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面接選抜会議

「あ、そっちのストッパーかかったままだよ、手を挟まないように…うん、上に上げてくれる?」

「へいへいwww」


 木曜のお昼、僕と森川さんは、学生会室で昨日の片づけなどを自主的に。二時間目の日本史の授業が思いのほか早めに終わったので、図書館に行って結城先生から鍵を借りてきたんだ。昨日はドタバタしてて、机の入れ替えができなかったからね。なんというか、普段通りの机の配置じゃないと落ち着かなくてさ、僕って実はけっこう神経質なのかもしれないぞ……。


 足をたたんだ会議机を、一台づつ二人で学生会室後方の什器置き場に持って行く。…この什器置き場、実はその存在を知ったのはわりと最近の話だったりする。

 入ってすぐに大きな丸い会議机、前方にホワイトボード、後方に棚が二つあるだけのシンプルなつくりになっている学生会室と思いきや、棚の向こう側に什器や備品なんかがみっちり詰まった空間が実にこう、カオス化した状態でひっそりと堂々存在していてさ、驚いたのなんのって。棚の横の白い壁が、壁のふりをしていたプラダンボールだなんて思いもしなかった。

 キッチリと整頓されて歴代の資料がしまわれている二つの棚の後ろには、さらに二つ棚が隠されていたんだよ。服部半蔵もびっくりの隠れ身の術だ。

 発見以来、やらなきゃいけないことが多発していてなかなか捜索できなかったんだよね。今日はいい機会なので、ちょっとだけ、机をしまうついでにさ、のぞいてみようかなって思ったというか。


「ここのゴミさあ、片づけたら仮眠室でも作れるんじゃないのwww」


 四台の会議机をきっちり収納したところで、森川さんが什器置き場の奥を興味深そうにのぞき込んでいる。もちろん僕も、しっかりと観察……。


「仮眠室として使ってた可能性あるんじゃないかな?ほら、あの奥にあるの、寝袋だよ。添い寝用?のぬいぐるみもあるし。」


 実に、好奇心をくすぐるモノが、ここにはある。本物の部屋の壁際に二つ並ぶ棚とまやかしの壁際に二つ並ぶ棚の間にはシングルベッドが入るくらいの空間があり、謎の小物、大物が詰め込まれている。やけに大きなぬいぐるみに、空気の抜けたバランスボール……、みかん箱や扇風機の箱に見え隠れするキャンプ用のテーブルセットのようなものがあるけど、モノに阻まれててイマイチはっきり断定できない。

 奥の方に足を踏み入れることができないのでよくわからないけど、棚の中もみっちり何かが詰まっているようだ。手前の棚には手書きで文字の書かれた箱が乱雑に詰め込まれている…走り書き?なので、イマイチ文字が読めないな、マグカップ…、裁縫セット…、ハンカチ…、なんだ、これ。


「何で取っといてある?来年の学園祭で全部売り払っちまおうぜwww…おお、これ細菌くんの未使用歯ブラシセットだwww、ミッティーちゃんの白バージョンぬいぐるみもある、わりとレアもの多いぞwwwちょ、これまさかのタキシードサンwwwゴロゴロドンもwwwうわー、ラララ学園なつかしすwww」

「森川さん、詳しいね……。」


 大きな目を輝かせて、ゴミあさりをするちびっ子がここにいるぞ……。森川さんはゆるキャラ好きでさ、造詣が深くてだね。


「あれ!!今日早いね、ああー、片づけてくれたんだ、ありがとー!」


 もう一人の学生会のチビッ子が現れた。…そうか、今日は木曜だから三上先輩は二時間目がない日だった。


「ねーねーかいちょー、この奥んとこ、なんでこんなにカオス?」

「それねえ、私が入った時からなのよ、もう今更手が出せなくって、放置中っていうか。」


 もうずっと放置されてるんなら、一掃しても問題はなさそうだ。




「じゃあね、いっせーので端っこ押すよ!手、挟まないように気を付けてね!石橋君は真ん中押さえてくれる?」

「へーいwww」

「はい。」


「「「せーの!」」」


 ・・・がっしょん。


 大きな音を立てて、いつもの会議机が現れた。

 元々学生会室のど真ん中にあった会議机は、DIYが得意な事務員さんが卓球台を改造して作ったという代物で、畳んだりするのがわりとこう、大変なんだ。キャスターがついているから移動は簡単なんだけど、実に重いし、折り畳みの時はコツが必要でさ。

