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【完結済/手直しするの止めました】神殺しの皇女  作者: 埼山一
第七章 終焉の到来
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第49節 刑罰(後編)

 彼女の悲鳴が上がるたびに目をきつく閉じて顔を背ける。

 養父(ちち)大王(おおきみ)はなんと恐ろしいことを考えついたのか。

 今すぐにでもこの場から逃げ出したかったが、退席は許されない。


「おい、しっかりと見ておけよ。間者とはこのように扱うのだ。」


 ならばせめてと目前の光景に目を背けるわたくしに大王が忠告してくる。

 わたくしとは正反対の満悦そうな調子だが、言外に滲み出る圧がこの命令に逆らうことは許さないと物語っている。

 彼女への刑罰は反抗した義娘(むすめ)への見せしめの意味もあるのだと思う。

 大王には逆らえない。恐る恐る目を開けてなるべく視界の端に収まるようにひいちゃんの方を見る。

 彼女は先端を幾つかに裂いて束ねた竹の棒で、剥き出しになった背を打たれている。打たれるたびに肌が裂けて血が飛び散り、彼女の悲鳴が周囲に響き渡る。

 棒叩きはその音ほどに痛くはないと聞いているが、その棒で打たれ背骨を砕かれて死んだ者も少なくないことを知っている身としては、そんなことは何の慰めにもならなかった。


(ああ、なんてことでしょう……。)


 惨い。目の前で行われている光景を眼中に収めると思わず涙がこぼれ出てくる。

 だが、泣くことが許される立場ではない。それが許されるのはわたくしではなく彼女。

 おそらく彼女はなぜ自分がこのような目に遭っているのかも分からないまま、この責苦に耐えている。

 そう分かってはいても自分の意志と無関係に出てくる涙を止める術が分からない。


(ごめんなさい……。ごめんなさい……。)


 くり返し心の中で彼女に詫びる。

 そんなことをしたところでどこからも救いの手は差し伸べられないことも分かっている。

 彼女を救うことができるのはおそらくわたくしだけ。


(でも、だからと言って……。)


 大王が恐ろしい。あの血走った眼を思い出しただけで身が竦みあがる。

 大王に異見する気概も失われたわたくしにできることなど何もない。

 再びひいちゃんが倒れこんでいる。

 処刑人は棒打を中断すると、先程と同じように力尽くでその姿勢を直そうとしたものの、彼女はぐったりと力なくずり落ちてしまいそのまま動かない。


(まさか、死んでしまったのでは。)


 この上なく不吉な事態が脳裏をよぎり、胸が締め付けられる。

 すると処刑人は傍らに置いてあった甕を引っ掴むと、倒れこんでいる彼女に向かってその中身をぶちまける。

 バシャッと水をかけられたひいちゃんはやや間をおいてからゲホッと肺に入ったらしい水を吐き出しながら目を覚ました。

 そして、再び姿勢を直されると無情にも続きが再開される。


(ごめんなさい……。ごめんなさい……。)


 彼女が死んではいないことにわずかばかりの安堵を感じると、彼女への申し訳なさが再び心中を埋め尽くす。




 二十の声がかかるころには彼女はもう悲鳴を上げることもなくっていた。

 わたくしは縛めを解かれた彼女がその場に倒れ込んで半ば意識を失ったまま痙攣している様から目を逸らすことしかできなかった。


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