ウェーブ
≪≪≪はい!皆さんこんにちは!!!≫≫≫
≪≪≪こんにちは!!!≫≫≫
〈〈〈〈〈こーんにーちはー!!!!!!〉〉〉〉〉
八歩で舞台上の赤い絨毯のど真ん中に行った僕と、後ろから十三歩ほどで追いかけてきた三上先輩は、大声援に迎えられたわけだけどっ!!!
…?
あれ、案外…平気かも?…分かった、スポットライトがきつくて、ものすごく人があふれている様子が見えないんだ。ざわつきは聞こえるけど、こちらが声を出してしまえば、マイクの反響の方が目立ってそんなに気にならない。
よし、これならいけるぞ!
≪≪≪ステージ企画、午後の部一本目を進行させていただきます、美学学科一年、学生会副会長、石橋彼方です!≫≫≫
≪≪≪英米学科三年、学生会会長の三上です!≫≫≫
〈〈〈〈ギャー!!!カナキューン!!!!〉〉〉〉
あの声は…川村さんと大崎さんだな!!はしゃぎ過ぎだよ…。眩しいから姿は確認できないけど、一応…声の聞こえた方向に、手を振っておく。
三上先輩と息を合わせて、声を合わせてっ!!
≪≪≪≪≪≪学生会プレゼンツ!ラブワードショー!!!≫≫≫≫≫≫
≪≪≪今から30分間…僕と一緒に、胸の高鳴りを、共有、してね?≫≫≫
〈〈〈〈ギャー――――――――!!!!〉〉〉〉
イイ感じに盛り上がってるぞ!!!ウインクを飛ばしてみたのが良かったかも!!!
≪≪≪我が学生会が誇るイケメン、石橋君が、一度でいいから言われてみたい、ハートが震える、心がキュンキュンうなりをあげちゃうワードを、目の前で囁いてくれる企画です!!総応募数1863点!!!まさかの総学生数を上回るご応募、ありがとうございました!!!≫≫≫
≪≪≪学生会役員及び顧問の美学学科助教授河合先生、図書館司書結城先生、総勢七名で厳選なる審査をしまして、優秀作品を三点、選出させていただきました。≫≫≫
≪≪≪今からお名前を発表しますので、呼ばれた方は…壇上にお上がりください!≫≫≫
≪≪≪胸キュンワード賞、英米三年…堀薫さん!≫≫≫
≪≪≪切なさ炸裂賞、美学一年…秋田美百合さん!≫≫≫
≪≪≪愛溢れすぎ賞、人間関係一年…向島樹里亜さん!!≫≫≫
〈〈〈〈きゃああ!!〉〉〉〉
〈〈〈〈ええー!!!〉〉〉〉
会場が湧いてる!!壇上に上ってきたのは…二人。あれ?朝確認した時は三人ちゃんと顔合わせしたって聞いてるんだけど…。しまった、僕は干物を焼く方に集中してたから…確認不足で!
「ちょっと!!カナキュン!!!」
「あれ、どうしたのワタサン。」
今日もばっちりメイクのワタサンが、ド派手な着物姿で僕を舞台下から呼んでるぞ。
「あのね!ミューちゃん、ロングソフトクリームチャレンジでおなか壊しちゃって、帰っちゃったの!!!」
なに!!!
「教えてくれてありがとう、ワタサン、代わりに壇上上がってくれないかな…?だめ?」
「ごめん!!彼氏来てるから無理!!!」
どうする!!!ラブワードを受け取ってくれる人がいないと…かなり間抜けな絵面になっちゃうぞ?!
「三上先輩!!秋田さんソフトクリーム食べすぎておなか壊して帰っちゃったんだって、どうします。」
「ええ!!ほんとに!!!どうしよう、誰か、いないとまずいよね…あたしじゃだめだし…。」
受賞者を並ばせてる三上先輩の顔色が悪くなっていく!!想定外のことが起きた時にこそ!!沈着冷静な判断がっ!!!くっ!!こんな時、こんな時はっ…!!!
そうだ!!!由香!!!
僕は舞台袖のカーテンの向こうでこちらを見守っている…マイベストパートナー由香に駆け寄り!!!さっき僕の手を握りしめて勇気をくれたその手をぎゅっとつかんで!!!