 定位置において、ストッパーをかけ、折り畳み椅子を配置したら、普段の学生会室の出来上がりだ。


 出窓のところに避難させておいたナポリタンセットを持って、いつもの定位置に座る。ラップを剥がすと、ナポリタンのいいにおいが僕の鼻をくすぐった。学食のナポリタンはさ、ピーマン多めで目玉焼きまで乗っててさ、実に僕好みなんだよね。


「昨日かいちょーすごかったねwwwマジリスペクト、ねえねえ外人だったのwww」

「日本人だよ!」


 ちょっとほっぺを赤くしている三上先輩に、ちょっと萌える。この人照れると絶妙にこう、かわいいんだよね。


「うぃーっす!……げえ!!なに、ナポリタン食ってんの?!俺ピーマンちょー絶嫌いなんだよ、あんなまずいもんよく食えるな!早く食ってくれ!!うわ、おえー!!」


 学生会室に入ってくるなり、人のお昼ごはんをのぞき込んで失礼な事を宣うおっさんがここに!!!


「失礼ですね!!人の食べてるものをマズいとか言わないでくださいよ!!!」


「コーユーとこがホントブサイクすぎてウケるwww」

「子どもじゃないんだから、言われた人の身になって言葉を発した方がいいよ、もう三十超えてるんでしょ?」


「俺はまだ29だ!!」


 どう見ても28歳である長兄よりも老けて見えるおっさんに憮然としつつ、ピーマンを素早く拾って口の中に入れる。おっさんに卑下されたらピーマンが気の毒だ。早々に僕がおいしくいただいてあげなければなるまい。

 これ見よがしに僕と一番離れた位置に座り込んで、がっつがっつと日替わり定食を食べているのが憎らしい…あ、窓開けに行った。しっかり老化した見た目に中身はおこちゃまか、なんという救いのない人なんだ。


「おいーっす!なんかさあ、昨日欠席してた子、お母さんから電話かかってきたよ!!なんか熱出ちゃったんだって!!!」


 結城先生は今日は購買部のお弁当を買ったらしい。お弁当のパックを四つも抱えて、のっしのっしと現れた。お弁当結構おいしいんだよね、でも360円という破格の値段に相応しく、ちょっと量が少なくてさ、僕はあんまり買わないんだ。人気のから揚げ弁当や幕の内弁当なんかはすぐに売り切れちゃうくらい人気なんだよ。


「病欠なら仕方ないよねー!回復したら学生会室に来てもらえば?」


 相川先輩がコンビニの袋を持ってやってきた、片手にはソフトクリーム…あれは今秋発売の焼き芋ソフトだな。大学芋が二つトッピングされてるのがおいしそうって今朝がた由香がニコニコしてたんだよ。

 今日は五限目ないし、帰りに由香を誘って食べに行こうかな。隣でサンドイッチを食べてる森川さんの目がソフトクリームにくぎ付けだ、よし、後で一緒に誘ってみよう。


「あ、机ありがとう、大変だったでしょう?」

「石橋君と桜子ちゃんが片づけといてくれたの。」


 早瀬先輩が学食のコーヒーを持ってやってきて、学生会現メンバーが勢ぞろいした。珍しいな、いつも早瀬先輩は、窓際に置いてあるコーヒーメーカーを使う事が多いんだけど…豆でも切らしているのかもしれない。


「そうなんだ、ありがとう。頼りになるね。」

「てへーwww褒められちゃったwww」


「もぐもぐ、じゃあ、昨日の面接の選考会やるよ!ええとー、バリバリ、思うところあったら、森川君から言ってってー、その次イケメン、左回りで!はいどーぞ!」


 相変わらずのいきなりスタートだ。この準備をさせない感じがさ、実はわりとこう、余計なことを考えさせない、本音しか出せない状況を生み出していると、思わないでも、ないんだけれども。


「えっとねwww私英語しゃべれないからちゃんとコミュニケ取れるか心配かもwww遅刻の人はビミョー、ここで寝泊まりし始めたらどうすんのって思ったw爆食対決は楽しみだ、美学の先輩マジ気になる、声小さい子は何も言えずにここにいることになっちゃわないか心配www」


「大丈夫だよ、英語も実はあんまり得意じゃないみたいなの。」

「語学が取っ散らかってべふー、混乱しがちなんだな、んぐんぐ。」

「柴本さんは耳を傾ければ、きちんと言いたいことを話してくれるしっかりした子だよ。」

「あのたくさん食べる子、思い出したんだけどね、体育で一緒になった事あるよ!めっちゃ姉御肌で、すごく運動量多いの!!踊ってみたやってるんだって!!」

「楠君は自己肯定能力が低すぎる子なんだよ、わりと心配では、ある。遅刻はくせみたいなもんだからな、直らんだろうな。」

「美学の先輩は確かに気になる、声の小さい子は、ここに来ることで変われるかもしれないから、見守ってみたいと思うな。」


「はい、じゃあ次イケメンね!ごくごく!!」


「美学の先輩は、いろいろと話を聞いてみたいと思った、いい人過ぎるイメージ?遅刻は僕はあまり好きじゃない、なあなあになることは良くないと思う。小さい声の子は、おおきい声が出せるようになるかもしれないよね、あと、英語が苦手だから、ちょっと心配ではある。」


