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第8節 オトナたちの会議

 さて、大ばばさまの占いによって、くーちゃんの代わりとなる贄を用意することは吉。ということはわかった。

 あの後、このことを協議すべく大王(おおきみ)は近隣のムラムラに召集の使いを出しだのだが、全員集まるまではまだ日数がかかるだろう。

 その間、わたしは暇を作っては神殿に幽閉状態になっているくーちゃんのもとに通いつめた。彼女の心が少しでも安まるようにと。

 くーちゃんはときおり笑顔を見せてくれることもあったが、その心に落とした影が消えることはついになかった。




 後日、おもだった顔ぶれが集まり話し合いが行われた。

 はじめ、協議に参加するつもりだったわたしは退室を求められた。

 いくら大王の娘と言っても、オトナでもなければ成人してもいない者がいていいはずがない。

 が、それを承知の上でわたしは一歩も引かなかった。

 引くはずがない。親友の命がかかっている。

 オトナたちはそんなわたしの熱意に押されたのか話し合いには一切干渉しないということで同席することが認められた。

 わたしは皆の妨げにならないように集会場の片隅に座り議論の行方を見守ることにした。




 大王の発議の元おこなわれた、贄の選定をやり直すという案。

 はじめこそ異口同音に、


「いまさらそんなことが認められない。」

「くじを通してご神託をいただいた結果。」


 といった声が大勢を占めていたが、


「代わりとなるものは人ではない。他のモノになる。」


 という大王の言葉に、「それなら……」と多くの者が引き下がった。

 贄を出すなど、皆、苦渋の決断だったのだ。

 成り行きを見守っていたわたしは少しだけほっとしたような温かい気持ちになった。

 しかし、揉めたのはこの後だった。




 何をもって代わりとするのか。ここが決まらない。

 先にも述べたが、通常であれば贄はくじを用いて決める。

 しかし、今回の件は少々事情が違う。

 今回は一度くじで決めた内容を反故にしようとしている。

 ここで再びくじに頼ろうものなら、ご神託を下さった神の怒りを買うだろう。どんな神罰が下るかわからない。

 よって、くじに頼ることができない。

 贄が大物であればあるほど良いというのはわかるのだが、何にすればよいのか……。

 次第に発言も少なくなり、議論が行き詰まりを見せ始めた頃、


「オオトリを狙う。」


 と、それまでじっと下を向いたきりで、一言も発していなかったくーちゃんのお兄さまが言った。

 皆の視線が一斉に集まる。


「半端なものでは意味がない。オオトリを狙う。」


 面を上げ再び言い放つ。

 確かにその通りだ。

 もし適当な贄を用意して、大神とやらが鎮まらなかったら、結局くーちゃんを差し出すということになってしまう。


「それは、そうだが……」


 と誰かの声。


「ううむ……。確かにオオトリに優る贄はあるまいが、あれは誰にでも捕まえられるものではないぞ。何より心を許さぬ者の前には決して姿を現さぬと言うし……。」


 と続けて大王が言う。他の者もこれに続く。


「おぬしの腕は誰もが認めるところではあるが……。」

「そもそも逢えぬものをどうやって捕らえるのか……。」


 わたしはその言い伝えは聞いたことがなかったが、どうやら、皆知っていたようで、一様に同意する。

 そんな言い伝えもあるんだと感心していると、


(……ん?)


 とあることが脳裏に浮かび上がる。

 わたしはオオトリを見たことがある。ならば……


「わたしが……」


 と言いかけて、口をつぐむ。

 別に話し合いに干渉しないという約束を思い出したわけではない。

 だめだ。声が小さい。これでは皆の耳はもちろん心にも届かない。

 一度息を吐いて、そして吸う。


「わたしが行きます。」


 約束を確固とした意志で破ったわたしの声が部屋に響く。

 それまでのざわついた空気がキリリと凍り付いたように張り詰める。

 皆の注目が集まる中、わたしは立ち上がり、胸元に忍ばせておいた思い出の首飾りを取り出して見せる。

 そして、続ける。


「わたしは子どものころ、オオトリに逢ったことがあります。わたしが一緒に行けば姿を見せるかもしれません。」


 皆は沈黙したままだ。大王だけがただ一人、「おお……うむ。」とつぶやいただけだった。


(失敗しただろうか?)


 と、場の空気に怯みながらも、ここは絶対に引いちゃいけないと思い、己を鼓舞する。




「いいじゃないか。行かせてやりなさい。」


 沈黙を破ったのは意外な人物だった。


「行かせておやりなさい。反対する理由もないだろう……。」


 くぐもった声で大ばばさまが言う。

 実は大ばばさまはずっと大王の横に座っていた。

 話し合いが始まる前からその場にいて、まるで置物であるかのように微動だにせずにいたものだから、この中の誰もがその存在を無きものであるかのように扱っていた。


「しかし、大ばば様。あの子に行かせるというのは……。ああ、なんだ、その……危険かもしれませんし。」


 大王はなんだか急に父さまらしさが出てきている。

 大王というよりも父としての意見なのだろう。皆に聞かれたくないのか、声を絞っている。


「元はと言えば、あたしがあんな星を見つけたばっかりに、贄を出すなんてことになってしまって……。行かせてやってください。頼みます……。」


 皆に向かって深々と頭を下げる大ばばさま。

 大ばばさまは大王の祖母であるし、先の大王でもあるからこうも下手に出られると誰も何も言えなくなってしまう。

 結局、代わりとなる贄はオオトリということで決着した。




 いつまでに用意するのかということについては驚くほど簡単に決着した。

 先の議題に引き続いて大ばばさまが「二回目の満月まで」と発言したのだ。「なぜ――」「もっと急いだほうが――」との意見もあったが、落としどころとしてはまあそんなところだろうという意見が大勢を占めた。

 そのあと、いくつかのやり取りはあったが、その通りで決着した。




 話し合いが終わり、集会場の外に出てみればピンと冷たい空気が肌を刺す。

 半分だけ満ちた月はまだ低いところにある。

 白い息を吐きながら、わたしは「よし。」と頬を叩いて気合を入れなおした。


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