Story1~Story3
学生の頃に細々と書いていた物を何らかの形に出来たら良いな、と思い長年書き留めていたものを打ち出してみました。
暇つぶしにでも出来たら幸いです。宜しくお願いします。
Story1
「暗闇の逃げ道」
明かりのない夜に、少女が走っている。少女以外誰も居ない。
走っては歩き、走っては歩き・・・息が乱れながらも確実に前には進んでいる。
行くアテなどはない。
アテがないから、こうするしかなかった。信じられるのは自分のみ、頼れるは進んでいける自分の足。
嗚呼、このままドコに行くんだろう。
「・・・・・・ッ」
顔が歪んでいるのが自分でも分かった。痛い・・・"左手首"に力が入らず右手で"ソレ"を庇う様におさえる。
一瞬立ち止まったがまた歩き出す。だけども、さっきよりも速さは無かった。
・・・歩くだけでも何だか疲れてきた。息をしているだけでも無駄に思えてくる。
「ぁ・・・」
スッと明かりが差した。雲に隠れていた月がほんわりと照らし出す。
少女は魅入った。その瞳は透明な雫で濡れていた。
こんなにも涙が零れていたのか、それが分かると同時に少し嗚咽を漏らした。
それでも服の袖で伝っていく涙を拭った。
その時にふと、風が少女の長い髪を揺らす。
揺れる木々の向こう側。ふと視線を移してみる。
自分は何処まで来たのだろうか。もしかしたら、さほど遠い場所ではないのかもしれない。それとも、本当に自分でも分からない場所なのか・・・。
「・・・エ・・ルノ・・ア?」
泉だ。泉がある。石に刻まれた今にも消えそうな彫刻でその泉の名前らしきものが書いてあった。
少女はトボトボと泉のふちまで向かい、おもむろにしゃがんでみた。
「・・・」
楽しい顔ってどういう顔?
覗き込んだ水面に映ったのは、虚ろでぼんやりとしていた。しかし、風が水面を揺らし瞬く間に波紋が走っていった。
しばらく、少女は時が止まったかの様にその場に座って動こうとしなかった。
月が半分、また雲に隠れようとしている。
(そう。今の"ボク"には無理だ。)
その夜、少女のすすり泣く声が少し響いた。
Story2
「両親」
「いい加減にしてよっ!!」
泣き叫ぶ女。
「テメェは黙って俺の言うことを聞いてろ!!」
大きな右手で女の髪を掴み、壁へと圧しつける。そして、左手には酒の入った大きな瓶。
「父さん!、父さん・・・!・・なんでも、何でもするから、するから・・するから・・・」
「・・・」
掠れる少女の声。狂った少女の父親の姿。母親を庇う様に前に出た少女は明らかに力の差があり、簡単に少女の後ろに居た母親に魔の手が差し迫る。
「何でもするだぁ!? 笑わせんな!!酒一本も買えないくせに何をほざいている!!」
あまりの恐怖にそのままペタンと少女は座り込んでしまった。
嗚呼、明らかにもう駄目なんだ。何をしても。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさ・・・」
何回この言葉を唱えたか、何だかもう分からなかった。
それを見た父親が面白くないといわんばかりに乱暴に酒の大瓶を勢いのままに置く。
その時の衝撃で少し中身がこぼれ、床へと滴っていった。
何てむせ返る様な嫌な臭いなんだろう。
「お前は本当に可愛くない、何故あんな奴に似てしまったのか・・・」
しばらくブツブツと父親は何かを言っていた。勢いは少し収まっている様にも思えたがここで言葉を何かでも発してしまえば逆鱗に触れてしまいかねない。
その後、少女"ロメリア"は永遠に続く悪夢の様な怖さと涙が出るほどの痛みを知った。
彼女の父親は収まっていった様に思えた感情は見た目だけで、おもむろにゆらりと立ち上がると置いた酒の大瓶を見て中身がこぼれているのを見て確信した。
面白くない・・・本当に面白くない。
中身が減ってしまった事に、この自分がしてしまった惨状に。何もかも!!
