第25節 粥
連れていかれたのは宮殿の脇にある建物だった。高床になっている立派な造りの建物だ。
わたしは部屋の中ほどに座らされた。
彼女は、カピカピに乾いた泥土のこびり付いたわたしの顔や手足に、自らの衣が汚れるのも気にせず、その袖で優しく拭い、また原形を留めないほどにほつれていた揚巻を解くと丁寧に櫛で梳いて後ろで結ってまとめてくれた。
それらが終わると見計らったように食事が運ばれて来る。粥と菜の塩漬け、それに白湯を出された。
「さ、遠慮なく。」
対面に座り穏やかに告げる彼女にうながされて、さじと椀を手に取り粥に恐る恐る口をつける。
何が入っているものなのか、ほのかな酸味と塩味が口の中に広がり食欲をそそる。家で出される粥のような土器の臭さはまったく感じない。
(美味しい。)
今までに味わったことのない爽やかな口当たりに口元が綻ぶ。
「よかった。お口に合ったようですね。」
感想を口には出していないはずだが、わたしの様子から察した彼女が言った。
しかし、わたしはその言葉も耳に入らないほどにもう一口、もう一口と夢中になって手を付ける。
手が止まらない。これは美味しい。
(美味しい。)
……けど……。
なぜか手が震える。
次第にさじを持つ手が、椀を支える手が震えてくる……。
両手にだんだんと力が入らなくなって、ついにはポロリと落としてしまう。
カッという椀から粥がこぼれ落ちる音に呼応するように、涙がポロリと零れ落ちる。
……もう一滴。……また一滴。
今まで必死に押さえつけていた感情があふれ出してくる。
「う……うわああ……」
声を上げて泣き出す。
オオトリを逃がした。
くーちゃんを助けられなかった。
火に巻かれたお兄さまがどうなったか分からない。
縛られて棒で打たれた。
牢に繋がれた。
死のう。くーちゃんと一緒なら……。
そう思っていながら、出されたご飯が美味しいなどと喜んでしまう自分の浅ましさにどうしようもなく涙が出て止まらない。
「あらあら、どうしましょう。そのように泣かないでくださいまし。」
そんなわたしを見た彼女はいくらか慌てたようにそう言うと、そそとわたしの脇へと寄って、自分の衣が汚れるのも気にせず包み込むように抱きしめる。
「大丈夫ですよ。何も心配いりませんからね。」
そう言ってくれる彼女のぬくもりが温かな安らぎと、安らぎを感じてしまう自分の惨めさを強く意識させ、わたしは泣いた。




