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【完結済/手直しするの止めました】神殺しの皇女  作者: 埼山一
第四章 囚われの地で
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第28節 着替え

 一通りの話が終わるのを見計らったように沸かした湯と(きれ)、それに替えの衣服が運ばれてきた。

 運んできた女は布を湯に浸して絞ると、次にわたしの(ころも)を脱がそうと裾に手をかける。


「自分でやれますから。」


 わたしはそう言って女を制すると裾に手をかけ衣を上に持ち上げたのだが、その瞬間に背中にビッとした痛みが走って衣を脱ごうとする手が止まってしまう。

 衣が背中に張り付いている。無理に脱ごうとするとビリビリと痛みが走る。

 そういえば棒で打たれた時、背中に血の感触を感じていたがそれが糊になって固まってしまったようだ。


「横になってください。」


わたしは独力で服を脱ぐのを諦めると、女に言われるままにうつ伏せになり、女は濡れた布を背に押し付けるようにして衣に吸わせ、また布を湯に浸しては衣に吸わせと繰り返す。


(ふわぁ……。)


 衣に染みてゆく湯の温かさが心地よい。

 衣が十分に湯を吸ったところで少しずつ剥がしてゆく。

 そうして、時々ふやかしきれないところに痛みが走ることもあったが、どうにか衣を剥がすことができた。

 体を起こして衣を脱ぐと女は再び湯に浸した布で腕、肩、髪……と丁寧に拭ってゆく。

 その間わたしはもう一枚の布を使って顔、胸、腹と体の前の方を拭いた後、足結(あゆい)を解いて(はかま)の裾をまくるとひざから下を拭った。

 その様子を見ていたおひい様は、ときおり何か手伝いたいかのように腰を上げようとしたが、そのたびに女に制止されしゅんとしていた。




 最後に残された背中は、女は布をひときわ丁寧に優しく押し当てるだけにとどめると、わたしに脇に置いてあった衣服を渡して着替えるよう勧めた。

 わたしは言われるままに着替えようと立ち上がっておひい様に背を向けると、


「まあ……」


 と絶句するおひい様の声。背中の傷に驚いているようだった。

 まだズキズキと痛みの取れない背中はおそらく青黒く痣になっているのだろう。衣を脱いだ時に傷が開いたのも分かっている。

 いつまでも人に見せたいものでもない。わたしは手にした衣を開いて確認する。

 渡された衣は袈裟衣のようだった。袖を通し、前の方で合わせて紐で止めた後、衣の内側に入った髪をかき上げるようにして出す。




 続いて褌。動くたびにパラパラと泥が落ちる褌を脱ぐと、


「板のあるほうが背ですよ。」


 と教えてくれた女の言に従って渡された褌に足を通す。

 腰ひもを縛ってから足結の紐がないことに気が付く。探したが見当たらないので自分のを使えばいいかと思ったのだが、「足結は不要ですよ。」という女の言葉にそういうものなのかと納得する。




 着替え終わるとおひい様が待ちかねたように、

「似合っていますよ。」

 と褒めてくれた。

 わたしは自分の姿を見下ろして、それにしても上等な衣服ではないだろうかと思う。

 衣も褌も麻には違いないが、生地は染めてあり縫い目も形もしっかりしている。

 はっきり言ってしまえばわたしが普段着ている物より上等だ。

 いくらなんでもこれは下女には勿体ないのではと問うと、


「おひい様の下女ともなれば、それなりの形というものが求められます。」


 とおひい様に代わって、わたしの着ていた服を片付けている女が答えてくれた。


(わたしもクニに帰ればおひい様なんだけどな。)


 ここの下女よりも形がなってなかったのか。と、ある種の卑屈さにも似た感情が湧いてくる。

 女はわたしの気持ちを余所に、わたしが今まで着ていた服を湯の入った甕や布と共に持って部屋を去ってしまう。


「まだ、使えそうなら洗ってお返ししますが……。」

「いえ、諦めてます。」


 元々着古していたところに森を歩き回り、棒で打たれたものだからすっかりボロになっている。むしろこんな上等な衣服を与えてくれたことにわたしは感謝した。


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