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【完結済/手直しするの止めました】神殺しの皇女  作者: 埼山一
第一章 二人の絆
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第7節 二人の絆

 ムラに帰ったあと、父さまにさんざんに叱られた。いつもなら母さまがとりなしてくれるのに今日に限っていない。当たり前だ。ここは我が家じゃない。

 父さまはひとしきり怒ったあと、ふぅとため息をついて、


「無事でよかった。」


 と言って、頭をわしわしと撫でてくれた。

 一方のくーちゃんはといえば、わたしが何もかもありのままに話したこともあって、あまり叱られずに済んだようだった。

 夜更け。ようやく解放されたわたしは床に就くなり、深い眠りに落ちて行った。




「いりません。」


 兄さまが差し出してくる匙にそっぽを向きながらわたしは言った。

 翌朝、わたしは熱を出した。

 体がだるい。おなかが空いているとは思うのだが、何か食べたいという気持ちにはならない。

 それに、粥は臭い。煮るのに使った土器(かわらけ)のにおいが付く。


「じゃあ、あと一口だけ食べておきなさい。」


 さも困ったといった風に返してくる兄さま。

 わたしは渋々ながら差し出された匙を咥える。

 味がしない割に土の匂いばかりが鼻を突く粥をうっと飲み込むと、起こしていた体を横たえる。

 別に眠くもないので、手慰みに手近にあった兄さまの手を弄くり回す。

 こういう時の兄さまはとてもやさしい。何をしても怒らないだろう。


「具合はどうだ。」


 と父さまが部屋に入ってきた。


「食欲がないようです。何とか食べさせていますが。」

「それはよくないな。無理にでも食べないと元気になれないぞ。」


 父さまはそう言って、兄さまの隣に腰を下ろす。


「疲れが出たんだろう。昨日はいろいろあったからな。」


 そして、わたしの頭をなでながら言った。


「ムラ長と話をつけてきた。もう一日ここを使わせてもらえることになった。」

「そうですか。では今後の予定は――」

「いや。さすがにもう無理だろう。それより――」


 二人の難しい話が頭に入ってこない。それよりも頭をなでられるのが心地よい。

 ねえ、つまらないよ。


「うんん……。」


 と、もっとかまってとばかりにわたしは声を上げる。


「今日はゆっくり休め。」


 父さまの固く大きな手を頭に感じながらわたしは眠りに落ちた。




 昼ごろに目が覚めると熱は引いていた。

 すぐにでも遊びに行きたかったが、兄さまに言われて、その日は一日おとなしくしていることになった。

 夕暮れ前、暇を持て余して昨日のことを思い返していると、くーちゃんがお見舞いに来てくれた。


「だいじょうぶ……です、か?」


 とうつむいて、言葉を選ぶようにして話しかけてくるくーちゃん。


「うん、もうだいじょうぶ。」


 この子、人見知りするのか、あまり目を合わせてくれない。

 ちらちらと上目遣いにこちらの様子を窺ってはくるものの、目が合いそうになるとすぐ目線を下げてしまう。

 結局昨日も、一度もまともに目を合わせてない気がする。

 それでもこうしてお見舞いに来てくれたということは、嫌われているわけではないだろう。

 彼女はわたしと違って体調を崩すこともなかったようで、華奢なように見えて意外と強いんだなあ、くーちゃん……。などと思ったりした。

 だが、いろいろなことを思い付いてはいても、話題に出すほどのことが出てこない。そこで話が終わってしまう。


「あのね……。」


 くーちゃんはしばしの沈黙を打ち破ると、ふところから何かを取り出す。

 取り出したのは輪っかだった。

 首飾りか。二つある。

 あまり質の良くなさそうな玉をいくつか通してあって、革ひもで作った簡素な物のようだが、だた、その真中に一つだけ特徴的なものがあしらってあった。


「これね、尾羽……。」


 そう、尾羽だった。

 昨夜、拾った時のような輝きは失われたようだが、鮮やかな色彩はそのままだ。昨日拾ったオオトリの尾羽を二つに分けて首飾りを作ったという。

 手渡された首飾りをまじまじと眺める。

 羽根の芯の部分からきれいに二つに分けてあるため、器用だなぁと感心していると、


「お父さんがね、手伝ってくれたの。……です。」


 と、くーちゃんはこちらの考えていることを察したのか、そう教えてくれた。


「いいの?」


 わたしの問いかけに、こくんとうなずき返すくーちゃん。


「ありがとう。大切にするね。」


 そう答える。うつむいたその表情は見えなかったが、くーちゃんは笑ったようだった。




 さらに翌日。

 出立の時、ムラ長ほか世話になった数人の大人に混じって、くーちゃんが見送りに来てくれた。


「おひい……さま?」


 思わずうつむきがちな顔を上げてキョトンとするくーちゃん。

 おひい様もまたお越しください。と言う大人たちのあいさつでわたしが大王の娘であることが分かってしまったようだ。

 自己紹介したときもそのあたりのことは言っていない。変に距離をとられるのを嫌ったからだ。


「お……おひいさま……!」


 後ずさるようにかしこまって頭を深々と下げるくーちゃん。ほっとくと、「ははぁー」とばかりにひれ伏しそうな勢いだ。


「さまはやめて。あとけいごもやめて。」


 そんなにされるとこっちも困る。そんなにしないでとばかりにくーちゃんに近づく。


「でも……。」

「わたしたち友だちでしょ?」


 頭を下げたまま逡巡するくーちゃんに覗き込むようにして問いかける。


「…………。」

「じゃあ……あの……おひい、ちゃん。」


 上目遣いで申し訳なさそうな感じで表情のくーちゃん。

 精いっぱいの勇気でそう呼んでくれたんだろう、と思いわたしはにっと笑って見せる。

 そんなわたしを見て安心したのか、くーちゃんも顔を上げて微笑み返してくる。

 かわいい。そういえば笑ってるの初めて見た。

 そう思うが早いか、わたしは次の瞬間にはくーちゃんのことをギューッとしていた。


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