「英語が身近になったら苦手意識無くなるかもよ!」

「楠くんさあ、東洋美術史のゼミに入ってるんだよ、いろいろとまあ、気の毒で……。」

「気の毒ならなおさら入ってもらおうwww」

「もぐもぐ、コミュニケーションが取れたら、人は変わっていくはずモグモグ。」

「遅刻する人はさ、ほら、親睦旅行でさあ……積み忘れ事件みたいにさあ……。」

「そうだね、役員が遅刻すると困るもんね、朝の集合とかも。」


「はい、じゃあ次、相川君ね!ごきゅごきゅ!!」


「爆食ちゃんはさ、動画のプロなんだよ!絶対入れた方がいい!でも、お疲れ会とかは、食べ放題一択になっちゃうと思うよ!」


「いいねえ、食べ放題!!俺焼肉がいいな!!!」

「ええー、寿司がいいよ、もぐもぐ、ケーキでもいい!!」

「なんでお疲れ会の事ばかり?!」

「学園祭の動画はきれいに撮りたいね、確かに。」

「親睦旅行も動画にしたらウケそうじゃないwww」

「入学式に年間行事の映像流したら分かりやすいかもしれないですね。」


「はい、じゃあ次、早瀬君ね!ポリポリ!!」


「垣内さんは、全体的にルーズなんだ。私はBクラスだから、あまり詳しいことは知らなかったんだけど、一年の時は研修旅行をすっぽかしたし、落とした単位はかなりのものらしい。昨日急きょ友達から聞いたんだけどね。」


「えー、ないわー!やめとこ?」

「危機回避は基本だわな。」

「学生会室に住まれても、ねー。」

「……昔いたけどね、ごくん。」

「はあ?!」

「もしやあの寝袋?!」


「はい、じゃあ次、かいちょーね!むにゅむにゅ!」


「ティアちゃんはたぶん傷ついてる、天真爛漫だけど言葉の端々に陰がある気がする、ちょっと気になるかなぁ。遅刻の人以外はみんな真面目そうじゃない?元々ぬるい組織だし、そんなに厳選しないでも良いとおもう。」


「私なんか面接すらしてねぇwww」

「あたしもだー!」

「僕だって!むしろ強制的に!」

「私は、先輩に誘われて、だね。」

「俺は羽矢先生に誘われた!」

「俺がモグモグ、学生会作ったんだよ!んぐ。」


「「「「「はあ?!」」」」」


「はい、じゃあ次、モグモグ、河合くんね、ごきゅ、ごきゅ。」


「遅刻以外は入ってもらって様子見で良いだろ!」


「そうだね。」

「別にやめられないわけじゃないもんね。」

「やめたいって言えないかもしれない子がいるけどwww」

「そこはほら、みんなで注意しとけば。」

「なんか食べたりないなぷはー!」

「ユーキ先生、あたしのチョココロネあげるから!」


「じゃ、ペロペロ、俺がまとめるんぐ、遅刻魔は残念ながらのお知らせ、他は来週月曜から参加開始、病欠の子は来週中に面談!靴箱に入れる手紙の文字考えてーごきゅごきゅ!!」


「あ、あたし書いてくから言ってってー!」

「前略、新秋の候いかがお過ごしでしょうか、先日は学生会役員応募の面接に…」

「そんな本格的だと面喰っちゃいませんかね……。」

「学生会二次選考にご参加いただきありがとうございました、あなたは合格したので来週月曜から毎昼休み学生会室に来てくださいでいいんじゃねwww」

「新加入歓迎会やるか!俺駅前の多国籍料理バイキングがいい!!」

「つい10日前にお疲れ会やったばっかりなのに?!」


 安定の騒がしさだ。人数ふえたら、さらに騒がしくなるんだろうな……。


ちょっと、怖い気が、しないでも、ない……。

はあ……。


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[良い点] 51/51     ・・・がっしょん。 [気になる点] >>> 早々に僕がおいしくいただいてあげなければなるまい。  カナきゅんが言うとあまあまのあま [一言] 人増えまくって大丈夫…
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