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…窓際には、君が  作者: たかさば


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16/101

海の家

 ザザ、ザ―――ン…ザ、ザ――――ン…


 波の音が心地良く鳴り響き、FMラジオのサマーソングが陽気に流れている。潮風は少し強めで、海の家コンテナ横で物干しざおに吊り下げられた浮き輪たちがゆらゆらを通り越してばすんばすんと荒れ狂っている。


 ここ、西来名(にしきな)の海岸はノリの養殖が盛んな地域で、海には海藻がたくさん漂っている。貝や生物も多く、美しい海岸というよりも観察しがいのある海というか…小学生が喜びがちな海というか。おかげで若者はあまりこの海岸には来ず、海水浴目的の家族連れが多い、平和な場所なんだ。ここから南下すると、若者があふれる海水浴場があるんだけどね。あっちはナンパ目的の不届きものも多いからなあ。


 僕と由香、森川さん、布施さんは平和な真夏の海にやってきている。昨日夏季集中講義が無事終わり、柳ヶ橋でランチをした後水着を買いに行き…いわゆるおニューの水着で夏の海を楽しみに来ているんだ。


「うぃー!焼きそば上がり―!!」

「かき氷のレインボーと抹茶とせんじとブルーハワイとイチゴねー!!!」

「はーい、お待ちどうさまー!」

「お待たせしましたー!」


 …なぜ、由香と布施さんは海の家のお姉さんをやっているんだ!!!二人ともめっちゃいい顔で…お客さんにかき氷を渡したり、焼きそば持って行ったり!!!森川さんもさりげなく落ちてるごみを拾ったりしている。いつからこの3人はこの海の家のバイトになったんだい。


 海の家〈オーシャンパシフィックピース〉は、僕が高校生のころからアルバイトをしているのだけど、なんというか身内過ぎて遠慮がなくてね?!特に今年はひどすぎる!!というのも!!!


「おーい彼方ー!このカレー2番さん持ってってー!」

「ちょっと!!僕は今日は客なんだけど!!!」


 図々しいガタイの良すぎるマッチョがシルバートレイにのったカレーを僕に差し出す。このやけに日焼けしたおっさん…何を隠そう僕の兄だったりする。石橋永遠(とわ)27歳独身、漁師を生業としつつ、夏の間は海の家を経営している。もともとは、父の弟のおじさんがやってたんだけど、去年から長兄が完全に受け継いだんだよね。とはいえ、店長は一応おじさんで、長兄はただのバイトらしい。


「まあまあそう言いなさんな、美少年www」


 コンテナハウス内で黙々とフランクを焼く、忌々しい物言いのロン毛のメガネも僕の兄だ。石橋(はるか)24歳独身、化粧品メーカー勤務の美容オタクだけあって、美容に気を使い過ぎて…日焼け止めの塗りすぎで顔色が真っ白になっている。真っ白な顔でかき氷を削ってんだから、ちょっと見た感じ幽霊っぽいというかさ。


「美少年とかウケるwwwせめて美青年と言えwww」


 横で商品受け渡し口の汚れを拭いている森川さんがめっちゃウケてるんだけど、ちょっと失礼じゃないの。


「あのね。今日は僕だって水着着てるんだから、そこは女性で通してもらわないと困るんだけど。」


 昨日買ったばかりの水着なんだからさ。…まあ、味もそっけもない、ただの黒い水着だけど。…仕方ないじゃないか、僕はオフショルダーのかわいい奴なんか似合わなくてさ!!結局黒の無難なビキニになったんだけど、なんかつまんないな…。水着ってのはさ、やっぱりキャッキャして選ぶのが一番楽しいというかさあ!いや、そりゃあもう、昨日の由香や布施さんや森川さんの水着選びはね、楽しかったよ?!どれがかわいい、どれが似合う、胸のラインがかわいいとか、フリルがどうだとか、デザインが魅力的だとか!!


 由香はフリル付きの空色ビキニに、マリンブルーのロングパレオを巻いていてかわいいくせにセクシーに魅せている。僕の選んだフリルに間違いはなかったな、うん。


 布施さんは悩みに悩んで結局アンダークロスデザインのグレージュカラービキニにしたんだけど、立派なシックスパックがね?!本気で鍛えてる腹筋女子は違うな。…そうそう、ラクロスの大会は3位で終わったんだって。残念ではあったけど、おかげで夏季集中講座も半分出ることができて、単位もレポート提出で何とか取れそうらしい。


 森川さんはビスチェタイプのふわふわしたビキニに、ロングタイプの羽織を着てるんだけど…相当、かなり、素晴らしく、胸の部分がね、盛りあがりがね?!いつものゆるゆるコーデじゃ全然気が付かなかったけど、森川さんの隠れダイナマイト体型に、心底驚いている僕がね?!


「彼方は何だ、海パンじゃないのか、ぎゃはは!!!」

「黙れ、裸エプロン!!!」


 日に焼け過ぎたマッチョボディに、桜色のレースをあしらったエプロン着用とかさあ!!!次兄が選んだんだけどね、そのセンスが本当にわからない、意味不明だ。僕はこのセンスに乗っかる気はないので、いつもデニムのエプロンを持参しているわけだけど。


「はい、みんなお疲れねwwwこれ、食べて!私からのおごり!」

「「「わーい!」」」


 次兄がかき氷を4つ差しだしたので、僕たちはありがたくいただいて、パラソルの下へと向かう。ずいぶん働かせたくせに、かき氷だけで済ませるつもりじゃないだろうね?!あとでしっかり元を取らねば。


「彼方のお兄さんって面白いね!!」

「それはどっちの?」


 由香がイチゴのかき氷を崩しながらにこにこしている。いつものくるくるふわふわの髪が、かわいらしく耳の横でお団子になっているから…ちょっと新鮮だな。水着の色に合わせた水色のピアスが涼し気に揺れていて…つい触りたくなるというか。


