しかし……。」

「言って。」


 先程から何ら変わることのない重く沈んだ空気が二人の間に漂っている。


「……。」

「……。」


 どのくらいの間、無言の言い争いをしていたのだろうか。

 熱に浮かされガンガンと痛む頭では、なぜ向かい合って黙っているのかも分からなくなってくる。

 リー……とたまに聞こえてくる虫の音が二人の間を辛うじて取り持っているように思える。

 そして、その理由を忘れそうになる間際になって、彼は一先ず断りを入れてきた。


「……言っておくが、断ってもよいのだぞ。」

「……。」


 根負けしたタケハヤの忠告を無言で受け流す。

 わたしの沈黙を肯定と受け取った彼は腹を括ったように語り始めた。


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