06 カミングアウトとパーティ勧誘
「だからぁ、私魔法使いなのよ!」
「え、は? 」
女──サラがそう言い出したのは、俺の愚痴をあらかた聞いてもらったあとの事だった。
「あなたから見た魔法やこの国への感情は面白かったわ。私の意見も概ね同じ。この国が魔法大国になるのは……受け入れたくないわね」
「……アンタが本当に魔法使いだとして、だ。魔法が広まるのはそりゃ納得しにくいよな。今までは血族のみに伝わって来たものが急にみんな使えるもんになっちまうんだ。1つの家で伝わって来たレベルになるのも、数の力で相当早いものになるだろうからな」
「ああ、確かに。それもあるわね。私はそうでも無いけど、誇りだの特別だのとうるさいじい様が気にしてたわ」
「“も”? ……ま、よく分からんが。今更俺達にはどうしようもない。もう国として動き始めてしまったんだ」
「どうだかね……」
やたらと意味深な口ぶりをする。
「なに、気になるの? 別に隠してないから話してもいいけど、変に巻き込まれても文句言わないでよ?」
「いやいやいや、言わなくていいよ。面倒事だとは思わなかったんだ……言わなくていいからな?」
「国王から発表があったでしょ?適性うんぬんってやつ。あれ、見つけたの私なのよね」
「言わなくていいって言っただろうがぁぁあ!!!!」
こんな誰が聞き耳を立てているかも分からないような場所で言いやがって……と、カミングアウトの内容から若干目を逸らした心配をする。ただの逃げであることは間違いなく、その“逃げ”を目の前の女が許すはずもなかった。サラは更に話を続けた……ダジャレじゃないぞ?
「私が適性が属性ごとに存在すると気付いたのは今から約1年前……一族の意思決定は当主である父が決めるのだけど、その父は隠居したじい様と相談してその事実を隠すことに決めた。魔法という技術を独占するために。独占といっても、魔法を使えるのは私の一族だけじゃないけどね?」
彼女の軽い冗談になんとか笑いを返す。俺は、この話が虚構であるという唯一の逃げ道を逃さないことに必死だった。
「でも、その隠してた事実がいつの間にか外に漏れていた。漏れていたのに気付いたのが、王からの発表でってのが笑いどころよね」
「いや、笑えねーよ! あれ、おかしいな〜、なんかだんだん腹の調子が悪くなってきた気がする」
「ウチの一族は魔法使い。魔法の適性がなければ養子を迎え、その適性がなかった子はどうあがいても当主にはなれない……あれ?そこは関係ないか。それで、魔法が使える私の家の人達は、その魔法の力を使って誰が情報を盗み出したか調べた。で、この国の貴族が犯人だったと知った」
サラの言葉に固まる。明らかに国サイドに問題がある。貴族が自分で見つけたと報告したとしよう。多少の疑惑があっても、適性の調べ方が事実だと分かれば、そんなもの吹き飛んでしまうだろう。
そして、国として既に発表してしまっている。体面を保つために、魔法使いの一族、しかも国民から奪った情報だなんて謝罪も訂正もするわけが無い。
「なんで俺にそんな重大なこと言うんだ……」
「……だってあんた、魔法嫌いじゃん。公平に見てくれそうかなって」
「は?」
「ノータイムで“は?”は酷くない? ……私、家追い出されちゃったのよね。父とじい様の八つ当たりでさ。身元の証明がしにくい小娘なんて、冒険者くらいしかなれるものはないでしょう? でも、私は魔法使いですって言って回るのも怖いし……」
「まあ、確かにな」
「でも、逆に言うと、事情を話してしまった貴方はパーティに最適だってことなのよね」
「ん?」
「あんな重大なこと話しちゃった貴方は、私とパーティを組まなくても国から狙われたりしないかしら? なんだか心配ね〜。でも大丈夫、私とパーティを組めば、今なら超絶美人の私が付いてくるわよ!」
「いやなんだその下手なセールストークは」
冗談のように言ってはいるが、サラの表情から緊張していることが伝わってくる。確かに、パーティメンバー選びは大事だが、一種の賭けでもあるから緊張するのも分かる。命を預け合うのだから、それに足る人間でなければいけない。
「まあ、いろいろと言っちゃったけど……本当に嫌なら断ってもいいわ。その時は、貴方にはこれ以上関わらない」
そうしてサラが浮かべた悲しそうな笑みは、美人なだけあって随分と絵になるなと感じてしまった。
「よし、分かった」
そう言うと、サラは先程より分かりやすく緊張が顔に出した。
「明日一緒に遊びに行こう!!!」
「は?」
サラが晒した間抜け面に、思わず笑ってしまった。……ダジャレじゃないぞ。
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