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お疲れ様

「「「「おつかれー!」」」」


 学生会室にお互いを労う声がこだまする。重なる声は、僕、三上先輩、早瀬先輩、河合先生。結城先生はみたらし団子を食べているし、相川先輩は大きなテーブルに突っ伏している。


「石橋君、こちらの女子は、新しい彼女?」


 三上先輩が森川さんを見てニコニコしている。彼女って何なんだ。


「違います、学生会に入ってくれる貴重な人材を確保したんです。」

森川桜子(もりかわさくらこ)です、ども。」


 森川さんが椅子から立ち上がってお辞儀をしている。前髪が邪魔でよく表情が見えないな。せっかくのヘーゼルアイがもったいない。


「森川さん、ようこそ学生会へ。私は会長の三上です、身長低いね、私と同じくらいかな。…確かに有望だ!!」

「ほめられちゃった、てへー。」


 褒められたのか?この場合。まあいいや、照れてる森川さんも座敷童みたいでかわいいじゃないか。


「私は会計の早瀬です。あ、会長と私は三年ね。で、団子食べてるのが結城先生で、撃沈してるのが二年の相川さん、河合先生は知ってるんだっけ?」

「美学なんで大丈夫っす。授業が脱線しがちなスイーツ先生。」

「おい!脱線しがちってなんだ!!」


 テーブルの上にアンケート用紙を広げていた河合先生が憤慨しているようだが、事実だからな。すぐにどこで食べたケーキが美味かったとか、どこの国で食べた飴細工が美味かったとか脱線しがちでなかなか授業が進まないんだ。そのくせレポートを書かせがちで…まったく困ったもんだよ。


「おっす!おら図書館のユーキ先生!本借りに来てね!!」


 五本入りのみたらし団子を食べ終わった結城先生が、空のパックをゴミ箱に投げ捨てながら右手を上げる。次のパックを袋から取り出して…あれはフランクじゃないか!!どれだけ食べるの、このおっさん…。

 相川先輩はまだ撃沈してる。あんなに机にべしゃっと伏せてたら自慢のつけまつげがつぶれちゃうんじゃないの…。


「おーし、じゃあ、新メンバー紹介も終わったことだし、反省会やるぞー、おい相川嬢!!起きろ!!」

「うう…久留間くん…ラインも交換できなくて…終わった…。」


 うわあ…もっそり顔をあげた相川先輩の顔が、ひどい。アシンメトリーなお化粧とでもいえばいいのか。アイメイクが涙で伸びちゃってパンダみたいになってる。


「終わる前に、始まってすらいないことに気づきなよ…。去年も同じことしてたじゃん。」


 早瀬先輩の声があきれ返っている。


「去年はライン交換したもん!今回は運命度も高くて!!でも駄目だった―!!!」


 ああー。またテーブルに突っ伏しちゃった。


「…運命度って何だろ。」

「さあ…心の琴線に触れたという事かな?」


「なんだ、うまいこと言うな!まあいいや、相川嬢は置いといて、アンケートから手付けるぞ。」


 森川さんと小声で話してたらしっかり河合先生に気付かれてしまった。この先生意外と細かいところで人の話聞いてたりするから侮れないんだよなあ。


 アンケートは今日の旅行の満足度を調べて、来年以降につなげるために取っているらしい。

――――――――――――――――――――――――――

今日の行き先  1)満足 2)普通 3)変えてほしい


行きのバスレク 1)大満足 2)良かった 3)普通 4)つまらない 5)ヒドイ

帰りのバスレク 1)大満足 2)良かった 3)普通 4)つまらない 5)ヒドイ


案内役について 1)大満足 2)良かった 3)普通 4)つまらない 5)ヒドイ


何か感想がありましたらお願いします

――――――――――――――――――――――――――


「今ざっと並べてみたけど、感想記入率に差がありすぎる!!イケメンのところは100%…文字数もハンパないのはさすがだな…。」

「石橋君たらしまくってたから、当然の結果だと。」


 ちょっと待て、なんだその意見は!僕はややきつめに森川さんに視線を向け…!!


「たらしまくってたって何だい。」

「うーん確かに、帰りに握手会もしてたもんね。来年はさ、石橋君のワンマンショーやってもいいんじゃないの。なんか写真待ちとかされてたじゃん。」


 あれはみんなのテンションが上がりすぎてね?!ノリでね?!三上先輩の案は却下だ!!


