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【完結済/手直しするの止めました】神殺しの皇女  作者: 埼山一
第四章 囚われの地で
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第27節 提案

「さて、これからのことですが……。」


 と、次なる話題を切り出した彼女がにこやかに言った。


「どうでしょう、わたくしの元で働いてみませんか?」


 予想外の提案にわたしはキョトンとした表情を浮かべる。

 わたしに下女になれと言うことだろうか。

 彼女の提案にわずかな警戒心を抱き、話の続きを聞く体にも力が入る。


養父(ちち)はこのクニで最も偉い方、大王(おおきみ)です。大王を止めることは誰にもできません。養父があなたを処刑すると言えばその通りになるでしょう。」


 さも当然のことのように話す彼女の様子にわずかに驚嘆する。

 ウチのクニの大王には、人を生かすの殺すのと言ったそんな権力はない。

 ウチの大王は、あくまでも議事とりまとめといくつかの神事の責任者と言ったところだ。

 むろん敬意を払われる立場なので多少のわがままは通るが、処罰するのしないのを単独で決めることはない。

 それだけでも大王の権力の質がウチとここではかなり異なっていることが窺い知れた。

 だが、そのことを確認するために話の腰を折るのも憚られたため、このクニではそうなのかと類推する。


「ですが、わたくしの下女でしたらその限りではありません。わたくしの領分である限り大王と言えど、由なく手を出すことはできないのです。」


 淡々と説明する彼女の言葉にそういうことか。と納得する。


(しかし、下女になるのは……。)


 いまだ、踏ん切りがつかないわたしに、彼女は畳みかけるよう手を取って続ける。


「それにじっとしていても気が滅入るばかりでしょう。ね?」


 彼女の何やら熱のこもった弁に思わずのけ反る。


「大丈夫ですよ。下女と言いましてもしばらくやることはありませんし、実際には話し相手のようなものですもの。」


 つまり、やることのない話し相手の下女になると、トラひげから守ってくれる……。

 ぐいぐいと顔を寄せてくる彼女の瞳がキラキラしている。


「は、はい。」


 このままだと押し倒されそうなほどに近づいてくる彼女の熱意に了承するしかなかった。




 彼女を何と呼べばよいのかわからない。下女になるからには名前を呼ぶのは不遜だろう。

 そこで呼び方を聞いてみると、次のような答えが返ってきた。


「そうですね、わたくし、皆からはおひい様と呼ばれておりますので、そうお呼びくださいな。」


 彼女の答えに得心し、「はい。おひい様。」と応答すると今度は彼女から質問が返ってくる。


「あなたのことは何と呼べばいいかしら?クニの皆は何と呼んでいたの?」

「わたしも、その……おひい……と、呼ばれてました。」


 主人になろうという人と同じ呼ばれ方じゃないか……。そこはかとないばつの悪さを感じて言い淀む。


「まあ、それは奇遇……でもありませんね。では、わたくしもあなたのことはおひい様とお呼びしますわ。」

「あの、それはさすがに……。」


 それでは素性が周囲にばれてしまう。それはわたしの望むところではない。

 それに、おひい様。おひい様。と互いに呼び合う姿を想像すると何とも可笑しなものである。


「あら、そうですわね。う~ん……それではひいちゃんと呼ぶことにいたします。」


 ちっとも変わってない。「お」が取れて「様」が「ちゃん」に変わっただけ。

 それもちょっとと難色を示したのだが、今度は彼女も引き下がらない。


「いいじゃありませんか。そう呼ばれたぐらいで他所の高女だと気付く者などおりませんわ。

 それにわたくしおひい様と呼ばれてばかりで、一度でいいから誰かをおひい様と呼んでみたかったのです。」


 それはそうだろう。おひい様と呼ばれている人が、一体何があれば余人を指しておひい様と呼ぶ機会があるのか。

 しかしながら、誰も気付かないというのもその通りかもしれない。まさか他国の高女が下女になっているなど誰も想像しないだろう。


(それに……)


 と、ここまで考えてしんみりとした気持ちになる。気づいたことがあったのだ。


(それに、その声でそう呼ばれるとちょっと安心する。)


 先程から何かが似ていると感じていたが、その正体は声だった。

 くーちゃんのことを思い出しながら彼女の提案を受け入れることにした。


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