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【完結済/手直しするの止めました】神殺しの皇女  作者: 埼山一
第七章 終焉の到来
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第50節 介抱の夜

「うう……。」


 歯を食いしばって耐えているつもりだったが、どうしてもうめき声が漏れてしまった。タエさんが丁寧に当ててくれる湿布が傷口にひどくしみてどうにも堪えられない。

 タエさんの脇に目をやると、チユさんが体を拭くのに使った端切れを絞っている。

 下女仲間の二人がわたしの介抱をしてくれていた。

 あの後、意識が朦朧としていたわたしは賓客用の部屋に運ばれた。

 使者の到来で使う予定だった部屋が、一連の事件で当の本人が逃亡して使われなくなったため、ケガ人の介抱所として都合され、そこで一昼夜ほど過ごしたようだった。

 サヨはこの場にいない。まだ幼さの抜けきらないあの子にこんなひどい姿を見せるわけにはいかなかった。

 そして今、意識を取り戻したわたしはうつ伏せに寝かされて二人に身を任せる格好になっている。

 幸いと言っていいのか、骨に異常はないようだった。ただ、酷く打ち据えられた背中の肉はわずかに動かすだけでも傷が開き、激しい痛みに襲われた。


「終わりましたよ。」


 と言って背中に衣をかぶせてくれるタエさんに、


「ありがとうございます。」


 と彼女の献身に礼を言う。


「チユさんも。」


 道具をまとめて立ち上がったチユさんに声をかけると、彼女は振り返って無言で憐憫の表情にも似た微笑みを返して一足先に部屋を出て行った。


「あの、おひい様は?」


 どうしているのか、気になってこの場に残っているタエさんに尋ねてみる。

 おひい様が姿を見せていない。

 こういう時は真っ先に現れる人だと思っていたのだが、未だ顔を見せることはなく、すでに陽は落ちて暗くなってしまっている。


「おひい様は、その、いろいろとありまして……。」

「そうですか。」


 なんとなく歯切れが悪く、申し訳なさそうな調子で答えが返ってくる。

 おひい様のことだ。何かわたしのために手を回してくれているのかもしれない。そう解釈して納得する。

 それきり話すこともなくなったのでしばしの間が空く。

 外から流れてくるのは、一時に比べれば少なくなったとはいえ、虫の清唱。

 タエさんは何をするでもなく、沈痛な面持ちでうつむいているだけだった。


「見たところ骨は大丈夫ですから。きっとよくなります。」

「……はい。」


 タエさんは重い空気をはねのけて明るく励ましてくれるものの、結局会話が続かずにお互い黙り込んでしまう。

 外から変わらずに流れてくる虫の清唱に交じって森の方から聞こえてくるホーホーという声。

 再びの間と彼女の沈痛な面持ちは同じ時間を繰り返しているようにも感じてしまう。

 何か気を紛らわすことがないと気持ちが背中の痛みに向かってしまって仕方がない。

 背中の傷はズキズキと痛いのか熱いのか漫然とした感覚をばら撒いてわたしを苛んでくる。

 わたしはふと思い立って衣と一緒に返されたオオトリの首飾りを握り締める。すると心なしか温かく落ち着いた気持ちになってくる。

 言い伝えではオオトリの羽根には病を治す力があるという。

 ならばケガも治せるのではないか、そう思って手にしてみたのだが、それでも痛みが引くことはなく徒労に終わったことに「まあ、そんなものかな。」と達観する。

 するとタエさんがしばらく続いた沈黙を打ち払うべく、先程と同じような調子で切り出してきた。


「傷が癒えるまではこの部屋を使ってよいことになっています。」


 この部屋は下女部屋よりもよほど居心地が良い。そこをしばらく占有できるという朗報と言ってよい内容にわたしは好感を抱いたのだが……。


「ですが……。」


 喋り始めは明るかった調子がどんどん沈んでゆき、最後には言い淀んでしまっている。何か気になることでもあったのだろうか。


「どうしたんですか?」


 トラひげの勘気を被ったのはまずかったが、棒叩きはもう終わった。

 傷が痛いし、熱を帯びて体中がつらいけど、骨が無事ならいずれ元通りに動けるようになるだろう。

 それに、おひい様もわたしのために腕によりをかけて食事を作ってくれるかもしれない。

 悪いなりにも良いことが見つからないわけではない。


「いえ。早く快くなってくださいね。」


 無理に作ったような彼女の笑顔に、わたしはわずかな不安を感じずにはいられなかった。


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