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【完結済/手直しするの止めました】神殺しの皇女  作者: 埼山一
第六章 使者の再来
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第43節 知らない家族の話

「よく眠れたようだな。」


 しょぼしょぼした目をこすりながらタケハヤのもとに向かうと、彼はどこか面白そうにそう言ってわたしを出迎えた。


「ええ、おかげさまで。」


 見れば眠れていないことぐらいわかるだろうに、彼に負けじと皮肉の気持ちを込めて返す。

 トラひげが一緒にいることを警戒したが、ヤツは作事に関心がないのかこの場には見当たらない。


「どうじゃ、見事な牧になるとは思わんか。」

「分かりませんね。わたし、牧を見たことないので。」


 牧の縄張りで作業している人足を手振りで指し示して誇らしく言う彼に関心なさげに応えるわたし。

 彼の指す先では人足が杭を打ち込み、牧の縄張りを形成している。

 ヨシノの人間に牧の良し悪しが分かるわけないだろう。そんなことを聞いてくるようではやはりこいつは騙り者か。

 考えてみればこいつがヨシノを騙っているらしい材料は多いが、ヨシノの人間だという証は本人がそう言っているだけということしかない。

 こんなところでボロを出すぐらいなら最初から騙らないでほしい。

 なんだか必死になって真贋を定めようとしていたのが馬鹿馬鹿しいと思えるぐらい簡単に結論が出てきて、わたしは少しだけ気が抜けてしまった。



「……これはわしがクニ元で世話になっている人の話なのだが……」

「……?」


 何を思ったのか作事場の方を見たまま彼は話を振ってくる。


「その人には娘がおってな。ある日、とても大事な用事ができたのだが、その人にはどうしても難しい。どうしたものかと思案していると、その人の娘が、自分がやると言い出したのだ。」

「はあ……。」


 彼は突然、何の話をしているのだろうか。

 まるで分らないのでとりあえず適当な相づちを打って間をつないでおく。


「ところが意気揚々と出て行った娘がいつまで経っても帰らない。難しい用事だったからてこずるやもとは思っていたが、いくらなんでも遅すぎると。」

「……。」


 何だろうこの話。

 聞いてるとちょっと息が詰まると言うか、胸が痛い感じがする。


「娘の身に何かあったのかもしれない。いつまでたっても戻らない娘を今も家族や友人が心配しておる。」

「……。」


 そこで話が終わったのか続きを待っていても彼は口を開かなかった。


「……なんですか、その話は?」

「……。」


 重く沈んだ空気を思い切って打ち破って聞いてみたが、彼は牧の作事風景を見つめたきり答えなかった。


(帰らない娘を待つ家族、友人……。)


 心当たりがありすぎる話をされてにわかに心がざわめき立ってくる。なぜ彼は急にそんな話をしだしたのか。

 黒だと断定したのを見透かしたようにこんな話をするなんて、やはりこいつは何かを知っているのではないか。


(父さま、母さま、兄さま、みんな……。……くーちゃん……。)


 たとえ会えなくなっても、ヨシノが恋しい。帰りたい。

 一度、着いてしまった郷愁の火は消えることなくチロチロとわたしの心を焦がし続けた。


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