第15節 見上げる夜空
わたしのために二人が旅立ってからこれで何回目の夜だろうか。
毎晩のように空を見上げてはおひいちゃんとお兄ちゃんのことを考える。
わたしにできることは二人が帰ってくるのを待つだけ。
いまのわたしは柵の外に出なければ一人で自由に出歩くことも許されている。
おひいちゃんがいたときはずっと一緒だったので、もしや彼女は監視役でもやっているのかと思ったがそうではなかったようだ。
親友がそばにいてくれる理由をそんな風に考えてしまう。
そんなわたしでも彼女は親友と呼んでくれるのだろうか。
一人で出歩いてもそれほど気は晴れなかったが、部屋に籠っているよりはマシだ。
結局、一度もお父さんもお母さんも会いに来てはくれなかった。
仕方がないことだ。
足が悪いお父さんを残してお母さんが一人で来るとは考えられなかった。
(そう、仕方がない……。)
これ以上考えると悪い言葉ばかりが思い浮かんでくるだろう。
両親への恨み言が浮かばないように別のことを考える。
ここの人たちはみなわたしに優しくしてくれる。
特におひいちゃんの家族はみんな何かと声をかけて、差し入れをしてくれたりと気を遣ってもらっているのが分かる。
気を遣ってますという感じが出すぎる時もあるが、チヤホヤされていると言っていい。もしかしたら今がわたしの人生で一番幸せな瞬間なのかもしれない。
(でも……。)
その幸せな時も間もなく終わりを迎える。
今の、この幸せは残された時と引き換えに手にしたものだ。
夜は、さすがに外出は許されていなかった。
夜になると部屋の前に見張りが立つ。それがわたしが囚われの身であることの証。
見張りがいる間は誰もわたしを訪ねてくることはないのだが、おひいちゃんたちが旅立った数日後、一度だけ来客があった。
大ババさまだ。このクニの大王の祖母にして先の大王。
わたしは大ババさまのことは知らないし、大ババさまもわたしのことを知っているとは思えなかった。
そんな人がわざわざわたしに会いに来る理由が分からない。
大ババさまは人払いをするとわたしに向き合って座ったきり動こうとしなかった。
はじめ、部屋の外にいる見張りよりも同じ部屋にいる馴染みのない老人に気味悪さを感じた。
そしてそのまま沈黙が続き、わたしがしびれを切らして口を開こうとした時、大ババさまがぽつりと言った一言、それがわたしの胸に引っかかり続けている。
「逃げたければ好きにしなさい。止めはしないよ。」
大ババさまはなぜそんなことを言い出したのか。
見張りも払ってしまっている今、年老いた大ババさまだけでわたしを止められるわけがない。その気になれば本当に逃げられるだろう。
(いっそ本当に……。)
その日以来、逃げ出したい衝動に駆られることが増えた。
だけど、そのたびにおひいちゃんとお兄ちゃんの顔が浮かんできてわたしを思い留まらせる。
二人はわたしのためにオオトリを追っている。
お兄ちゃんのことが好きだ。
おひいちゃんのことが大好きだ。
だから二人のことを信じたい。絶対にオオトリを捕まえて戻ってくるって。
でも二人が枷になっていると感じることがある。
(なんで早く帰ってきてくれないの……。)
憎い。大好きな二人が憎い。
(わたしを自由にして、早く……。)
哀願するわたしをあざ笑う二人の姿が浮かんできては必死にかぶりを振って打ち消す。
「おひいちゃん……お兄ちゃん……。」
見えない月に向かって呟いても答えは返ってこない。




