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【完結済/手直しするの止めました】神殺しの皇女  作者: 埼山一
第一章 二人の絆
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第6節 神鳥との邂逅

 ――それがくーちゃんとの出会いだった。

 くーちゃんはとてもおとなしい娘だった。

 この時は普通に遊んでいただけだったようだが、よく男の子にからかわれては、なにも言い返せず泣きだすということもあったようで、わたしの早とちりに対しても、


「ありがとう。」


 とお礼を言ってくれた。

 しかし、それも今だからわかることだが、男の子は別にいじめていたのではなく、気を引きたかったのだろう。

 だって、くーちゃんは当時からとても可愛い子だったのだから。

 わたしもくーちゃんと一緒にいると不意にギューッとしたくなることがあって、実際にしたことが何度もある。

 このあと、なんやかんやと自己紹介し合って、じゃあムラに帰りましょうとなったのだが、その帰り道でのことだった。




 道に迷ってしまった。

 何しろ森に入ってからでたらめに進んできたのである。

 小さな森だろうと踏んでいたのだが、思いがけず大きな森で、引き返すとかそんなことはまったく考えていなかった。

 すぐそこのムラの子であるくーちゃんならあるいはと思ったが、森に入ったのは初めてらしく、出口は分からないという。

 あたりの景色も緋色を過ぎて赤黒い。空気が冷たい。ぎゃあぎゃあと鳥とも獣ともつかない声がこだまする。

(うう……。)

 わたしは怯んだ気持ちをひた隠しにしながら前を進んでいた。

 夜の森は危険である。この時期、まだクマは出ないだろうが、それよりも怖いのは凍え死んでしまうことだ。

 振り返れば、くーちゃんが今にも疲れたような泣きだしそうな顔で自分の足先を見ている。


「だいじょうぶ、だいじょうぶ。」

「うん。」


 疲れからか生気の抜けかかったような返事。

 くーちゃんの手をしっかりと握りながらも、自分の乾いた声がむなしく感じる。

 今の「だいじょうぶ」は、自分を奮い立たせるために言った部分が大きかった。

 とにかく足を動かすことだ、じっとしていたら凍えてしまいそうだった。




 進む。足が痛い。でも足を止めたらもう二度と前に進めない気がする。

 ――進む。くーちゃんも黙ってついてくる。お互いに握り合っている手が冷たい。

 ――――進む。こんなところ通った覚えはないなと思いながら茂みをかき分けて……。


「あっ!」


 思わず声を上げたときには斜面を二人して滑り落ちていった。




「うん~……。」


 と仰向けになりながら声をもらす。お尻がズキズキする。

 幸い、下の方は傾斜が緩やかになっていたし、落ち葉もたまっていたのでケガはせずに済んだようだ。

 だが、手を引いていたはずのくーちゃんの姿が見当たらない。


(わたしのせいでこんなことになってるのに、ケガまでさせちゃったら……。)


 自分が背負っている責任に、心がヒリヒリするのを感じながらくーちゃんを探す。

 だが、その心配は間もなく解消した。くーちゃんはすぐそこにいた。

 這うようにして近づいて確認する。

 くーちゃんにケガはないようだが、座り込んだまま呆けたようにとある一点を見つめている。

 辺りはもう暗闇に包まれていた。にもかかわらず、なぜそんなくーちゃんの様子が分かったのかというと……。


「オオトリだ……。」


 くーちゃんの視線の先にあるものを見て思わず声がこぼれた。




 ――オオトリ。

 アメノオオトリとか、トヨハラノホオリヌシなどと呼ばれ、天界より飛来した神聖なる神の鳥とされる。

 太陽から生まれたとも言われる鳥で、金色七色に輝くその羽根は闇夜の中にあっても光を失うことなく、かの鳥の美しきの姿を明々と浮かび上がらせる。

 下界に降りたのちは数多のキジを侍らせ、何をしているのか、常に人には分からぬ何かを探して彷徨っていると云う。

 さらにはその羽根はあらゆる病を治し、その血は不老を、その肉は不死の力をもたらすと云われているとか何とか……。――




 木々の向こうに見える姿は紛れもなく、伝え聞いたオオトリの姿そのものである。

 周囲に侍るキジたちが、まるで小鳥のように見える。

 オオトリなんているわけない、おとぎ話だ。とばかり思っていたわたしは目の前の信じられない光景に心奪われて魅入ってしまう。

 すると、わたしたちに気が付いたのかオオトリはこちらに目線を向ける。


(あれ……目が、合った?)








 バサッという風切り音で、わたしははっと我に返った。

 オオトリはその優美な翼を広げるとキジたちを引き連れて舞い上がり、彼方へと飛び立っていった。

 そして残されたわたしたちは、しばらくオオトリの去っていった方角をただただ見つめるばかりだった。




 ややあって、わたしたちはオオトリのいた場所まで足を運んでいた。

 斜面を滑り落ちたお尻は変わらずヒリヒリしていたが、足の疲れは嘘のようにどこかに消えてしまっていた。

 いざ、オオトリのいた場所へと到着してみると、その地面はうすぼんやりと淡い光を放っており、たしかにここにオオトリがいたのだと思わせてくれる。

 さらには、心なしかここは温かい気もする。


「あ……。」


 くーちゃんはしゃがみこむと、何かを拾って空にかざしてみる。

 羽だった。尾羽。キジの倍以上もあろうかという大きさで、赤いような黄色いような光をわずかにたたえている。間違いなくオオトリのものだろう。


「いいなぁ……。」


 と、わたしも探してみるのだが見つからない。

 辺りを照らしていたオオトリの残り香も次第に消えてゆく。

 わたしは、はぐれてはいけないと思い尾羽探しを断念し、辺りにわずかな光が残っているうちにくーちゃんの手を握る。




 ……そして、あたりは闇に包まれた。

 拾った尾羽もあたりを照らすほどの光はたたえておらず、持っているくーちゃんの手の形が分かるくらいだ。

 いつから鳴いていたのかホーホーとフクロウの声が聞こえる。月は高くにあるものの、森の中を照らすのに十分な大きさとは言えない。

 しかし、不思議と怖いという気持ちはわかなかった。

 何か温かなもので心が満たされているようで、とても心地が良い。

 くーちゃんもおそらく同じ気持ちだろう、握っている手が温かい。

 名残惜しい気もするけど、いつまでもここにいてもしょうがない。そう思い、歩み出そうとした時、とある方向にゆらゆらと揺れる明かりが見えた。


「あれ。」


 先に気付いて声を上げたのはどっちだったか。

 その灯りは揺れるばかりではなく、移動してもいる。

 松明だ。わたしたちが来た方向。たぶん斜面の上。わたしたちを探す声も聞こえる。ムラの大人たちが探しに来てくれたようだ。


「助かった、の……。」


 そう言うとくーちゃんの方を見る。暗闇の中、顔は見えなかったが安心しているのは伝わってきた。


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