第51節 主たる者の迷い
「そうですか……。」
正対して座るタエの報告を聞いてわたくしは陰鬱な気持ちになった。
ひいちゃんに科せられた刑はこれで終わりではない。
本来であれば主たるわたくし自らが彼女に告げなければならないことは分かっている。しかし……。
(訳も分からないまま苦しんでいる彼女に、救いの手を差し伸べられなかったわたくしが、一体どの様な顔をして彼女に会えばいいのでしょうか。)
できるわけがない。今更になってのこのこと彼女の前に現れて「まだ刑罰は終わってませんよ。」などと……。
(たとえ誰だって、あの娘にそんな酷なことが言えるわけがない。)
心根が優しくてひたむきで、たった今だって辛い目にあったにも拘らず、それを微塵も感じさせないように振る舞ったらしいあの娘に、更に酷い仕打ちが待っているなどと誰が言えようか。
(それに……。)
彼女も、彼女を見捨てたわたくしの顔を見たいとは思っていないのではないか。
「あの娘は聡い娘ですから、おひい様の立場も理解しているでしょう。ですから……。」
わたくしの考えなどお見通しのタエが皆まで言わずに彼女との面会を促してくる。
彼女がわたくしを恨むなんてあり得ない。会ってあげた方が彼女も安心する。そう言外に含みながらもタエの言い分も尤もなことだと思う。しかし……、
「分かりました。今日はもう下がりなさい。」
ひざに置かれていた彼女の手が、珍しくその形をこぶしに変えた。
「……。……分かりました。」
やや間をおいてから一礼して席を立つタエをそのまま見送った後、彼女に言われたことを思い返す。
(会うべきなのは分かっています。)
煮え切らないわたくしの態度が彼女を怒らせてしまった。
不首尾に終わったとはいえ、タエにはつらい役目を押し付けてしまったし、そんな引け目もあればこそ、ひいちゃんに会うべきだという思いも強まってゆく。しかし……。
(本当に……本当に会って大丈夫なの?)
どうしても踏ん切りがつかない。
ひいちゃんの心根の善さを信じないわけではないが、あれほどの仕打ちに恨みが湧かないというのも、にわかには信じられなかった。
今はそっとしておいて、彼女の心と体を安んじるほうが先決では。
(会うべきです。……いえ、しかし……。)
どうしても決心がつかないまま夜は更けていった。




