第9節 出立の前日
当日の段取りなどを打ち合わせたのはその翌日。
わたしが直接狩猟をするわけではないので、ほとんど自分の身の回りの用意だけしておけばよかった。
くーちゃんはと言えばあまりに長いこと神殿に閉じ込めているわけにもいかないので、柵の中に限って自由に出歩けることになった。
ムラにこそ帰れないけれど、それでも外を歩くというのはよいものなのか、いくらか明るい表情を見せるようになった。
家族と会えればなお良いのだが、くーちゃんのお父さまは足が悪く、ここまで来るのは難しい。お母さまはそんなお父さまを放って一人で来るような人ではない。
お兄さまは会いに来られるのだが、オオトリ狩猟の準備で忙しい。結局くーちゃんに会えたのは打ち合わせのついでに顔を出した時だけだった。
それからのわたしは自らに課せられているお努めもそこそこに日のあるうちはくーちゃんにべったりくっついていたのだが、父さまも母さまも何も言わなかった。
それから幾日が経ち、出立の前日。
「え……?」
あのね、と意を決して切り出したわたしの話にくーちゃんの表情が曇る。
「あのね、わたししばらくくーちゃんと会えないの。」
一言一句違わずにくり返す。
本当はもっと早くに言いだすつもりだった。
だが、いつ切り出そうかとしているうちに今日まで来てしまったのだ。
「なんで……?」
見る見るくーちゃんの表情が曇ってゆく。
彼女の瞳が急速に揺らいでいるのが見て取れる。
切り出し方を間違えた。
そう思ったのだが、やってしまったものは仕方がない。
「あのね、落ち着いて聞いてほしいの。実は――」
そして、わたしは事情を話した。
「えと……じゃあ、つまり……」
「うん。オオトリを贄にすれば、くーちゃんは助かるかもしれないってこと。」
突然の説明にいまいち理解が追いつかないようなくーちゃんに端的に結論を伝える。
「あんまり期待させちゃいけないから言わない方がいいかと思ったんだけど、やっぱり会えないってなると――」
実は父さま、母さまからはくーちゃんにこのことは言わない方がいいと言われていた。
オオトリを捕まえられる保証はない。
いや、むしろ失敗する可能性の方が大きいだろう。
期待を持たせておきながら失敗したとなったら、より辛い思いをさせてしまう。
確かにその通りで、わたしも言うつもりはなかったのだが、毎日様子を見に来ているわたしが、突然顔を見せなくなったらくーちゃんはどうなるだろう。
くーちゃんは今、ギリギリのところで保っている。
そのギリギリで支えている柱がわたしであることはわたし自身十分に自覚している。
だから、何も告げずに去るということはできなかった。
「だから、ね?」
そう言って手を差し出す。
わたしを信じて、とまでは言えない。分の悪い賭けだ。今のわたしに言える精いっぱいの言葉だった。
「……うん。」
ただそれだけを返したくーちゃんは差し出された手を握ってくれる。
それ以上、多くは語らなかったが、お互いに通じ合うものがあって、わたしたちはうなずき合った。




