第32節 饗宴の準備
ヨシノの使者と名乗った者たちが連れてきたケモノが広場に引き出され、それに積んであった荷が紐解かれると、それを見たトラひげは飛び上がって喜んだ。
彼らの縛めを直ちに解き放つとタケハヤの手を取って、
「是非もないことだ。貴国との友好を結ぼう。」
と言った。
トラひげの後に続いたおひい様は、
「ご無礼、なにとぞお許しくださいませ。」
と不当な扱いを詫びたが、
「まったく気にしていない。」
とのタケハヤの回答に一安心とばかりに胸をなでおろしていた。
そして、日の沈む前に歓待の宴が開かれることになった。
急なことで、おひい様は饗応の担当として慌ただしく動き回り、その配下の女たちも同じように走り回っていたのだが、ただわたしだけが風に吹かれては幹の凸凹に足を引っかけて辛うじてその場に留まり続けるセミの抜け殻のようにふわふわとその場に立ち尽くすばかりだった。
おひい様がそんなわたしを慮ったように声をかけてくる。
「ひいちゃん、あなたはもういいから休んでらっしゃい。」
「え……でも……。」
放心していたわたしはおひい様の言葉にはっと我に返る。
「いいから。みんなには体調が悪いと言っておきます。あとでお話ししましょうね。」
そうまで言われては引き下がるしかない。だいたい、その場にいるだけで役に立ってはいないのだ。
わたしはぺこりと頭を下げると下女部屋に帰った。




