第21節 急転
どやどやとした音を聞いて異変に気付いたのはしばらくたってからだった。
落とした視線の先ある、雨水を吸ってズルズルと滑る土にうすぼんやりとではあるが、わたしの影が映りこんでいる。
音が近づいてくるほどにはっきりと濃くなってゆく影を見て、ようやくわたしは悟った。
ここは自然にできた谷の底などではなく、人の手によって造られた谷、環濠の底だったのだと。
環濠の底を照らす松明の灯りが一つ、また一つとその数を増やしてゆき、わたしを包囲する輪は急速に完成しつつある。
今からではとうてい脱出は間に合わない。
そのうち、松明の一つがわたしのそばに投げ込まれた。
環濠の底で座り込んだわたしの姿を確認すると梯子が下ろされ、何人かの男たちがそれを伝って下りてくる。
男たちはまっすぐにわたしのもとにやってくると取り囲み、未だ立ち上がるだけの力が湧いてこないわたしの首根っこを押さえつけるように組み伏せてくる。
「やめろ!」
泥土に頬を押し付けられたわたしは貞操の危機を感じて威嚇する。
何とか逃れようとじたばたと抵抗してみるが大の男相手にとても敵うものではない。
それでも必死の抵抗をつづけるわたしに手を焼いた男の一人が棒の先でゴツッと頭を小突く。
「……っ!」
たまらず抵抗する力が抜けて黙り込んでしまう。
男たちは抵抗をやめ静かになったわたしの腕を取ると手際よく縛り上げる。
「立て。」
縄をグイと引っ張りあげる男の言葉に、わたしはしばし失っていた我を取り戻す。
言われるがままによろよろと立ち上がり、押し出されるように歩かされる。
今すぐにこの場で貞操を失うわけではないことは分かったが、逃げることはとてもできそうにない。
今はこの連中に大人しく従うしかなかった。