「面白くない!!!!!!」
怒声と共に、酒の大瓶を乱暴に持つと自分の娘へと叩き付けた。
「・・・っっ!!!!!」
ロメリアは咄嗟に出した左手で自分の顔を覆った。
もう、気を失ってしまうかと思った。
(痛っ・・・)
ズキリと鈍い痛みが少女の左手首を襲った。自分でも分からない程の叫び声にもならない、心の叫び。
その一部始終を見ていた母親が顔を真っ青にしながら、娘を抱きしめにいく。
そんな母親も抱きしめるのですら精一杯で、体が震えていた。
2人ともボロボロだった。
ロメリアの服に、更にこぼれだした酒が染みていく。
でも、今はそんな事に構っていられない。
酒の臭いで気持ちが悪い・・・。
父親が更にロメリアに何かを言っていたが、彼女にはもう聞こえていない。
・・・とうとう、ロメリアは意識を失った。
・・・短い時間なのか、長い時間なのか、ロメリアが起きた時には夜が深くなっていた。家もまた、しんと静まり返っていた。父親は地面に伏せた状態のまま昏睡していた。母親も膝を抱えて顔をうずめたままどうやら眠ってしまったらしい。
不気味な程に、父親の呼吸は鈍く深い。なんて異様な光景だろうか。
よろよろとロメリアは立ち上がりドアへと向かい出す。
そして、迷いも無く暗闇の外へと身を投じて行った。
Story3
「生活」
あの後、エルノアの泉でもぬけの殻と化していたロメリアを母が迎えに来た。
「嗚呼、やっと見つけた・・・」
そう言って、泣いて娘を抱きしめた。言い訳にしか聞こえない何かを必死で泣きじゃくりながら言っていた。
数時間前の自分の様に、謝罪の言葉をずっと連ねている。まるで呪文か何かのようだ。
「もう、だいじょうぶだから」
謝罪の呪文を止めたかっただけで、嘘を付いた。全然"だいじょうぶ"何かじゃない。
数日後。
「お母さん、どこに行くの・・・?」
小さな手が母親の服を掴む。
「ねぇ、ねぇってば・・・」
意を決したように、顔色一つ変えない母親は娘を振り払ってドアノブに手を掛ける。
「私、もう疲れちゃった。でも、私あなたを連れてまで一生あの人の事を思い出すのは嫌なんだ」
「え・・・」
あまりのショックに、パッと手を放すロメリア。
「じゃあね。」
ドアが開く。今日は雨が降っている。傘もささずに母は外へ出て行く。
「待って!!・・・待って!!」
「ごめんね、って私あなたに謝ってばっかりだったよね。それも今日で最後だ・・・」
ロメリアに背を向けたままの母親は再び歩き出した。
この場所、 ドリーゼル町に居た記憶を消すために。
・・・。
知っている。知っているよ、そんなの。父も母も私が嫌いな事。それでも、私には他に頼れる人が居ないんだ。
小さくなっていく母を、ロメリアは窓のガラス越しに張って見ていた。手も瞳も震えていた。
母が出て行ってから数週間が経った。例の父親とロメリアは互いに距離を置いて座っている。そんな父からふと問いかけてきた。それだけでも、体がビクリと震えた。
「お前、施設に入ったらどうだ?」
「・・・」
施設・・・確かに、この近くには施設がある事は知っている。でも、それがどういった所でどんな人がいるのかも知らない。
「アイツにも出て行かれちまったからなぁ・・・」
そう言うと、吸っていたタバコをフゥとロメリアの方へやる。
「私が施設に入ったら、お父さんはどうするの?」
「こんな居心地の悪い町から出て行ってやるよ。お前まで付いて来られたら、とんだお荷物だからな」
そう言うとタバコを乱暴に灰皿に押し付けた。
「・・・。そう。なら、行く・・・」
特に反論も無かった。反論した所で何も変わらないのだから。
・・・。
それから、すぐにだった。
父親は施設にロメリアを預け、自分はさっさと逃げるようにどこかに消えてしまった。
ガランとした家は、もう家とは呼べない程の不気味さを放っていた。
こうして、ロメリアは施設の行き場の無い子供になった。
施設には自分よりも辛い思いをした子や、親の存在を知らない子、様々な理由を持った子供達が集まっていた。また、同じ理由で入った子も居る。
この施設を支配しているのは、夫婦だ。夫のサヴィと妻のナティ。
だが、この施設は名前でだけであって夫婦にとって気に入られた子供のみ可愛がられる。皆、そんな対応をされても誰一人として夫婦に抗う子供は居なかった。それでも、大人という存在に頼っているのだ。