質疑応答
「あ、何これ、……ええー!学生会落ちたー!!!」
「あーん、私もー!」
「えー残念!あれ、でもなんか書いてあるよ、よく読んだら?」
四時間目、生涯学習概論の授業が終わって靴箱に向かった僕は、落胆の声を上げる川村さんと大崎さんに挟まれていた。横には笠寺さんもいる。何気に出席番号の近い僕たち、実に靴箱が近かったりするのだ。ちなみに秋元さんは五時間目があるのでここにはいない。
「ダメだった―!」
「あたし面接だって!」
「いーなー!」
「え、何これ、お手伝いもあるんだって……。」
「じゃあそっちにかけよっか!」
二人だけじゃない、靴箱の並ぶ出入り口付近では、靴箱を開ける音に混じってあちらこちらから声が聞こえてくる。
大学構内では上靴を使用することが決められているため、学生には四年間使用できる個別靴箱を割り当てられており、さながら個人用ポストのような役割を果たしている。大学事務局からの連絡文書などが時折投函されたり、友達同士で教科書の貸し借りをする際にも大活躍していたりするのだ。ただ、カギをかけることはできないので、貴重品を置くことは禁止されている。ちなみに、三か月300円で鍵付きのロッカーも借りられたりするんだけど、僕は借りていない。ちゃっかり学生会室に荷物を置かせてもらっていたりして……。
「役員は落ちちゃったけど、イベントごとにお手伝いを募集することにしたから、そっちでお願いしたいな。親睦旅行、学園祭、卒業式、入学式……どう?」
落ち込んだ様子で、学生会からの落選通知を見ている二人に声をかける。
親睦旅行、各バスの評判の悪さはスタッフの少なさの表れでもあったんだ。たった一人ですべてを進行しなければいけないから、抜けも多いしなあなあになったと思われる。僕のバスはさ、森川さんと由香がいたから、ものすごく恵まれていた。親睦旅行は少なくても20人くらいのお手伝いが欲しい。各バス、進行役の役員が二人と、受付やゴミ係、レクリエーション補助が欲しいし、現地の写真係は一人じゃ絶対に間に合わないんだ。写真に自分が映ってないって苦情をボチボチいただいてしまったから、来年はそんなことが無いようにしたいんだよね。
学園祭はまあ、そんなに人員的には困らなかったけど、ひょっとしたら人手のいる出し物をやるかもしれないし、なんとも言えない。
卒業式と入学式はまだやったことがないからよくわかんないけど……。というか、入学式に学生会が噛んでいたとか、全然気が付かなかったんだけどな、どこで活躍してたんだろう??
「え!!!親睦旅行、またいけるってこと?!行きたい!あたし写真係やりたい!!!」
「私メッチャ撮るよ?!写真撮るの、すごく得意なの!!!」
「ぜひ応募してよ、川村さんと大崎さんだったら写真任せられそうだし、僕、推薦するよ。」
親睦旅行の時、この二人は実にいい写真を撮っていたんだよ。遊園地のジェットコースターの決定的瞬間とか、観覧車の絶景とか、風景写真がステキすぎてさ、何枚も分けてもらったんだ。一枚送ってもらうごとに感想をお返しして……100枚越えてたんだよね、確か。地味にフリック腱鞘炎になっちゃって大変だったんだ。
今年の写真は人物写真ばかりだったけど、この二人が写真を撮るなら、風景写真も展示できそうだ。これは全力で推薦したい!……推薦したい気持ちがあれば、推薦してもイイよね?
「ただ、僕の推薦が通るかはわかんないけど……。」
「通ったら全力で撮らせてもらうから!!!」
「うわあ、写真ポイント勉強しとこ!!!」
この勢い、通らなかったら自力で会場に乗り込みそうだ。
「あ、石橋くーん、ちょっといいwww」
反対側の靴箱の列の端から、ちびっ子が顔を出している。うん?手招きをしているけど、何だろう。
「じゃ、また来週ね!僕はちょっと用事が。」
「うん、またねー!」
「カナキュンバイバーイ!」
「また来週!」
三人娘に別れを告げ、靴箱の向こう側に行くと。
「ね、ねえねえwww入学式ってさ、何やんのwww」
いつも通りへらへらしつつも、たくさんの人に囲まれてたじたじしている森川さんの姿が!!!
