第18節 神を狩る(前編)
「いた……。」
後を追ってきたおひい様がつぶやいた。
(あれがオオトリか。)
木の陰に身を隠しながら振り返るように覗き込むと、言い伝え姿そのままのオオトリの姿に驚きを隠せない。
となりの木陰に真似るような恰好で潜む彼女に(間違いないな?)と目で確認する。彼女は(間違いない。)と同じように返してくる。
オレは音をたてぬように矢を取り出しくるりと振り向くと、弓をやや寝かせ気味にして矢をつがえ、引き絞る。
ギリ……という弓の軋むわずかな音。このわずかな音さえもうるさく感じるほどの緊張。
(気付いてくれるな……。)
しかし、こちらの願いも虚しくオオトリの顔がこちらを向く。目が合った。
(気付かれた!?)
思わず舌打ちをする。
今すぐにでも射てしまいたかったがまだ矢に十分な力が溜まっていない。ここは我慢のしどころだ。
しかし、逃げ出すと思われたオオトリはその場に留まり、何を考えているのかこちらを窺っている。
まだ、いける。
――なんじゃ、そなたは。人の子よ――
なんだこれは?頭の中に自分の声で自分のものではない言葉が響く。
(黙れ!)
雑念を振り払うように弓を引く手に力をこめる。
次の瞬間、赤く揺らめくものが視界に入る。熱い。燃えているのか。矢が。
(オオトリの仕業か!?)
奴ははただ大きいだけの鳥、つまり大鳥ではないのか?
鏃を焦がす炎は瞬く間に矢全体に燃え広がりオレの手や顔を容赦なく炙ってくる。
(まだだ……今!)
十分な力が溜まったと見るや、引き絞っていた手を放す。
矢はオオトリめがけ飛んで行く。
(やった!)
行く先を見なくてもわかる。これは当たる。仕留めた。
そして……。
ケッケーンというオオトリの鳴き声があたりに鳴り響く。
一斉に飛び立つキジの群れ。
矢はオオトリに当たった。
(やった!……いや!?)
確信を得たのも束の間、その手ごたえが不十分であることに気付く。
オオトリが倒れない。
(何故だ……。)
矢は確かにオオトリの急所を貫いている。
もう一射!と矢を取り出そうと試みるが思うように腕が動かない。
こんな時になぜ!と己の腕を見ると、腕が燃えている。
いや、腕だけではない体すべてが燃えている。
矢の炎が衣に燃え移ったのだ。
その場で転げまわり消火を試みるが、そうそう消えるような炎ではなさそうだった。
「オレはいい。オオトリを……!」
こちらの有様に慌てるばかりのおひい様にはっきりと落ち着いて指示を出す。
「妹を……!」
それを聞いた彼女は戸惑い一瞬、吹っ切れたようにオオトリに向かって駆けだしていった。
(決断が早い。判断もいい。彼女には驚かされっぱなしの旅だったな。願わくばもう少しだけ共に……。)
駆け出す彼女の背中を見ながらそんなことを考え、そして意識が遠のいていった。




