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【完結済/手直しするの止めました】神殺しの皇女  作者: 埼山一
第一章 二人の絆
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第5.1節 夜、思ひに耽る くーちゃんとの出会い(二)

※エピソードを分割挿入したため節数が小数点になっていますが、気にしないでください。

 それから、ムラに入ってからすぐのこと――ふと立ち止まった大人二人。そんな二人に釣られて、わたしも立ち止まっていた。

 見上げてみれば、父さまと兄さまは何やら立ち話し始めている。




「ハァ……まさか今日はたったこれだけでおしまいとは……。」

「今さら言うな。嫌なら最初から反対しておけばよかったんだ。お前だって反対しなかっただろう。」

「まあそうですが、まさかたったこれだけの距離だなんて思わないじゃないですか。」

「何を言っている。お前だってこのムラがここにあるってことは知ってただろう。で、今日はここまでだっていうのも了解の上だったはずだ。」

「そりゃあね、もちろん知ってましたよ。ですが、知ってても行く用事がなかったから、まさかこんなご近所だとは実感が湧かなかったんですよ。……ねえ父上。今日の予定を繰り上げて、もうちょっとぐらい先には行けないんですか?」

「ううむ……いや、無理だな。今朝も言っただろう?この先、集落がないわけじゃないが、ウチとの関係があまり良くない。立ち寄るぐらいならいいが、急にやって来て一泊させろなんて言うのはちょっと厳しいな。もし、無理に一泊して連中に悪心(あくしん)でも起こされてみろ。寝こみでも襲われたらたまったもんじゃないからな。」

「ハァ……一国の大王(おおきみ)と言っても所詮はそんなものですか……。」

「ううむ……いや。これはお前だから言ってしまうが……これは大王がどうこうと言うよりは俺自身の器だな。これが俺の器量の限界なんだよ。お前がさっさと跡を継いでくれれば、そんなこともなくなるんだろうが……。」

「ははっ……買い被りですよそれは。父上に無理だって言うなら、父上の子の俺にだって無理でしょう。そんな器量は俺にだってない。」

「お前……丘で散々俺を(なじ)っておいて、今さらそれか?」

(かえる)の子は蛙にしかなれませんよ。まあ、父上がもっと要領が良くて器量のある大王になれるって言うんなら、俺にもなれそうですが……。」

「……。まあいい。お前、今からムラ(おさ)の所に行って話を付けて来い。三人で一泊だ。それぐらいやってもらうぞ。」

「ええ、それは勿論。でも長も面食らうでしょうね。ちょっと立ち寄るだけのはずだったのに急に泊まるなんて言われるんですから。しかもその理由が()()()だって言うんだからなおさらですよ。」

「ふん。それだってお前の口から聞かされれば、何か深い訳があるんだろうと向こうで勝手に納得するだろう。それは俺じゃできないことだな。だからお前が行った方がいいんだよ。――ああ、荷物は置いて行っていいぞ、俺が持っていくからな。」




(ふあ……?)


 ぽかんとしながら二人の会話を聞いていたわたし。

 この二人の会話はいつも難しくて、わたしには分からないことが多かった。だからわたしは二人から興味を失うと、空を見上げていた。

 見上げた空にはまだ昇りきっていないところにお日さまがあって、今日はポカポカしてとても気持ちがいい日だった。その上で、時折吹いてくる風が歩きっぱなしで疲れた脚とか、火照った肌を冷ましてくれている。


(あ、やっぱちょっとさむいかも……。)


 こうして立ち止まっているとちょっと風が冷たかった。そこはやっぱり動いてないとすぐに冷えちゃう季節っていうことなんだと思う。

 それからわたしは足元を見た。見ると、そこには自分の影が小さくなってまとまっていた。

 人がまとまっているのが集落だと兄さまは言っていた。じゃあ、影がまとまったらなんて呼ぶんだろう?――そんなどうでもいいことを、ふと思ったわたし。でもそんなものに名前なんてあるはずがないことも、わたしは当然分かっている。


