08 簡易付与とダンジョン攻略
「さっきあげたプレゼント。その耳飾りを錬成して効果を追加するんだよ」
「錬成して効果の付与って……そんなこと出来るの?」
「ああ。心配しなくても、形はそのままにしておくよ」
その言葉を聞いて、おずおずと顔を近付けてくるサラ。その耳に輝く耳飾りは、先程俺が選んだプレゼントだ。鉱物ベースなため効果の付与が行いやすく、プレゼント後に御守りとして後付けできると思った。ダンジョンに行くのは、その口実作りの為もある。
しかし、理由の大部分はやはり、ダンジョン内における相性の確認だ。潜るのが〈天魔の導き〉とはいえ、序盤──低階層ではそう強い魔物は出てこない。しかも、ここに来るような冒険者は大抵高層の攻略をしている奴らだ。低層ではほとんど人と会うことはない。〈淑女の庭〉より他者と鉢合わせる可能性は低いだろう。
「即興錬成」
淡い魔力光と共に錬成を済ませる。
「付与効果は簡易魔力防壁、物理攻撃に反応して体の近くに魔力で小さい防壁を作り出すものだ。魔法使いなんだし、それくらいの魔力は自前でどうにかしてくれよ?」
「それは良いけど……今のでそんな効果が付けられるの?」
「そんなって……本職の付与術師と比べたら、効率も悪ければ効果も低い。同じなのは術の速さくらいだろうに」
「そう? そんなものかしら……」
サラは随分と驚いた様子だ。ああ、そういえば魔法使いの一族だったか……外に出る機会が少なかったのかもしれないな。王都の地理はある程度知っているようだったから、全く外に出たことがない訳では無いだろう。
「よし行くぞ、準備はいいか?」
「ええ。問題ないわ」
「俺は高層まで潜ったことがあるけど、今回は攻略目的じゃないから一層から始めていいよね?」
「……逆に聞くけど、一層以外から始められるの?」
「ああ……えっと、ダンジョンに初めて入るとダンジョンタグってのが手に入る。それが、自分がどこまで進んだか記録してくれるんだ。そして、その階層にパーティごと瞬間移動できるんだよ」
「なにそれ、そんな技術が普通に使えるの?」
「普通じゃないさ。ダンジョンを作った神様の力なんじゃないか?そもそもダンジョンそのものがよく分からないものだし」
「私も、なんとなくそんな気がするわ」
ダンジョンに入ると、明らかに雰囲気が変わる。〈淑女の庭〉の静謐な雰囲気とはまた違う。血の匂いが漂ってきそうな、おどろおどろしい空気感だ。
「前衛は俺が。後衛は任せた」
「そういうのって普通入る前に決めない?」
「そうだね」
「じゃあどうして?」
「いやあ、いつも一人で潜ってたからついうっかり……いった!」
頭を叩かれた。甘んじて受け入れよう。
「錬成陣を使った攻撃は今日は使わないで、前衛に専念するから。動きは遠慮なく要求してくれ」
「分かった」
「っと……早速だけど魔物だな。目標はレッサーゴブリン2体、武器は近接のみ。戦闘開始する!即興錬成!」
素早くレッサーゴブリンとの距離を詰める。レッサーゴブリンは、亜人型の魔物であるゴブリンの下位種。緑の肌をしており、攻撃は近接のみ。基本的に単独行動をしないので、数によっては注意が必要だ。
すぐに倒すこともできるが、それではわざわざ低層から始めた意味が無い。相手の攻撃を受け流し、挑発して後衛に敵意が向かないようにする。
そうしていると、後ろからサラの声が聞こえてきた。
「『炎の礫よいでよ。我が意に従い敵を焦がせ』……フラン、避けて!」
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