協力者が必要だ
ー審査対象 谷塚 達45歳
家族構成 妻、息子2人、(故)娘1人
経歴 暴力事件で高校を中退。その後、町工場で自動車修理の仕事をする。勤務態度は真面目で勤勉。仕事仲間からの評価は良。4年前に車で家族旅行に出かけた際、強盗容疑で警察に追われた男が乗っていたバイクが接近。バランスを崩し後部座席に衝突。ガラスが割れ娘の顔や頭、上半身に突き刺さり、娘が死亡。娘の死に逆上し、犯人の胸ぐらを掴み周りの制止を振り切って殴打し、殴り殺した。この事件で警察に逮捕され、現在服役中。事件直後から躁鬱の傾向が見られ、死因は首吊り自殺と推定。
「じゃあ天羽くんには、この案件を担当してもらうから目を通しておいてー」
そう言って羽根さんから渡されたのは履歴書みたいな紙だった。名前の横に顔写真、それからざっくばらんに経歴が書かれている。髭面でひどくくたびれた顔をした男だというのが第一印象だった。谷塚達、経歴を見ると不憫な男だと思った。腕っ節が強く、学はないが真面目で実直な男なのだろう。家族を何より大切にしていたようだ。だからこそ、突然娘の命を奪った相手のことを許せなかったのだろう。その結果、やり過ぎて逮捕され、娘のことを割り切ることができず心を壊した。情を寄せ過ぎてはいけない。この男は犯罪を犯している。そこに理由があれど人を殺している事実を見逃す訳にはいかない。でも情状酌量の余地があるのではないか。天国に来れるかどうかその境界をどうやって判断するのだろう。ひとまず一見しただけだが、羽根さんに指示を仰が必要がありそうだ。昼にでも誘って相談しよう。
羽根さんをランチに誘い、最近美味いと話題になってたうどん屋へ行った。
「天国行きかそうじゃないかってどーやって決めればいいんですか」
「ズルルルルッ」
「天国へ連れて行ってもいいと思うけどその一方でどうしようもない罪を犯している人はどうやって判断すればいいんでしょう」
「谷塚のこと?麺伸びるから食べな」
「あ、はい。いただきます」ズルルルル
「確かに初心者には難しい案件を回した自覚はあるよ。まぁ、君にできると思ったからなんだけど」
「はぁ」ズルルルル
「実はさ、君を監査したの私なんだよね」
「へぇ?」ズルルルル
「人事の仕事してたってのも考慮したけど、色々調べてさー、こう表面だけの情報じゃなくその人の本質を知ろうとしてくれるんじゃないかーって思ってね」
「……はい」
「君は思ったはずだ。谷塚は犯罪、それも殺人を犯した。しかし、その経緯を見ると情状酌量の余地があると。ここで壁にぶつかったんだろうね」
「その通りです」
「うん。そういう圧倒的善人とか圧倒的悪人とか判断できない人間を相手にすることが少なくない仕事なんだよ。実は。私らの課は特にさ、何かしらの罪を抱えている場合が往々にしてある。勿論クリーンですぐ可って判断できるやつもいるけどねー。そういう場合はその人のバックボーンをもう少し詳細に知る必要が出てくる。それも迅速にね。それを知る為には協力者がいるね」
「……死神ですか?」
「そうだね。でも死神は個人主義な上、抱える案件が多い。なんらかの見返りがないと協力はしてくれないだろうね」
「見返りって具体的には」
「相手によるけど、ラッキーだったら食べ物の差し入れ、酷ければ天使の輪とか」
「ええ!そんな大きい代償が必要なんですか!?だって似たような案件の度にそんなことになってたら体もたなくないですか」
「あー、死神との契約は一回結んだら半永久的に履行されるから大丈夫!だから、1人に1死神協力者がいるって感じ。必要ないって人は契約しないし、とんでもない代償を求められた時のために入社時に保険入ってるからまぁなんとかなるよー」
「初めから想定されてるってことですね」
「まぁそーいうこと。じゃ、助言はこんくらいにして仕事戻ろうかー。ご馳走様ー」
「ご馳走様でした」
死神か。とりあえずまだ未契約の死神にアポを取ってみなければ。
午後に調べまくってアポを取れたのはなんと1人。そもそも契約結んでない死神の数が少ない上、面倒ごとはごめんだとワン切りされてしまうことが多かった。ちなみに死神は全体を統括する情報管理部(エージェント的なやつ?)があり、そこから各個人に連絡がいく仕組みになっているらしく、エージェントが各担当の性格や発言を加味して、任務や契約関する采配をふるっているようだ。そうした中で唯一、まだ契約を結んでない上本人から契約拒否の発言も聞かないため直接会ってかけあってみたらどうかと言ってくれる人がいた。早速、その人のオフの日に合わせて会いにいくことを確約した。