「石橋君のバスに乗りたがる人が多くなりそうだなあ。バス座席選択式にしてみる?」

「誰も乗りたがらないバスが出るぞ。却下却下!!」


 なんで河合先生の機嫌が悪いんだ。やけに乱暴にアンケートを確認しているじゃないか。


「バスレクの自己紹介が楽しかったとか、イケメンとの触れ合いが良かったとか…あとラブラブが過ぎるという意見も多いな。なんだ、全部バス旅行の感想が良かった以上じゃないか。イケメンの歌が最高という意見も多いな、よし、やっぱり来年はステージ借りてワンマンショーを…。」

「やめてくださいね?場所を借りる費用を捻出するくらいなら、参加者にクレープ引換券でも配った方がいいですよ。」


 ステージ?!とんでもない!!断固拒否するぞ!!


「石橋君の歌声は…まさに天使の歌声だったので。」

「マジか!!文化祭で一席設けよう、うん。ステージ企画は決まったな。」

「勝手に決めないでください!!」


 ステージ企画ってなんだ!!バスの中という密閉空間であれほどの辱めを受けたというのに、全学生や近隣住民ものぞくであろうステージで僕が歌う?!冗談じゃない!!


「クレープがいいよ!!いやいや、食べ放題でもいいな、がはは!!!」

「食べ放題だと予算完全にオーバーだよ?参加費が必要になっちゃう。」


 早瀬先輩は会計だけあってしっかりした意見を出してる、さすがだ。


「食べ放題割引券配るとか?…でもそんなにみんな食べ放題行きたいかなあ。」

「ケーキセット引換券くらいならいいんじゃないですか。女子大生はどっかのおっさんみたいにがつがつ食べないんじゃないですか。遊園地は遊びに行くところであって、食べに行くところじゃないし。」

「じゃあ俺と河合君だけにくれよー!」

「却下です。」


 新入生のための企画なのに、なんでおっさんに融通利かせなきゃいけないんだ。


「じゃあ、バスレクはイケメンのやつ、来年やることにするか?どんなのやったの。俺達でもできる?」

「無理。石橋君のタラシがあって初めて楽しめる仕様だった。はっきり言ってチートレベル。一般人には太刀打ちできないこと間違いなし。」


 森川さんの素早い返答に、三上先輩と早瀬先輩と河合先生がおかしな顔をしている。結城先生はフランクを食べ終わってジュースを飲み始めた。相川先輩は…化粧を直し始めたぞ。何やってるんだ…。


「タラシてない。」

「本人まるで自覚無しとかウケるw」


「ああ…うん…イケメンはこういう人だった、うん。ハイハイじゃあ、次のバスね。」


 河合先生がいくぶん呆れた感じで僕を見てるんだけど…なんだ納得いかないな。


「うちのバスは最初に日程の説明をして、マイク回して自己紹介してもらって、座席の縦列対抗で伝言ゲームやったけど、あんまり盛り上がらなかったよ。景品余っちゃって最後バスから降りるときに配っちゃったもん。」


 三上先輩のバスはあまり盛り上がらなかったらしい。感想も無記入がボチボチあって…でも五段階の満足度に〇を付けるところは普通以上が多い。


「私のバスも似たような感じ、大学内でわからないことを聞く質問コーナーが結構盛り上がったかな。皆専門分野の選考で気になってることとかあったみたいで。クイズゲームは一回しかできなかった。来年は質問コーナーだけで行こうと思うんだけど。」


 早瀬先輩のバスは結構盛り上がったみたいだ。質問コーナーはいいかもしれない。新入生はわからないことだらけで、不安に思う事もあるだろうし。順調に三年になった先輩の言葉は何よりの安心感をもたらしてくれるはずだ。感想も質問コーナーが良かったという記入が多くて…なんか質問を書いてる人もいる。この回答は掲示板にでも張り出すのかな。


「私のバスは…お化粧豆トークで終わっちゃった感じ…。クイズで出した問題がコスメ系のだったからお化粧ラブっ子たちにはウケが良かったけど、ノーメイクの子たちはあんまりノってくれなかったの。バスレク用のお菓子が余ったからバス内でおやつ袋って言ってずっと回してて、最後は食いしん坊の子が全部持ってったかな。」


