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…窓際には、君が  作者: たかさば


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謝恩会

 流川ながれがわのすぐ近くにある県庁横のグランドホテル一階大ホールには、お洒落なドレスや袴、スーツを着込んだ卒業生たちと保護者、大学教授が溢れている。

 二学科合計200人の卒業生と、その保護者、その他もろもろの参加者…どうだろう、500人はいないかな?参加しない保護者も多いようで、圧倒的に卒業生と思われる人の数が多い。


 卒業式にスーツを着ていた人が多かったけど、わりと着替える人がいるみたいだ。すごいな、パーティードレスを着ている人も結構いるぞ。華やかな衣装に身を包む人が大勢いて、会場内はなんていうんだろう、かなり女子大っぽいというか、目に鮮やかだ。

 初めて大学の謝恩会に来たけど、こんなにもこう…お祭り騒ぎになるのか。ずいぶんイメージと違うな、もっとこう、厳かで静まり返る中で行われる立食パーティーのイメージだったんだけど。ずいぶん羽目をはずしている集団もぼちぼちいて…、ちょっと、うーん……たしかアルコールの類いは出ていないはずなんだけどな。


 会場には大きなテーブルが五つあり、各々には軽食、ドリンク、デザートなどが置かれていて、自由に食べることができるようになっている。壁際にはイスがずらりと並び、座りながら食事をしたり談笑することもできるが、着席しているのは保護者や年配の教授、学生部の人たちばかりだ。皆立ったままでゼミごと?サークルごと?仲のいい仲間同士?で集まって、ワイワイと楽しんでいる。


 僕は、いちばん端にあるドリンクコーナーで、ホテルスタッフが注いでくれたドリンクを…卒業生の皆さんにお渡しする役目をしているのだけれども。


「あ、あのぅ―!!写真一緒にお願いしてもいいですか!」

「あ、はい。」


 さっきからやけにこう、写真を頼まれていてだね?!


 無下に断るのも悪いし、見知らぬ先輩がたと、なぜか記念撮影をすることになってしまっているわけなんだけれども!


「あ、私撮りましょうか?」

「ありがとうございます~!」


 ドリンクサービスの手を止めて、カメラマンを務める由香が……めちゃめちゃニコニコしているのは、どういうわけなんだい?!


「すげえなwwwモテモテが過ぎててツッコミが追い付かねえwww」

「若い男子、ここには石橋君しかいないもんねえ……。」


 謝恩会の様子をカメラに収めるために会場内を回っているちびっ子コンビ、森川さんと三上先輩までもが立ち止まってこちらを見て…、ニヤニヤしている!


 来年度の大学パンフレットに載せる写真を撮るために会場内をちょこまかと忙しなく右往左往している二人……ちょっと、列を作っている卒業生の皆さんをさりげなく撮影してるけど、まさか僕も写ってたりしないだろうね?!

 一言モノ申したいものの、写真という残ってしまう媒体にゆがんだ表情を刻むわけにはいかないので、内心荒んでいる感情を一ミリも漏らすことなく笑顔を張り付け!!!……くっ、頑張れ、堪えるんだ!


≪≪≪卒業生の皆様、ご歓談中とは思いますが、ここで卒論ゼミの教授よりお祝いの言葉をいただきますので、前の方へお集まりください≫≫≫


 前方にあるステージの演台で流暢なアナウンスをしているのは、早瀬先輩だ。高い位置からこちらを見下ろしながら、にこやかな表情を向けている気がする…絶対に面白がっているな!


「先輩がた、大切な教授の最後の雄姿は、ご覧になっておかれた方がいいと思いますよ?さあ、あちらへどうぞ…、僕は、ここで皆さんを待っていますから、ね?」

「「「「は、はい~♡」」」」


 ぞろぞろとステージ前に移動していく皆さんを笑顔で見送り、苦笑しているホテルスタッフのお姉さんからオレンジジュースをいただいて、ひ、一息っ!


