第11節 ムジナという人
まずはくーちゃんのムラに向かう。
そこで狩支度を整え、近くにある森、あの日オオトリに出逢ったあの森に行くことになっている。
オオトリがどこに現れるか分からない以上、逢ったことがある場所を頼りにして探すしかない。
ムラまでは、通い慣れた道である。
だが、見慣れたはず風景も今日に限っては何か禍々しい雰囲気をまとわりつかせた異境の地に見えて仕方がない。
「……気負うな。それでは持たない。」
「あ、はい。」
わたしを先導するように道を行くムジナが振り返りもせずに教えてくれる。
その一言に自分がいかに緊張していたのかを気付かされる。
ゆっくりと息を吸い、止めて、ゆっくりと吐く。
するときつく握りしめていた手から力が抜けてゆくのが分かる。
そして、あらためて景色を見渡せばいつもと変わらぬ風景にほっとする。
それにしても、と今まで握りしめていた手を見つめて思う。
こんなに汗ばむほど強く握っていることに気づかなかったとは……。自分が思っている以上に緊張しているようだった。
そんなわたしに「冷静になれよ」と言いたいかのように一陣の寒風が襲ってきて思わず身をすくめる。
風が吹くと首筋に堪える。寒い。慣れない揚巻にまとめ上げた髪は、実は防寒として重要な役割を果たしていたのかと、しみじみ感じる。
わたしの髪は普段は後ろでまとめているだけなのだが、森の中で茂みをかき分けて動き回るには向いていなかった。
ならば母さまのように結い上げてしまってもよいのだが、あれは運動には不向きで歩き回っているうちに崩れてしまうだろう。
そんなわけで男の髪型である揚巻にしたのだが……。
「ははは、似合っているぞ。男にしか見えん。」
兄さまの軽口が脳裏によみがえり、腹が立ってくる。
いかんいかん。そんなこと思い出したって無駄だ。とかぶりを振る。
それにしてもムジナはこちらに気を配るでもなくずんずんと進んでゆく。
兄さまは普段わたしをからかって意地悪なことを言うが、いつも歩みはわたしに合わせてくれたものだが……。
(わたしとお兄さまよりも年の離れた兄妹か……。)
兄妹というよりも親子に近い。二人で遊ぶことがなかったのかな。
さっきの別れも、これが最後になるかも知れないとは思えないほど簡潔なあいさつだった。
(もしかしたらあんまりうまくいってないのかも……。)
いや、今はそんなことに気を取られていても仕方がない。
そう気を取り直すと、少し先でムジナが立ち止まりわたしを待っている。
「気が付かなかった。すまない。」
「いえ、そんなことは。」
歩みを合わせてくれるムジナを見て、優しい人、ただ少し不器用なのかな。と、わたしは彼に対する認識を改めた。