「二人とも面白い、つか、遥さん、めちゃ石橋君に似てるな、ビビったwww」

「そうそう、色白いけど、ほぼカナキュンだよね、何、双子だったの?」


 そう、次兄は僕とうり二つなんだよ。身長もほぼ同じで、体重もほぼ同じ。ずいぶん、ずいぶんいろいろと大変な目にあってきて大変だったので、今は極力似ないように髪型をそろえないという事が、僕と次兄の間で密約されていたりして。僕は髪を長くするつもりがないので、必然的に次兄の方が長くすることになってしまうわけだけれども。


「違うよ、次兄は5歳上なんだ、化粧品オタクだから美肌で若く見えるけどけっこう年行ってるのさ。」

「そんなに上なの?!見えない!!」

「すげえな、生き血でも吸ってんじゃないの…。」


 森川さんはかき氷をストローでジュージュー吸ってる…ちょっと、先にシロップ吸っちゃったら後で味がなくなるよ?…まあ追加してもらえばいいか。布施さんは…相変わらず素早いな、もうほとんどレモンのかき氷がないぞ…。


「生き血かどうかはわからないけど、毎朝美容ドリンクを飲んでるよ、なんか泥みたいなやつ。」

「ちょ、ちょっとだけ飲んでみたいかも…。」


 確かレバーペーストだのモロヘイヤだの朝早くからジューサーでぐるぐるやってるんだよ。


「本気?由香の勇気は恐れ入るな…じゃあ今日うちに泊まりにおいでよ、そしたら飲めるよ。」

「今日?いきなりはちょっと…着替えもないし準備も…。うーん…。」


 あれ、遠慮してるのかな?


「大丈夫だよ、服は僕のを貸すし、下着は買いに行けばいいでしょ、僕のベッドは狭いけど、くっついて眠ればどうってことない…。」

「!!!あのね、バイトあるから、うん!!また今度ね?!」


 由香が崩し切ったかき氷を一気にかきこんだ。ああー、そんな食べ方すると!!


「ッ、くぅー!!あ、頭がイタイ…。」

「ユカユカ…かわいそうに…。」

「石橋君も大概にしとけよ…。」


 何言ってんだい、僕はただお泊りのお誘いをしただけなんだけどな。冷たいかき氷を頬張りすぎた由香は真っ赤な顔をして俯いている。ははーん、日焼け止めが汗で落ちたんだな、あとでちゃんと塗り直さないとね。次兄なら強力な日焼け止めをわんさか持ってるはずだ、あとでがめてこよう。



 平和な海で、時折海藻遊びをしながらレンタル浮き輪につかまって足のつかないところまで泳いだり、砂浜で穴を掘ったり、ビーチボールで遊んだり。…思えば昔は毎日この海で遊んでたんだけどな。中学に入ったあたりから海で遊ばなくなって、高校になってからは海はバイトする場所で。僕は久しぶりに海辺の遊びを楽しめて大満足だ。


 夕方になり、着替えを済ませた僕たちは、閉店した海の家の前でベンチに座りながら波をぼんやりと見つめる。まだ日は高いけど、夕方5時にはみんな帰ってしまうんだ、この海岸は。


「あたし初めての海がこの海でよかった。ヤンキーもいないし、見どころたくさんあるし。」


 森川さんの海デビューは大成功且つ大満足だったようだ。僕の海が褒められてるようでなんかうれしいな。


「ね!ホント、海ってしょっぱくて、おもしろいよね!めっちゃ楽しかった!」

「ユカユカ、なめたの?!」


 由香も何気に海はほぼ初だったようだ。テンションが高くて…なんだかわいいじゃないか。


「だって!私川なら何回か行ったことあるけど、海ってほとんど行った記憶が残ってなくって…。つい、確かめたくなったっていうかっ…!舐めない?気になるよね?!」

「あたしも舐めた…。」


 僕はこの海の水を使って塩を作ったことがあるから…なめたことになるのか?あれはいつの夏休みの自由研究だったかな。


「おーい!魚介焼けたから食ってけー!」


 大あさりにハマグリ、サザエにふぐの干物、エビにイカ…トウモロコシまである。なんだ、大盤振る舞いだな。長兄が何だかはりきっているようだが、これはいったい。


「わーい、いただきー!!」

「いいんですか!!」

「何この大きい貝!初めて見たんだけど!!」


 海の幸に舌鼓を打つ、若い女子。そしてそれをつまみにビールを飲む…おっさん二人!!ちょっと、いかがわしい目で僕の大切な人たちを見てるんじゃないだろうね!!


「食べ方がわからん…。」


 途方に暮れる森川さんのさらを長兄が奪い取り、焼けた貝をはがしている。それをおとなしく待つ森川さんが何だかお駄賃をもらうのを待つ子ネズミみたいで…ダメだ、笑ったら!!


「モーリーの待ち方かわいいよね。」

「すごく餌付けしたくなる…!!!ぷっ、く、くくく…!!!」


 由香も布施さんもウケている。なら僕も笑っていいな、うん、ははは…!!!


「にーちゃんハマったな、あれ。」

「はッ…?ちょっと!!僕の友人なんだからおかしなマネしないでよ?!」


 次兄の一言で、僕の笑いは止まり…やけにニコニコした長兄と、おとなしくエビの皮をむいてもらっている森川さんの姿が、やけに目に残ったのだった。



しばらく不定期掲載にします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 16/16 ・今日もあまあまでした。ごちそうさまでした。 [気になる点] 腹筋、良いですよね。 [一言] 化粧品オタク、なんだろう…闇が深そうに見えてしまいます。
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