「ふふ!彼方お疲れさま!モテモテだったね!」


 ごくりとグラスのオレンジジュースを飲み込んだ僕に声をかける由香の声が、なんだかいつもよりも温かいのはどういうことだい。


「僕がモテたいのは、ピンクのセットスーツの似合う、とびきり可愛らしい女子ただ一人だけなんだけど?」


 ステキな労いの言葉のお礼に、アツアツになるような熱をお見舞いして差し上げようかな。含みを持たせて、真剣な眼差しを向けてみる。


「~っ!もう!すぐそういう事言うんだから!」


 真っ赤になって僕の胸…を叩こうとして、腕の辺りをぽかぽかやっている。むむ、胸を叩いたらこれ幸いと触り返してみせるつもりだったのに…うまくいかないな。


「あんたらどう見てもいちゃラブカップル過ぎてwwwいいぞもっとやれwww」

「ねね、写真とっていい?」


 うんともすんとも言わないうちに、じたばたしている由香を抱き締めている姿を撮られてしまった。


「…後でデータ下さいよ?大学パンフレットには載せないでね?由香を大多数の目にさらしたくないから。」


「ちょwww独り占め宣言かよwww」

「さくらこちゃぁん!ナニコレ、近くにいるだけで熱量がスゴいんだけど!?ど、どんだけ?!」


 なんでこのチビッ子カメラマン達は手を取り合い、こちらを上目遣いで見ているんだ。


「由香は僕の…大切なお姫様だからね。他の人に分ける分はないんですよ。」

「もう!!あたしは誰にも所有されてない、ごく普通の女子なんだけど!!!」


 由香が腰に手を置いて人差し指を立て始めた。そろそろ自重しないとヤバいかも?…いや、今日は華やかでみんな浮かれているから、多少は調子に乗ってもゆるされよう。


「堂々と人前で口説いてるけど、こういうのありなの、普通ってこう、もっと秘めた思いとかさ、伝えたくても伝えられないもどかしさみたいな葛藤がさあ!?」

「ないないwww石橋君はそれはもう貪欲にユカユカを責め立ててるからwwwあんま近づくと飛び火するよwwwマジヤバすwww」


 なんだい、その僕がまるで節操なしみたいな言い方は。失礼すぎやしないかい。これはお仕置きが必要だ……、一歩前に進んだ時。


「彼方ね、もうちょっと自重しないと、またおかしな伝説が生まれるよ?!」


 腕組みをする由香の一言で、ハッと思いとどまる事ができた。…そうだな、さすがに先輩を抱き締めるのは失礼だ。


「おーい、お前らこっちの軽食食べない?」


 隣のテーブルから、やけに胃もたれのしそうな声が聞こえてきた。軽食テーブルの前で、河合先生がお呼びだ。

 ものすごい勢いでサンドイッチに手を伸ばしている東浦先輩、ちんまりとカナッペに手を伸ばしている柴本さん、キッシュをうまく取れなくて往生している相川先輩…、けっこう食べ物が余っているな。向こう側のテーブルでもお手伝いの皆さんと楠先輩、ティアがパスタや焼きたてパンを食べているのが見える。佐藤さんは疲れたのか壁際の椅子に座ってお手伝いの人となにやら話をしている。…無理してないかな、ちょっと心配だ。


「まだ謝恩会終わってないのに、食べちゃっていいんですか?」

「去年もその前もめちゃめちゃ余ってさ、もったいないから!ここホテルだからさ、持ち帰れないんだよ。食え、食え!目指せ残飯ゼロだ!」


「わーいwwwめっちゃくおwww」

「ここのローストビーフサラダすごく美味しいよ!去年めちゃめちゃたくさん食べて、1日でニキロ、ニキロも!」


 三上先輩は、去年増量した分が未だ減量できていないらしい。そんな危険な食べ物を、いただいても良いものなのか……。


「確かにちょっとおなか空いたかも、いただこうかな…、なかなかおしゃれなメニュー多いよね。あ、私、エビチリもらお♥️彼方もエビ好きだよね!取ってあげる♪」


 由香の給仕をありがたく受け、プリプリとしたエビを口に…、うん、なかなかウマイな。やはりホテルのシェフが作るメニューは一味違う。オムライスも食べようかな、いや、あっちの煮込みハンバーグも食べたいな、シュウマイもずいぶん大ぶりで美味しそうだ!気がつくといつも以上に胃袋を重くしている僕が、ここに!


「あぅ、かかいちょ、さくらこひゃん、由香ちゅん、ひし橋君、このミニパフェ最後のだから、あげまちゅ、あのねデザートコナはもう売り切りでして、はひ!」


 生春巻を食べていたらなんとも頼りない声が聞こえてきたので振り返ると、楠先輩がパフェグラスの乗ったトレイを持ってこちらにやって来た。

 相変わらずこういう気遣いは完璧なのに、口をひらくと残念感がすごい。


 軽食テーブルが3つ、デザートテーブルがひとつあるんだけど一番右端のテーブルがからになっている。女子大だからかな、スイーツ系のメニューが人気みたいだ。来年は先にデザートを食べに行こう、覚えておかねば。


「ええー!そうなんですね、ありがとうございます!」

「持って来てくれたの!ありがとう!」

「わーい♪せんきゅ~www」


「あっ!ズルい!俺のは!?」

「ご、ごめめめ、もうないです、ひぃ!」


 口の回りをケチャップだらけにしている醜いおっさんが、気配り上手に絡もうとしている、これは見過ごせない。


「河合先生、僕のあげますから。卒業生のために用意されたスイーツに執着とかみっともないですよ。…楠先輩、持って来てくださってありがとう、欲しがってる人がいるんで、恵んでも?」

「は、ひゃい、ええええとどぞ!」

「おお!サンキュー!」


 小さめのパフェグラスを欲の皮の張ったおっさんに差し出すと…、うわ、一気に一口で!なんというもったいない食べ方をするんだ!パフェが気の毒でならない!……パフェを食べて余韻に浸る事無くアヒージョに手を伸ばしているぞ、なんていうか、めちゃめちゃ…食欲無くなるんですけど。


「早瀬先輩の分はいいんですか?」

「さっきコーヒー飲んだから大丈夫って言ってたよ。たぶんそろそろ早季先生が司会乗っとるから、そしたらこっちくるんじゃないかな。…あ、来た、来た。」


 ステージ上では、甲高い声ではしゃいでいる早季先生の姿が……小さすぎて見えないな。重量感溢れるダブルのスーツのおっさんがみえるので、たぶんいるはずだけど。ステージと言っても小さめだから、ある程度の大きさがないと人混みで隠れちゃうんだな。


「お疲れさま、石橋君、大人気だね。来年は記念撮影コーナー作ったら?」

「はは、来年は僕、早瀬先輩のあとを継いで司会やります。」


 思いがけず、来年の担当まで決まってしまったみたいだ。



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