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【完結済/手直しするの止めました】神殺しの皇女  作者: 埼山一
第六章 使者の再来
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第40節 一夜の出来事(中編)

「そなたに聞きたいことがあってな。」


 頬杖を突きなおしてタケハヤは続けた。


「このクニの貴人、大王(おおきみ)と姫君の二人のことだが……そなたの目から見てどう思うか。」

「なぜわたしのような一介の下女にそんなことを聞くんです?」


 わたしの穿ったような問いにも怯まずまっすぐに返してくる。


「そなたがこのクニの人間ではないからだ。あの二人の外向きの顔ではなく内向きの顔、それでいて身内の目線ではない評が知りたいのだ。」


 そういうことか。彼の言うことはすべて疑ってかかることにしているが、確かに筋は通っている。

 ふうと鼻でため息をついてから語りだす。


「トラひ……大王の方はどうだか知りません。あまり係わらないようにしているので。」


 事実、トラひげのことは避けていた。

 奴はわたしを目の敵にしているので近くにいると気分が悪いし、身の危険を感じることもあった。

 おひい様たちもそれはわかっていることなので、それとなく遠ざけてくれているようだった。

 粗暴な男、ということを言おうとしたが言いとどまった。タケハヤも有無を言わさず囚われの身となったことがある。わざわざ言わなくても分かっているだろう。


「民の間から何か不満のようなものが聞かれることはないのか?」

「……そういうのは聞きませんね。そういう意味では、まあいい大王なのかもしれません。」


 少し考えてからそう答える。あれで身内には優しいのかもしれない。個人的には大嫌いだがと心の中て付け加える。


「妻子などはおらぬのか。」

「ん……。懇意にしている女は何人かいるみたいですが、妻と呼べる人はいないようです。子どもも……いないのかな……。」


 女の出入りは見るが子どもは見たことがない。矢継ぎ早に出される質問に思いついたまま答えてゆく。


「なるほど。では姫君の方はどうか?」

「おひい様は裏も表もない素晴らしい人です。優しい人です。」


 問われて即答するわたしを見て、期待通りの回答を得られたのかうんうんとうなずくタケハヤ。


「では姫君に良人などは……。」

「……。……いません。」


 こいつにはあまり聞かれたくない話題だったので答えるのに少し間が空いてしまった。

 どういうわけか、おひい様は婿を取ろうとしない。もういい齢なのでタエさんがやきもきと気を回しているのだが。


「言っておきますが、わたしはおひい様のことが好きです。外から見た公平な評かと聞かれたらいいえと答えますし、あなたが言い寄ろうとするなら妨害することも辞さないですよ。」


 どういうつもりでこんな質問をしたのか知らないが念のため釘を刺しておく。

 わたしもおひい様には良い人を見つけてほしいと思っているが、こいつはだめだ。信用できない。


「もういいでしょうか。こんな間者の真似事のような事をしているのが知れたら、おひい様はともかくトラひ……大王からどんな咎めを受けるか。」


 特に面白くもない割に危ない匂いを孕んだ話にいい加減帰りたくなってきたので話を切り上げにかかる。


「そうじゃな。そなたも今後のことがあろうし、今宵はこれぐらいにしておくか。」


 思ったより簡単に彼の同意が得られたので「では。」と頭を下げて部屋を出ようとするとタケハヤが話しかけてくる。


「おや、どこに行くのかな?」

「どこって、部屋に帰るんですよ。」


 腰を上げて答えるわたしに彼は「それはいかんな。」と返してつづけた。


「わしはそなたと褥を共にするつもりで呼び出したのだ。他の者はそう承知しておるぞ。」


 そう言われて「え?」と声に出したか出さないか自分でもわからないほどの動揺が駆け抜ける。

 自分の方から訪ねるつもりだったので、そういう呼び出しだったとは全く考えていなかった。


「こんなに早く帰ってはそなたがわしを袖にした。つまり非礼を働いたことになる。それではトラひげが黙っておるまい。」


 タケハヤはそう言ってにやりと笑う。


(どうしよう、そんな気はないのに……。)


「まあ、日の出頃まではいないと怪しまれるぞ。」


 彼は何やら面白い玩具を見つけたかのようにニヤニヤとして話しかけてくる。

 どうしていいかわからない。胸が今まで感じたことがないようなものすごい勢いで脈打っている。


「……でも……わたし、そんなつもりは……。」


 なんとか、怒らせないように、非礼に当たらないように、断りたい。帰りたい。助けて。


「……分かっておる。わしとて合意もなしにそなたと事に及ぶ気などない。」


 予想外の展開にオロオロするしかないわたしの無様な姿を十分に堪能したのか、彼は自らがわたしにとって無害な存在であることを主張した。


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