「あの。ここはうみ、ないんですか?」


 わたしは二人の話に割り込んでそう尋ねた。

 わたしの目的はあくまでも海と舶来の品。だからこんな何もないムラなんて、見た瞬間は興味を持ちもしたけれど、特に面白い物もないと分かるとすぐに関心を失っていた。


「ん?ああ、ここに海はないなあ。海まではあと何日もかかるぞ。」


 そんなわたしの問いに答えてくれたのは父さまだった。兄さまとの会話を終わらせた父さまは、海のクニはまだはるか先にあるんだと教えてくれる。

 するとそこに口を挟んできたのは兄さまで……。


「――だとさ。まあ、旅はまだこれからだ。気を落とすな。」


 兄さまはそれだけ言うと、その場に荷を下してと彼方に向かっていた。


「兄さま……おしっこ?」


 兄さまの背中を見送ったわたしは、そんなことを口にしていた。

 あの急ぎようだもの。ずっと我慢してたんだろうなと、そんなふうに思ったわたし。


「はははっ……そうだな。早くしないと漏れるからあいつも必死だな。そうだ。お前は大丈夫か?」

「はい。へいきです。」

「そうか。でもしたくなったら我慢できなくなる前に言えよ。」


 今さらわたしがそんな失敗をするわけがないのに、いらない心配をしてくる父さま。その言葉に、わたしはちょっとだけムッとしていた。

 でもどうしてだろう。もし母さまがここにいたら、父さまと同じことを言いそうな気がする。


「はい。」


 もしこれが母さまの言葉だったとしたら、口答えするなんてとんでもない。そう思ったわたしは、素直に返事をしてこの話を(しめ)ていた。

 そうして見てみれば、兄さまはとある民家に入って行くところだった。




「兄さまがもどってきたらしゅっぱつですか?」

 それから、兄さまが民家の奥に消えたのを確認したわたしは、父さまを見上げてそう尋ねていた。

 兄さまがおしっこをするために立ち寄っただけなら、もうこんなムラに用はないと思っていたのだけれど、返ってきたのはわたしにとって意外な答え。


「いや、今日はもうここまでだ。今晩はここに泊まるぞ。」

「どうしてですか?」


 まだお日さまは高いところにある。むしろまだこれからもっと高いところに昇るぐらいだった。だからもっと先に行くことはできるんじゃ?――少しでも早く海を見てみたかったわたしは、納得できなくてそう尋ねていた。


「ここから先はしばらく山道だ。さっきの丘よりもきついし、泊まれるムラもなくなる。」


 来た方と反対側に見えている山を指差しながらそう教えてくれた父さま。

 どうやら、海のクニっていうのはあの山の向こうにあるらしい。


「ムラがないと、どうなるんですか?」

「ん?まあ、野宿……あ~、外で木とか洞穴(ほらあな)に頼って寝ることになるな。」

「ふうん……。はい。わかりました。」


 そんなところで寝るのはイヤだから。なんとも単純な理由だけで簡単に引き下がったわたし。

 でも困った。そうなると途端に暇になっちゃう。さっきも言ったけれど、まだお日さまは全然高いところにあるし、明るいうちはずっと走り回っているのが当たり前のわたしは、こんなちょっとの距離じゃそんなに疲れてもいない。


(じっとしててもつまんないし……う~ん……。)


 わたしは考えた。

 父さまはここに泊まるって言ってるし、だったらこれはもう好きに遊んでもいいんじゃないの?――そう思い立ったたわたしは自分の荷物をその場に放りだすと、一人ムラの反対側に向かって駆け出していた。


「あ、コラ。どこに行く?」

「あそびに行ってきます。」


 と父さまの声に元気よく返事するわたし。


「ムラからは出るなよ。」

「はぁい。」


 やれやれ、と言いたそうな父さまの注意を背中に聞きながら、わたしはムラの中を駆け抜けていた。



悪心(あくしん)を起こす集落……まあ、国家としての明確なまとまりのない時代ですから、当然そういう野心あふれる一派もいるわけでして……。

(かえる)の子は蛙   ……初出はいつ、どこなのでしょう?「トンビがタカを生む」は?


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