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04.二人乗りです

 美青年となったクラウスの笑顔にときめきかけた、というのは一旦横に置いて、とにかくマルタは自らの今後の進退について頭を捻った。


 ――王族に庇護を求めるか、それとも今までの自分を捨てて市井の生活に紛れるべきか。


 クラウスは後者については一切触れず、王族への庇護を求めるべきとだけ言った。しかし、マルタは素直にその通りに出来ずにいた。

 理由は公爵家の屋敷焼失である。

 あの屋敷には王族由来の調度品もあれば、公爵が行っていた政務の重要な書類も沢山あった。でも、それらは全て焼き尽くされたのである。


 これは王族からすれば大変に面白くない話である。

 マルタの身を心配するよりも先に、失われたものの方へ意識や視線が向くのは明らかであった。特に、政務に関する記録や文書の焼失に関しては一際(ひときわ)に眉を顰めるであろう。


 とはいえ、決して王族も慈悲が無いわけではないし、公爵が前国王の子ではあった縁もあり表面上はマルタに色々と協力はしてくれるのも分かる。

 ただ、内心でどう思われてしまうか。

 少なくとも良い印象は持たれないし、マルタに何かしらの庇護を与える条件を要求してくる可能性も高かった。


 では、市井の生活に紛れ慣れるべきだろうか? いや、それもまた難しい。貴族の令嬢という身から平民に落ちた人物は、歴史を紐解けばそれなりにいる。けれども、彼女らの人生は決して平穏にはならなかった。


 ――満足に働く先を見つけられず娼婦に落ち、病気に罹り亡くなる者。今までに感じたことが無かった類のストレスに耐え切れず、自殺を選ぶ者。そういった人物がほとんどであった。


 勿論、マルタがそのようになるとは限らない。実際に平穏無事に過ごせた元貴族令嬢の例もある。ただ、そうした例は本当に少ないのだ。


 クラウスが王族への庇護を勧めてくるのも、そういった事柄を考慮しているのは間違いない。多少は居心地の悪い思いをすることになったとしても、市井の生活に降りるよりは……ということなのだ。


(どちらを選んでも、何もかも良くなるように動くわけではないわ。ただ、どちらがよりマシであるか、という点に限って言えば、王族に庇護を求めるべきなのも明白……)


 と、そんな風に悩みつつも、マルタはやがて決断を下した。色々と不安や懸念は確かにあるけれど、それでもメリットの方が大きそうな王族の庇護を求める方を選ぶことにした。





 クラウスに王族への庇護を求める旨を伝えると、すぐさまに王都へ向かう為の馬を手配してくれた。ただ、金銭的な事情ゆえに二頭ではなく一頭である。


「……それでは、しっかり掴まっていて下さい」

「う、うん……」


 クラウスの腰に手を回して、振り落とされないように態勢を整える。なんだか、妙にどきどきした。小さい頃にもクラウスの後ろには乗ったことがあるけれど、その時には何も感じなかったと言うのに……。


(……やっぱり若返ったのが駄目なのよ。そのせいで、私も色々と戸惑って調子がおかしくなる)


 僅かに頬を朱色に染めながら、マルタは「うー」と唸った。

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