「あっ!!カナキュン!!」
「生石橋君だ♡」
「あのー、ぶっちゃけこの中の行事でねらい目どれですか!」
「入学式は、ちょっと僕も何するのかわかんないな……ねらい目もちょっとわからないな、ごめんね?分からないことだらけで。」
「ギャー!!!謝ってる!!!」
「ごめんね?!困らせるつもりはなくって!!」
「ねえねえ、当選と落選の基準は何ですか、私の熱意、伝わらなかった?」
「選出基準はPRだよwww熱すぎる人は落ちちゃったの、ごめんちょwww」
「あーん、そうだったんだー!」
「でもお手伝い募集って書いてあるから、こっちでいいじゃん!」
「ええー、でも役員じゃないとなんかおまけっぽくない?」
「役員は毎日学生会室に行くことになるから、大変といえば大変なんだよ。その点お手伝いだったら、イベント期間中だけの参加だから気が楽かも?お手伝いしてみて面白かったら役員に立候補しても良いと思う。お手伝いはイベント前に募集するから、よかったら応募してみてください、一緒にイベント運営できるの、楽しみにしてます、……よろしくね?」
「「「は、はい~♡」」」
見知らぬ三人娘を見送った。……見かけない子たちだ、人間関係の子かな?英米の子かも??
「イケメンの無駄撃ちがすげえwww」
「なんだい、それは!!」
助けてあげたと思うんだけど、この言われようはどうなのさ!!ぼくはいたって普通に、対応をさせていただいているだけで!!!
「ええとー、募集時期はですね、まだ未定でして―!」
廊下の奥の方から、甲高い悲壮感を纏った声が聞こえてきたぞ……?!思わず、森川さんと一緒に声のする方に顔を向ける……。あれは……三上先輩の、お団子と思われる一部!!!!
四時間目が終わって帰宅する学生が溢れる今、同時に靴箱を開け、同時に落選通知を見つけ、同時に疑問点が沸き……という流れが起きているらしい。あたりを見渡せば、落選通知を片手に、こちらを伺うような表情をしている人が、ちらほら。声をかけようかどうしようか、迷っているようだ。……ここで知らんふりをする?……とんでもない!!!学生会の信用を勝ち取るチャンスだ、こういうところできっちりと真摯な態度を見せておかなければ……まずい!!!
「森川さん……これ、どこかでまとめて質疑応答した方が、良いよね?」
「そだね、どっかに場所作るか……あの階段横んとこ、どおwww」
靴箱の並ぶエリアが見渡せる、学食に続くエリアの入り口付近……あのあたりなら、多少人が集まっても大丈夫そうだ。靴箱でかたまっていては、帰りたい人たちが通れなくて混乱してしまうからね。
「学生会の通知書について何か質問のある方は、こちらまでお願いしまーす!!!」
「学生会質疑応答を石橋君がやるよーwwwあっちの階段前に集合してねーwww」
「あの、これって一人で申し込んでもいいんですよね?」
「もちろん!お気軽に申し込んでください、でも、もし通らなかったら、ごめんね?」
「ねえねえ、一日だけの参加でもいい?」
「ごめんなさい、事前の説明とか打ち合わせも出てほしいので、ちょっと無理かも、でも一応問い合わせてほしいです!」
「全部申し込んでもいいですか!」
「ありがとうございます、でも、二回目、三回目になっちゃうと、初めての人を優先しちゃうかもしれません、その時はごめんね?手伝ってくれたことは、ずっと覚えているから……許してほしいな。」
「バイト代は出ますか!!」
「ごめんなさい、学生会はすべてボランティアなので、賃金は出ないです……。でも、心を込めて、お疲れ様って、言わせてもらうから、ね?」
「お疲れ飲み会とかコンパはありますか!!!」
「お疲れ会はあるけど、コンパはないです、出会いを求めてる子は、物足りないかも?僕で我慢して?」
「先輩後輩のしきたりは厳しいですか!!!」
「みんな優しくて、頼りになるというよりも一緒にいて安心するような先輩ばかりです、僕は大好きだよ?」
「担当の先生は怖くないですか!!!」
「は、ハハハ……怖い?うん、全然怖くない、ただのおっさんだから大丈夫。」
質疑応答を終え、ひと息ついたら三上先輩と森川さんが……なんだ?なんで手を取り合って僕を見つめているんだ!!!
「い、石橋君がイケメン過ぎた!!!ねえ、桜子ちゃん、何なの、何なのこの人のイケメンタラシっぷりは!!!」
「こえーよーwwwめっちゃこええだよ、いつもこうなんだよぅ、石橋君のタラシはド天然且つ洗練されてる、ありえなすwww」
「ちょっと!!どういう意味だい!!!」
……そりゃあ、ちょっとはサービストークも、したけどさっ!!!
だって、こんなに並んでるのに、つまんない返ししたら悪いじゃないか!!!