「ちょっ…?!彼方?!どうしたの?!」
「ごめん、ピンチヒッター、お願いしていい?っていうか、お願いする!!!」
眩しすぎる舞台の上に、連れ出した!!!
≪≪≪はい!ちょっとアクシデントがありましたが、今から授賞式と、実演やりまーす!!!まずは、胸キュンワード賞、英米三年…堀薫さん!副賞として、お肌すべすべめちゃもてらぶきゅんガールメイクセットを進呈しまーす!!≫≫≫
≪≪≪おめでとうございます!≫≫≫
僕は副賞の入った紙袋と、ラブレター型のパネルを赤い顔をした細身の女子に手渡した。副賞の中身は次兄の化粧品セットが入っていたりする。ラブレター型のパネルには、スチロールボードの両面にラブレターっぽい印刷と受賞名、受賞作品をプリントした紙を貼り付けてある。それを見ながら、寸劇をだね、やるんだよ!!今から!!!
≪≪≪では、受賞の感想を伺いましょう、いかがですか!!≫≫≫
≪≪≪う、うれしいです!!ありがとうございます!!!≫≫≫
≪≪≪では!!ミュージック!!スタート!!!≫≫≫
僕が手をあげて放送席に合図を送ると!ムーディーなBGMが流れ始めた。
「じゃあ、お願いしますね、女性のセリフ、読んでください。」
「は、はい、うまく読めない、かもっ!!」
「大丈夫ですよ、その方が…むしろリアリティある場面になります。
小声で、受賞者を励ます。
三上先輩が、マイクを受賞者に向ける。さあ、寸劇の始まりだ。
『私、貴方の事なんて、気にしてないよ。』
『僕が、こんなに気にしているのに?』
『それは、気のせい、でしょ…。』
『こんなに僕の胸が、高鳴っているのに?』
『気のせい、よ。』
『気のせいかどうか…直接、胸を合わせて、確認しても、良い?』
〈〈〈〈ぎゃああああああああああ!!!!!!〉〉〉〉
黄色い悲鳴?歓声?悲鳴?なんかよくわかんないけどっ!!!ものすごいウェーブっ!!ウェーブがっ!!!
≪≪≪は、はい!!ありがとうございましたー!では次、切なさ炸裂賞、美学一年…秋田美百合さん…はなんと屋台コーナーのソフトクリームを食べすぎてまさかのご帰宅とのことです、副賞のおなか満足ひものセットは本日付でご自宅にクール便で発送させていただきます!ええと、実演は…代理たてたんで!!やりましゅよー!≫≫≫
ああ、冷静なはずの三上先輩が噛んだ!あれは相当焦っているに違いない、ここは僕がしっかりしないと!!
≪≪≪では、副賞は…ピンチヒッターに一時お渡しです。≫≫≫
由香に、副賞の紙袋と…ラブレター型のパネルを渡す。
「ごめんね、急に。この、女子の…ピンク色のセリフ、読んでもらっていい?」
「か、彼方!!あたしぶっつけ本番になっちゃうよ?!失敗しちゃう、噛んじゃう!!」
「大丈夫、どうしてもっていうなら、僕が盛大に噛んで由香のミス吹き飛ばすから。」
小声で、由香を励ます。
三上先輩が、マイクを受賞者に向ける。さあ、寸劇の始まりだ。僕が右手を上げると、切ないBGMが流れ始めた。
『君をさらう許可を、もらってなかった、ごめんね?』
『ダメ、許さない。』
『そっか、…よかった。』
『何言ってるの?!私、あなたを許すつもりなん、てっ!!』
『君が僕を許してくれるまで…僕は、君に…ずっと愛を囁けるって事だろ?』
『っ…!!!』
『由香、愛してる。…返事は、100年後でも、いいよ?』
〈〈〈〈〈〈〈〈ぎゃああああああああああああ!!!!!!〉〉〉〉〉〉〉〉
うわっ!!う、ウェーブがすごいぞ!!!!人って歓声で吹き飛びそうになるんだね、思わずよろめいちゃったじゃないか、由香は大丈夫かな、…真っ赤じゃないか!!!今にも倒れそうだ、これはまずい!!!
僕は、由香をそっと抱き寄せて、頭を、ポン、ポン…
〈〈〈〈〈〈〈〈ぎぃゃああああああああああああ!!!!!!!〉〉〉〉〉〉〉〉
ものすごいウェーブの!!!第二波っ!!!!この衝撃に備えて!!僕は思わず由香をぎゅうと抱きしめてっ!!!
