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…窓際には、君が  作者: たかさば


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つかまえた

 大きな目が、まあるく見開かれて、頬がパッとピンク色に染まる。


「お、おはよぅ……。」


 一瞬合った目を、少し気まずそうに下に向けて……、僕の横を通り過ぎようとした由香の手を取り、まっすぐ、視線を向けて、立ち上がる。

 ピンク色のほっぺたが、どんどん色味を増して……はは、真っ赤になった。


「ッ、あの、は、離して……。」


 今、手を放してしまったら。

 ……確実に由香はここから走り去ってしまう事だろう。それでは、ここで待っていた意味がない。


「やだ。」


 僕の拒否の声を聞いて、うつむき加減のまま、ピンク色に染まる眦をそっとこちらに向ける、由香。

 黒目がちな瞳が、おずおずと上昇し始め、僕を見つめて、少し、揺れた。



 シューッ、プッシュゥー……ぶぁん!ぶぁん!!



 二両編成の電車が、上り方面下り方面、共に出発した。


 手をつないだまま立ちすくんでいる僕と由香の間を、風が勢いよく通りぬける。

 少し生暖かい風がふわふわの髪を舞い上げ、かわいらしくカールした先端部分が、派手に絡まりあっている。


 見つめ合ったまま、言葉を交わさず、静寂を、待つ。



 コトッ、コトコトッ…ゴトッ、ゴトン…ガタン……。



 遠ざかって行く列車の音が、すぐ前の線路を伝って、心地良く耳に届いている。


 風がやみ、舞っていた髪も落ち着きを取り戻したので……、そっと、毛先を、繋いでいない左手で押さえる。


 目の前で乱れていた、ふわふわの、先端がカールした、由香の、髪。

 僕にはない、繊細で、柔らかで、とても女性らしい……髪。

 ……ひと房、手に取って、指で、くるくると。


 ……くるくる、と。


 早朝の、田舎の路面電車の駅に、静寂が戻った。

 すぐ隣を走る国道には少しだけ通行する車が増えたけど、騒がしいというほどではない。


「あ、あのっ、彼方、あたし、あなたとは、

「……あの、空を飛んでいる鳥は、鵜かな?……僕は、タカかなあって、思ったんだけどさ。」」


 強引に逸らされてしまった視線を、そのまま上に向け、青い空を見上げて、呟いた。


 ……ずいぶん、長い間飛んでいるな。疲れないんだろうか。


「そ、そろそろタカの渡りの時期だから、そうかも?あの鳥は、羽ばたいていないから、鵜では、ないと思う……。」

「由香は、博識だね。僕の知らない知識をたくさん持ってる。……さすが。」


 視線を落として、空を仰いでいる由香を見つめると、少し遠慮がちに、目が合わされた。にっこり笑うと、由香の表情が、ちょっぴり、柔らかくなったような……。

 拒否、拒絶……、距離を置こうとやっきになっている空気が、辺りのほのぼのとした空気に、少し薄められたような、感覚。


「……彼方、手、ちょっとだけ、痛い。」


 少しだけ、困ったような、はにかむ笑顔を見せる由香。


「逃げ出さないって約束してくれるなら、放してあげても、いいけど?」

「……もう!なんで上から目線なのよっ!!」


 なんだ、久しぶりにプンプンする由香を見たぞ。


 ……はは、ずいぶん、ずいぶんぶりに見た気がする。


 毎朝一緒に過ごしていた時、いつだって僕は少し由香を困らせて、そのたびにこうして唇を少しとがらせつつ頬を膨らませている姿を拝ませてもらっていたというのにね。


「さあ?なんでだろう?……由香に、そう言って、叱ってもらいたいからかも?」


 ぎゅっと握っていた手を、そっと胸の前まで引き込んで、手を離す。


 ……ああ、少し指先が赤くなっているな。由香は、離された手を、自分の胸の前で、そっと組んで……赤い顔を、している。


「し、叱る?」


 少し顎を引いて、上目遣いで僕を伺う由香は、逃げ出すそぶりを見せない。


「僕は、ずいぶん、気弱でヘタレだって……、気付いたんだ。気合を入れてくれる人がいないと、叱ってくれる人がいないと……自分を、見失ってしまうみたいでね?」


 肩にかけたトートバッグを背負い直し、髪を撫でつける由香。

 このバッグは、柳ヶ橋の、派手な金髪ソバージュのお姉さんのお店で買ったものだ。そろそろ冬物が出始めるころだな、……また由香と一緒に顔を出さないといけないな。


「だから、由香にお願いしようと思って、……待ってた。」


 伝えたい気持ちがある。

 伝えなきゃいけない言葉がある。


「僕の話を、聞いて欲しい。」


 ……伝えきれないかもしれない。


 でも、何もしなければ、何一つ伝わることはないまま、何も変わらず時間は過ぎてゆく。


 ……あまりにも、重すぎて、ドン引きされてしまうかもしれない。


 でも、由香だったら、きっと。


「……聞いたら、もう、私の事は、

「聞いてもらって、更なるコミュニケーション不足を補うつもりだよ?……僕には、由香が足りない。」」


「……っ!!彼方はっ!!すぐに、そ、そういう、事をっ!!」


 真っ赤な顔をして、焦る由香。相変わらず、……かわいいな。


「……ここで住民の皆さんに見せつけながら由香への愛を語り続けるのと、ゴムグラウンドのベンチに座って耳元で愛をささやき続けるのだったら、どっちがお好み?」


 7:50着の電車は、通勤通学ラッシュ時間になるらしい。いつの間にか駅にはたくさんの人たちが立っている。道路に線が引かれただけの駅にずらっと人が並んでいるのは、結構圧巻だな……。


 ……向こう側のホームに立つ人たちが、僕と由香の様子にくぎ付けになっているような気がするんだけど、気のせいかな?


 何やらもじもじしている女子高生二人組におしゃれなOLさん、若いお兄さんに男子学生、なんでパッと目を逸らすんだ。ガタついていたベンチにも、いつの間にかおばあちゃんとおじいちゃんが座りこんでいるし。見上げるおばあちゃんと目があってしまったよ……やけに血色のいい顔色をしている、健康って素晴らしい。おじいちゃんはこう、開けっ放しの口を閉じたらどうなんだ。


 周りの状況をのんびりと確認していると。


「~~~っ!!!べ、ベンチに、行くからっ!!!」


 由香が実に華麗に、素早く、信号のボタンを、押した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 46/46 ・ああ、やっと戻ってきた。私は満足です。いいや俺たちの満足はこれからだ! [気になる点] 彼方さん攻め力上がりましたね。うむうむ。 [一言] ああ〜ひっさしぶりじゃー
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