 相川先輩のバスは一部盛り上がったみたいだけど…。結構辛辣な感想が多いな。聞きたくないメイクの話が嫌だった、テンションが高くて耳が痛かった、帰りのバスのテンションの低さがダメージ喰らった…。ここにきて普通以下に〇がついてる割合が増えてきた。これはよろしくないなあと思ってアンケートの束から目をあげて相川先輩を見ると…すごいな、いつの間にかいつものばっちり化粧女子になってるよ。


「俺のバスはだな!大学七不思議や東洋美術史の謎、構内人気スポットに学食裏メニューまでいろいろと説明したんだ!学食クイズはなかなか盛り上がったぞ。バスレクのお菓子はちょっと余ったけど、俺のおやつにしたかな。」


 河合先生のバスは…先生は盛り上がったと豪語しているけど、この感想欄の不満はどうなんだ。行きのバスがうるさかった、帰りのバスもうるさかった、学食情報はありがたい、お弁当持ってきてるのに延々学食の話を聞くのがきつかった、東洋美術史の講義を受けているとしか思えない、西洋美術についても話してほしかった…。たまに良かったに〇もついてるけど、ヒドイにもついてるな。つまらないにつけてる人が多い。


「俺のバスは面白い本クイズをやったんだ。作者当てとか結構盛り上がった!バスレクのお菓子はつまんでたらなくなっちゃったんだ、がはは!!!もっといっぱい用意しないとだめだな、来年は!!!」


 結城先生のバスは…なんだこれは、苦情ばかりじゃないか。行きのサービスエリアに着くまでは良かったけど、それ以降バスの中が食べ物のにおいがすごくて気分が悪くなった、全然知らない本の話が続いて意味が分からなかった、図書館利用マニュアル紹介が長すぎる、声がでかいのにマイク使うからハウリングがすごくて耳が痛かった…なんだこれ、ヒドイに〇が付き過ぎじゃないの!!


「今年は辛口が多いなあ…。」

「やっぱバス一台につき役員一人ってのがきついんだな!がはは!!!」


 むむ。ひどい評価をもらってるおっさん二人が言い訳がましいことを言ってるぞ…。


「いい大人が言い訳してるとか、どーよ。」

「ダメだね、これは。」


 僕と森川さんはひそひそと同意見を交わす。


「ま、事故もなく無事に帰ってこれたんだからよしとするか!じゃ、また来年ってことで!!」


 かるっ!!!こんなんでいいの?!もっとこう、バスレクの精度を上げようとかさ、コミュニケーションが取れる企画を練るとかさ?!


「じゃあ、執行部活動報告書の記入だけ頼むわ!!俺土産もん腐っちゃうとヤダからもう帰るね!!おつ!!」


 結城先生は空のペットボトルを抱えて学生会室を出ていった。この短時間に三本飲み干したとか!!


「よし、イケメン、この紙かいて大学事務室に出しといて!」

「イケメンって言わないでくださいよ!いきなり僕が書くんですか?!こんなの書けるはずが…。」


―――――――――――――――――――――――

学生会執行部活動報告書


活動企画名  親睦旅行

行先     無二球ダイランド


参加者    全学部新入生


執行部員名  三上春奈(英米3年)

       早瀬麻衣(英米3年)

       相川由宇(人間2年)

       石橋彼方(美学1年)


引率教員   結城和重(図書館司書)

       河合真理(東洋美術史助教授)


内容


――――――――――――――――――――――――


「この内容のところに、イケメンの文字で今日のこと書いて出してくれたらいいんで。」

「そんな適当な!!これ公的文書なんじゃないんですか!!」


「大丈夫だよー!あたし去年遊園地でみんなで仲良く遊びましたって書いたけど怒られなかったもん!」


 ばっちりメイクの相川先輩がニコニコしていうけどね?!そんな小学生じゃないんだからさ!!!


「なんかすげえとこ入ったかも…ヤベえな…。」

「森川さん!今さらやっぱりやめるとか言わないよね?!」


 学生会の危うさがここにきて本格的に露呈し始めているんだけど!!


「逆に面白すぎてやめられないから安心しろw」

「それは良かった!じゃ、頼むわ!はい、今日は…かいさーん!」


「はいお疲れー。」

「おつー!」

「お疲れ様。」


 なんて…なんて緩さだ!


 僕は呆然とした面持ちで…手渡された報告書を手に、校舎棟の大学事務局へと、森川さんと連れ立って向かうことにした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 13/13 ・今日も楽しかったです。 [気になる点] ――――――――――――――――――――――――――      罫線というものがあってだな… ──────────────…
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