〈〈〈〈〈〈〈〈ひぎぃゃああああああああああああ!!!!!!!〉〉〉〉〉〉〉〉
さ、三波っ!!!!
≪≪≪石橋君!!タラシまくるのもいいかげんにしてくださいね!!!では次、愛溢れすぎ賞、人間関係一年…向島樹里亜さん!!副賞として、溢れるお湯にどっぷりつかって身も心もあったまーるセットを進呈しまーす!!≫≫≫
≪≪≪…おめでとうございます!≫≫≫
噛んでたくせにやけに攻撃的な…どっかで聞いたことあるフレーズで突っ込んできた三上先輩に少々憤慨しつつ。僕は副賞の入った紙袋と、ラブレター型のパネルをド派手なお化粧の女子に手渡した。副賞の中身は次兄の化粧品メーカーの温泉の元がセットで入っていたりする。
≪≪≪では、受賞の感想を伺いましょう、いかがですか!!≫≫≫
≪≪≪ものすごいラブシーンの後で、混乱がハンパないです。≫≫≫
ラブシーンって。そもそも、受賞の感想じゃないじゃないか…。僕が手をあげて放送席に合図を送ると!コミカルなBGMが流れ始めた。
「じゃあ、お願いしますね、女性のセリフ、読んでください。」
「良いのかな、私この空気ぶち壊しちゃいそう。」
「大丈夫だよ、その方が…むしろ落とし込めるというか。」
小声で、受賞者と顔を見合わせつつ談笑する。三上先輩が、マイクを受賞者に向ける。さあ、寸劇の始まりだ。
『…君のことが好きなんだ!』
『…嘘つき!』
『大好きだよ!!』
『大ウソつき!』
『なんで僕の気持ち、わかってくれないの?』
『わかってないのは、あなたの方でしょ!!!』
『ああ、そっか、僕は君の事を…』
『あなたは、私の事を…?』
『…愛してる。』
『…正解。』
〈〈〈〈ぎゃああああああ!!!〉〉〉〉
あれ、なんかさっきよりも圧が少ないような。そうか、女性のセリフで終わるからインパクトが少ないんだな。来年はもう少し…いや!!!来年はこんな恥ずかしイベントはやらないぞ!!!
≪≪≪はい!!!!ありがとうございましたー!!!いやあ、ずいぶんハートが震えあがるお時間過ごせちゃいましたね!!!すみません、刺激が強すぎて!!!来年はもう少し控えめで…≫≫≫
〈〈〈〈いいぞ!!!もっとやれ!!!!〉〉〉〉
〈〈〈〈ぎゃははははははは!!!!!〉〉〉〉
≪≪≪お楽しみいただけたようで、幸いです。≫≫≫
≪≪≪なお!学生会では頼れる仲間を随時募集しております!我こそはという方はクラブ棟一階入ってすぐの学生会室までお願いします!イケメンを拝みたい方はぜひ!!≫≫≫
ちょッ?!み、三上先輩何言ってるの!!!
≪≪≪それでは、また来年、このステージでお会いしましょう!!≫≫≫
≪≪≪アッ!!!ありがとうございましたっ!!!!!≫≫≫
ステージを照らすライトがゆっくり落ち始め!!素早く舞台袖にはけていった僕は!!!正直…げっそりだよっ!!!!来年はお遊戯でもやろう、うん絶対だ!!!
「か、彼方…。」
「由香、お疲れ様、助かったよ、ありがとう。」
感謝の気持ちを込めて、由香を見つめる。…眩しすぎるスポットライトを浴び過ぎたな、顔が真っ赤で、目元まで潤んでるじゃないか。…労っておかねば。
ぽん、ぽん。
僕が由香の頭に手をやると。
「まだやってる!!!」
「リア充…。」
「なんかごめんなさい、ほんとごめんなさい…。」
なんだ、一緒にはけてきたみんな真っ赤な顔をしてるじゃないか、きっと僕の顔もライトの浴びすぎで真っ赤になってるはずだな。…化粧水スプレーしっかりやっとこう。
僕はテントに置いてある化粧水を求めて、騒めく体育館から脱出した。




